銀河は黒く仄見える
フィールドに配置された障害物の裏に回りつつ、三人で作戦会議をします。
「さて、作戦は?」
「各個撃破しかねーな」
「じゃあ私バイク行きます」
「オッケー。アタシは馬行きてーかな」
「私は残ったサーファーか。とりあえずこれで戦ってみて、難しかったら変えて行こう」
私たちの能力って相乗効果が全くと言っていいほどないので、結局各個撃破になりますね。作戦会議の意味とは?
まあ、逆にいえば一対一に持ち込むことで相手の連携を封じられるってことでもあるので、悪くはないと思いますが。
そんな感じで私たちは散開し、相手の前まで移動しました。
「俺の相手はお前か?」
「ええ、よろしくお願いします」
「おう! それじゃあ早速戦おうぜ!」
エンジンの音を響かせて、鈴井は勢い良く突っ込んできました。
能力を使用して動きを見つつ、久しぶりに敵の能力を暴いてみます。
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『ギンガ NEO-49』 所有者:鈴井ホロウ
能力1:刀霊のバイクへの変形
能力2:ホイールの形状変化
能力3以降:不明
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能力1は目の前で見たので既に明かされていて、その分能力2まで見れるようになっている感じですね。
眼を鍛え続けただけあって、前よりも圧倒的に早く見ることができるようになりました。蛇薔薇に対しては圧倒的に格上だったというのもあって全く見れませんでしたけどね。
ひとまずホイールの形状変化というところに気をつけつつ、攻撃を挟めそうなタイミングを探りましょう。
「ヒャッハー!!!」
叫びながら突っ込んでくるのを余裕をもって回避してパッシブを発動させ、まずは起点となる一撃を叩き込みます。
普段はギリギリでの回避を行なっていますが、形状変化相手にそれをやるのはかなり危険ですからね。
と、そのような感じで戦闘を続けていると、流石に相手に感づかれてしまいました。
「お前全然ホイールに近寄らねーな? 俺そんなに人前で能力使ったことねーんだけど、見たことあるのか……もしかしてファンか?」
「残念ながら貴方を見るのはこれで二回目です」
「何だ、ファンじゃねーのか。まあいいや。分かってんなら不意打ちを狙わなくても良いわけだ、行くぜ!!」
その言葉と共に、鈴井は突如バイクごと三メートルほど跳躍しました。そして、その勢いのまま私の元に迫ってきます。
基本的に空中では大きく動けませんから、本来ならばここでカウンターを挟むのがいいのですが……流石に仕掛けてきますよね。
接近するバイクを回避しようとした瞬間、鈴井は刀をバイクに勢い良く突き刺し、叫びました。
「《斬裂輪》!!」
その瞬間、バイクの前輪が巨大な回転ノコギリの様に変化しました。
先程まで表示されていた《猛幕海鳴》の目印である赤いマークは消滅し、この攻撃がガード不可であるということをシステム的に知らせてきます。
まあ、チェンソーをガードするのは無理でしょうね。
ガガガガガガっと音を立てて、私の背後にあった木製のオブジェクトが切り倒されていきます。
見た目通りの威力を目の当たりにしつつ、私は素早く彼の背後に回って攻撃を仕掛けました。
「《火神鳴》!!」
「あぶねっ!」
急加速し、前方へと逃走する鈴井。
隙をついた居合の一撃は、彼のレザージャケット風の着物を薄く斬るにとどまりました。
オブジェクトに引っかかってる間に攻撃しようと思ったのですが、攻撃が決まる前に切り倒したみたいですね。
「良く避けれんなあ、自己強化型か? 支配型ってこともあるかもしれねーけど……」
「?」
「お、能力のタイプとか知らねーの? 今度調べてみな、戦いやすくなるぜ」
「アドバイスありがとうございます」
そう言いながら、私は《襲雷弩刀》を使って鈴井に肉薄します。刀による数度の攻撃の応酬の末、今度は本体に攻撃を通せました。
それと同時に、能力看破の通知音が響きます。
新たに表示された三つ目の能力は「認識阻害の煙」……どういう能力なんでしょうか? やはり【洞察眼】で得られる能力の情報にはクセがあるというか、詳細に語られるわけではないのでそこから色々考えていくという使い方になりますね。それでも相当強力ですが。
「お前、中々やるじゃねーか。名前は?」
「リクドーです」
「そうか、リクドーか! 初めて聞く名だが気に入った! 本当はもっと戦っていたいんだが……冠羽とビートが押し負けてるからな、次で決めさせてもらうぜ!」
何か使ってきそうな口ぶりで、彼は勢い良く突っ込んできます。
それを避けようと身構え——寸前、彼はハンドルを切りました。
やはりただの攻撃ではないようで、そのまま彼は私の周囲をぐるぐると走り回り続けます。
バイクによって巻き上げられた土煙と、バイクそのものから放出される排気煙。
その二つが合わさって、私の周囲は見る見るうちに深い霧のようになって行きました。
なるほど、これが認識阻害の煙ですか。
確かに認識阻害です。この霧の厚さなら、自分がどこを向いているのかすら分からなくなるでしょう。
……普通の人間なら、ですが。
極振りの上、それを増幅する能力まで合わさって、私の眼にはハッキリと、周囲をぐるぐると走り回っている鈴井の姿が映っていました。
方向を変えて突っ込んできた彼に合わせ、《霹靂神》を叩き込みます。
「うおお!?」
直前で回避行動をとられたため直撃とは行きませんでしたが、それでも左腕は持って行きました。これで多少運転の精度は落ちるでしょう。
「どうやって見破った!? 耳か? いや……動きは目が先行していたな! つまり見えていたのか」
「まあ、眼は良いので」
「なるほどな、一筋縄じゃ行かねーってわけだ。それなら俺も本気にならねーとな」
フルフェイスヘルメットのズレを直し、右手でハンドルをしっかりと掴んで、それから鈴井は呟きました。
「《虚深く眠れ》」
鈴井が能力名を口にした途端、タイヤと地面が擦れるような甲高い音が響き——私の視界からバイクが消えました。
「……消えた?」
『ええ……見えないわね』
煙の奥には彼の姿はなく、それどころかバイクの音すら聞こえません。まるで消え去ってしまったかのように、彼の存在を示す全てが消滅してしまっていました。
認識阻害の煙を私の眼が上回ったように、彼の《虚深く眠れ》が私の眼を上回った……ということでしょうか。
制限ルールである以上、眼の能力が競り負けたというのはにわかには信じ難いですが、現に今起きているわけですし……いや、もしかしたら技の発動自体がブラフで味方の救援に行った可能性も……。
初めて見る能力に、私は次の行動を考え続け——
——背後で、甲高い摩擦音が聞こえました。




