爆走standby
「さてと……えいっ」
死体からアイテムを回収し終えた蛇薔薇は椅子の上に立って、それから自分の眼を刀で一文字に切り裂きました。
もうツッコむ気力もないんですけど、傍から見たら滅茶苦茶ヤバいです。
そんな私の様子に気付いたのか、蛇薔薇が説明してきます。
「こうするとよく見えるんだよ」
言っている意味がわかりませんでした。
もうあれですね、そういう能力があるって受け入れるしかなさそうです。
実際、刀霊の能力って今まで見てきただけでも本当に多岐にわたるので、それくらい割り切ってないとこれから先戦っていけなそうではあります。
「じゃ、俺はもう行くわ。龍子に『スタジアムは任せろ。“団長”共々貸しにしとく』って言っておいてくれ」
「団長? ……まあ、わかりましたけど」
まだ蛇薔薇のことは警戒していますけど、伝言くらいならいいでしょう。
最後まで嘘を吐き通そうかとも思ったのですけど、よくよく考えたらトーナメント表が出た時点で名前が載っているわけですし、流石にバレてそうですから普通に返事をしておきます。
またな、と言いつつ彼は再度身体を複数個所斬りつけて、そのままもの凄いスピードで去っていったのでした。
「……人と接するのってこんなに大変なことでしたっけ」
「ゲーム内のコミュニケーションは見た目現実と似ているのに性質が異なるというのが厄介なところだね。単純に蛇薔薇が変な人間というのもあるけれど」
「というかそれが全てでしょう。トップランカーってみんなあんななんです?」
「流石に全員がそうというわけでは……いや……うーん……」
滅茶苦茶言いよどんでますし眼が泳いでました。
「大体あんな感じだね」
「それで結局認めるんですね」
「基本的にゲームにのめり込んでいる人ばかりだから、なんというか、独特の世界観を持っている人が多いんだ」
「あー……そういうのは確かにありそうです」
実際、MMOというジャンルや刀霊という唯一の能力を与えるようなシステムがあるというのも相まって、そういう傾向は強そうですよね。
さて、それはともかく、気が付くといつの間にか周囲に野次馬が集まっていました。客席で戦闘が発生していたわけですから当然なんですけど。
「一先ず、場所を移そうか」
「そうですね」
私たちがやったわけではないのでむしろ被害者なのですけど、傍から見たら私たちがやったように見えますし、警備的なNPCとかが来ると厄介ですし。
というか、爆発によって客席とか結構ボロボロになってるんですけど、これ大丈夫なんでしょうか。
まあ直す義理もないので、そのまま足早に立ち去ったんですけど。
――――――
その後何時間か経って、控室。
いよいよ私たちの出番が目前に迫ってきたというタイミングで、ようやく龍子が帰ってきました。
「ふう……よかった、間に合ったぜ」
「結構ギリギリですけどね。戦えます?」
「まあ数分くらい前まで戦ってたからな。問題ないぜ」
「さいですか。……あ、そうだ。そういえば先ほど伝言を頼まれたんです」
「伝言? アタシにか?」
「ええ。さっき蛇薔薇って人に会ったんですけど……」
その名前を出した途端、急に龍子の雰囲気が変わりました。
「……何かされたりしなかったか?」
「いえ、特には。龍子を探していると言っていて、追手だと思って関係ない振りしたんですけど見抜かれてしまったようで。『スタジアムは任せろ。団長ともども貸しにしとく』と言っていましたよ」
「あー……そういう感じか。ほんと気まぐれなやつだな」
「追手とかじゃないんです?」
「ああ、アタシの問題とは別件だ。まあ、あいつはあいつでアタシの弱み握ってるから問題ではあるんだけど……別に敵対しているわけじゃない」
そうだったんですか。別に嘘ってわけじゃないでしょうけど、最強って言われてるようなプレイヤーと普通に面識があるのはちょっと驚きました。
結構交友関係広いんですかね?
なんて考えていると、入り口の方から声がかかりました。
「チーム【万華郷】の皆さん、準備お願いします!」
「……まあ、蛇薔薇については後で聞くわ。初戦だし集中していくぞ」
「ああ、そうだね。まずはここを突破しなくては。相手は確か、あのバイク乗りのチームだろう?」
「鈴井ホロウでしたっけ。機動力が高いのは脅威ですが……それにさえ対応できればどうにかなるでしょう。多分」
機動力が高いというのは、裏を返せば孤立しやすいということでもありますし。
強さ厄介さを試合中に考えて、バイクを狙うか他の二人を狙うかを決めればいいでしょう。
「リクドーさん、龍子さん、ベアトリーチェさん……で、間違い無いですね?」
「はい」
「では、ついてきて下さい」
案内係の後をついていくと、スタジアムの中央、光の障壁によって四つに区切られた区画のうち一つに案内されました。
準決勝までは四試合同時に行われるみたいです。ただ、一応決勝でも戦闘範囲は制限されるらしいので、四分割にされたことによってフィールドが狭くなっているということはないみたいですね。
さて、対戦相手は私たち同様に三人。
上裸で小麦色の肌を衆目に見せつけている男、ビート。
髭をたくわえた筋骨隆々の男、冠羽。
そして、フルフェイスヘルメットのようなもので顔を覆ったプレイヤー。
このゲームでは顔を隠したプレイヤーの情報はかなり近づかないと見えないという仕様になっているので名前は見えませんが、試合前に見た対戦表から消去法で彼が鈴井ホロウというプレイヤーなのだとわかります。
「両組、準備を行ってください」
審判がそう言って、私たちは同時に刀を抜きました。
この大会では、刀霊の相性によって一瞬で試合に片がついてしまうという事態を防ぐために、試合が始まる前に準備をする時間が僅かに存在しています。
刀霊を変化させるタイプのプレイヤーが後れを取らないようにという感じですね。
基本的にはほとんどのプレイヤーがこの準備時間に刀霊の能力を発動させておくようですし、私も一応能力を発動させることにしました。
「シキ、行けますか?」
『ええ、勿論。任せて頂戴』
「頼りにしてますよ――『極彩色』」
私に合わせるように、龍子とベアも能力を解放します。
それを見てから、相手チームの面々も動き出しました。
「さァ。波に乗ろうぜ、『ジョニー』!」
「……征くぞ、『赤渡刃』」
「エンジン全開、『ギンガ NEO-49』!!」
その言葉とともに、ビートの持つ刀はサーフボードに変化し、冠羽の持つ赤い刀は大きな薙刀へ、刀霊は巨大な馬へと変化して、最後に鈴井ホロウの刀霊が巨大なバイクに変化しました。
……え? なんか全員機動力高そうなんですけど。
「第一回戦!【万華郷】VS【暴走HUNTERS】、開始!!」
「さあ、精々食らいついて来な! 俺達のスピードによ!!」
波の轟き、馬の嘶き、エンジンの唸り。
三つの音が交差して、私たちの初戦が幕を開けたのでした。
ようやくトーナメントがスタートしました。
実生活も若干落ち着いて来たので投稿ペースは上げていきたいです。
それと、仇討つ魔眼がシリアス寄りなのでサクッと読める感じのも書きたいなと思い、「ユーカリの武器製作生配信(仮)」というものも投稿し始めました。
一応この小説と同時期のお話です。ゲームが違うので交差することはあまり無いと思いますが、よろしければそちらも読んでいただけるとありがたいです!
 




