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蛇の手

長くなったので2話に分割します



 私たちが会場に着くと、辺りは既に大量のプレイヤーで賑わっていました。

 予選のときはそれほどでもなかったのですが、今は開会式の直前ですからね。


 道ゆく人達の中には、NPCも結構います。

 この世界に住む人間にとっても結構なイベントなんでしょうか。まあ華王の気分次第で開催されるということで、プレイヤーが発端となっているようなものではありませんから、文化として根付いているのかもしれません。



「えっと、どっちのスタジアムでしたっけ」


「小さい方だな。まあ両方でけーけど、こっちだ」



 この六花刀技処には円形闘技場が二つ存在します。

 コロッセオとか、サッカーのスタジアムとか、まあ大体そんな感じですね。

 闘技場はどちらも大きいんですけど、収容人数の差もあって、比較的大きい方が制限なしルール用、比較的小さい方が制限ありルール用に使われるようです。

 開会式自体は大きい方でやるみたいなんですけど、その様子はホログラム的な妖術か何かで両方のスタジアムから見れるようになってるみたいですし、自分たちの出番のことも考えて小さい方のスタジアムに行くことに。



 さて、スタジアムの中に入って、とりあえず私たちは二階席の真ん中辺りに座ることにしました。

 ここまで来ると、そこまで人は多くないですね。小さい方のスタジアムとは言え、かなりの広さですし、結構余裕を持って座れます。



「さて……少し飲み物を買ってくることにするよ。二人の分も買ってくるから、リクエストがあったら言ってほしい」


「ありがとうございます。えっと、それじゃあ甘いやつで」


「アタシは何でも……いや、お茶で良いや」


「了解した。席を取っておく必要は無いだろうけれど、留守番は頼んだよ」



 そう言ってベアが去っていき、それから数秒後、不意に着信音が響きました。



「悪い、通話だ」



 ウィンドウを操作して、龍子は通話を始めました。



「あー、もしもし? 今ちょっと…………はぁ!? いや、マジで言ってんのかそれ。……確かにそうだけどよ……はあ……マジ出番までだからな?」



 ため息をつきながら通話を終え、彼女は申し訳なさそうに手を合わせました。



「すまん、リクドー! アタシもちょっと席外すわ!」


「まあ、通話の様子から何となく察してましたけど。ちゃんと試合前には戻って来て下さいよ?」


「ああ!」



 受付とかあったら済ませといてくれよと言いながら、龍子は刀霊に掴まって何処かに飛んで行きました。

 なんというか、龍子がどういう状況にあるのか未だによくわからないんですよね。

 相変わらず何かに巻き込まれているっぽいんですけど……謎です。

 まあ、龍子の方から言ってこないってことは多分私ではどうにもならないってことなんでしょうけど。



 さて、龍子が飛んで行ってからすぐに、スタジアムに法螺貝の音が鳴り響きました。

 続いて、低く良く通るような男性の声が響きます。



『さあ、既に多くの人々で賑わっているこの六花刀技処。今日からおよそ六日間に渡って行われる第四回神織華王御前試合が今まさに始まろうとしています!』



 その声に合わせて、客席から歓声が上がりました。なんか現実のスポーツみたいな盛り上がりですね。

 スタジアム中央には巨大なスクリーンの様なものが四面並んで浮かんでいて、その中央部にサングラスをかけた男性が映っています。



『前回に引き続き、第四回大会も司会並びに制限なしルールの実況は私クルーインが担当させて頂きます! 解説については、今まで通り前回大会の優勝者をお招きするという形になっておりますので、早速ですが登場していただきましょうか。雪乃(ゆきの)さん、どうぞ!』



 カメラが少し引いて、画面横から黒い髪の女性が現れました。



『はぁい、こんにちはぁ。よろしゅうお願いします〜』



 美麗な着物に彩られた彼女は、その端正な顔に上品な笑みを浮かべながら手を振りました。



『うち、解説言うても、そないなことよう分からんのやけど、何でか選ばれてしもて……』


『いや前回王者が何言ってるんですか。実力は折り紙付きってやつですよ』


『そやけど、うちは生まれも育ちも北海道やさかい、いつかボロ出る思うわ……』


『いや心配してたの口調の方なんですか!? というか京都の人じゃなかったんですね……何でわざわざ京言葉を?』


『そやかて、雅やろ?』



 そういえば、さっきの作戦会議で名前の上がったアルティオというプレイヤーは前回大会で準優勝でしたっけ。とすると、彼を倒したのがこの雪乃というプレイヤー……ということなんでしょうね。



『えー、それでですね。本来ならここで華王から開会のお言葉があるんですが……先ほど連絡がありまして。華王いま寝てるみたいです』



 えー……いや、確かにさっき寝るって言ってましたけれども。



『けったいな人やわぁ……あないな人、王にして本当に平気なん?』


『まあ、公務はこなしているようですし……そういえば、雪乃さんって華王と同じ流派でしたよね?』


『……要らんこと言わんでええの』



「——雪乃の流派は四季仙流っつって、この神織の五大流派の一つなんだぜ」


「四季仙流ですか。そういえば予選の空間も四季が全面に出てました」


「雪乃と戦ってみたくね?」


「まあ、一度手合わせしてもらうくらいは…………え?」



 ……私今誰と喋ってました?

 なんかめちゃくちゃ違和感なく喋ってたんですけど、よくよく考えるとベアでも龍子でもありません。全く知らない人です。


 即座に席を立って横を見てみると、そこに座っていたのは一人の男性プレイヤー。

 目が完全に覆われるほどの長さの黒髪は寝癖が付いているかのようにボサボサで、それ以外にはこれと言った特徴のないプレイヤーですが、その立ち振る舞いに、私はなにか得体の知れない恐ろしさを感じていました。



「っ……どなたですか」


「俺? 俺は蛇薔薇(じゃばら)。イベント目当てに玄壌から遥々やって来た健気な観光客さ。よろしく」



 握手を求めるようにこちらに差し出された彼の手を見て、私は思わず一歩後ずさったのでした。


京言葉、間違ってたら申し訳ないです

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