作戦会議
森の中での戦闘の後、新たに二つのチームを壊滅させたところで、不意に声が響き渡りました。
『聞こえているか? まあ大丈夫だろうが』
その声は、先ほど聞いた華王のものと同じでした。
こんなこともできるんですね。まあ刀の中らしいですし、やろうと思えばできるのでしょう。
『さて、現時点をもって予選終了だ。もう少しかかると思ったが……前回に比べて戦闘が活発だったな。ある程度空間を狭めたのがよかったのかもしれんが、まあいい。とにかく、今この空間に残っている三十二組が本戦出場だ。喜ぶと良いぞ』
華王の声がそう告げた後、周囲の光景が解けるかのように変化していきます。
すぐにそれらは一つに集まって、気が付くと私たちは予選が始まる前の空間に立っていました。
「こちら側からは戦闘の様子を見ることはできなかったが、まずは良くやったと言っておこう。本当は余も観戦したかったのだが、余が刀の中に入ると何もせずとも力の均衡が崩れてしまう故な。仕方のない事だが」
そう言いながら、華王は刀を鞘に納めました。
「日程はそれぞれ把握しているだろうが、貴様らの試合は今日から始まる。各々休息を取るなりするがいい。はぁ……余も開会の儀までは寝るか」
眠そうに目を擦りながら去っていく華王の背中を見て、思わず呟きます。
「なんというか……癖の強い王ですね。国としては大丈夫なんでしょうか」
「その辺は他の国も大概だけどな。アタシが前までいた緋岸なんか、王はマトモだったけどほぼ傀儡だったし」
「玄壌の王は姿を現さないし、龍原と威鏡は方向性こそ違えど両者共にバトルジャンキー。詠清の王は『戦いは良くないよ』と言いながら殴ってくるような人間だから、華王は相対的にマシな方の王に見えるね」
滅茶苦茶ですね。普通に戦争とか起きそうです。
というか、このゲームって確か戦争要素あるんですよね。まだ私は見たことないですけど、かなり大規模なPvPになるみたいなのでちょっと楽しみです。
「さて、無事に予選も突破できたことですし、本戦に向けて作戦会議しませんか?」
「そうだね。とりあえず、この辺りの店に入るとしよう」
一旦会場を出て、私たちはベアに連れられてプレイヤーの店の並ぶ通りへと向かったのでした。
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テーブルに運ばれてきたピザを食べながら、私たちは作戦会議を始めました。
「さて、まずはリクドーの刀霊についてだけど……様子はどうだろうか」
「シキ、今はどうですか?」
声をかけると、シキは先ほどまでとは違って人型で姿を現しました。
『体調に関してはもう問題ないわね。ただ、新しい能力に関しては……ごめんなさい。もう少しのところだと思うのだけれど、上手く引き出せないの』
「なるほど。傾向としては、試合中に能力を解放できる可能性は充分あるだろうけれど……今回は無いものとして考えるのがいいだろうね」
「まあ、元からそんなん考えてなかったからな。別に問題ねーだろ」
「私としてはシキの体調が元に戻っただけで充分嬉しいですよ」
『ふふっ、ありがとう。出来る限り私の方でも頑張るわね』
先ほどの予選で私が倒したプレイヤーは計6人。頑張った甲斐あって、成長は促進されていたみたいです。
一応、これでも充分戦っていけてるので問題は無いんですけどね。
ただまあ、予選中に遭遇した遠距離狙撃のプレイヤーなど、かなり強そうな人も参加しているので能力は多いに越したことは無いですけど。
「……と、もうトーナメントの組み合わせが発表される時間だね。恐らく掲示板の方に誰かが貼るだろうから、ちょっと見てみることにしよう」
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274:中原
そろそろか
275:ウル
[画像1][画像2]
276:ぐらん
[画像]
277:BAR薔薇
[画像1][画像2] [画像3][画像4]
278:伊右衛門
多い多い
279:メメント林
おつ
280:ディープナイト
あんまり顔触れ変わんねーな
281:プレ3
雪乃は?
281ー1:アネット
今年は解説
282:挑戦寺克樹
アルティオ何で制限ありの方なんだ
282ー1:アトランティス
神龍寺ってアレじゃん、やばい奴
弱みでも握られてんじゃね
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貼られていた画像のうち、制限あり団体戦ルールのトーナメントを見てみると、探していた名前はすぐに見つかりました。
「あ……神龍寺のチーム、突破してたみたいですね」
「チーム名は『チーム神龍寺』か。そのままだね」
「とりあえず予選は突破してたみたいで良かったんですけど……場所が問題ですね」
チーム神龍寺はトーナメント表の左端で、私たちのチーム万華郷は右の方にあります。
つまり、神龍寺と戦うためには決勝まで行かないといけないということですね。
というか決勝まで行ったところで神龍寺が途中で敗退したら戦えません。
大丈夫なんでしょうか、これ……。神龍寺が言っていた「強いプレイヤー」とやらがどれだけ強いのかが気になるところですね。
「神龍寺以外のメンバーはアルティオと匿名って人たちみたいですけど、二人は知ってます?」
「アルティオってのは結構有名なプレイヤーだな。というか前回の大会で制限無しの個人部門に出てたし、なんなら準優勝だったはずだぜ」
「え、制限無しで準優勝って相当強いじゃないですか」
「ああ。ぶっちゃけ、能力が強さにさほど影響しないタイプだから制限ありルールでもだいぶ強いだろうな」
「それなら、一応決勝までは勝ち進みそうですね……こっちの匿名って人については何か知ってますか?」
「さあ、アタシは聞いたことねーな」
「私も知らないが……恐らく偽名だろうね」
「偽名って出来るんですか? システム的に」
「ああ。登録申請の用紙に名前を記入する欄があっただろう? だから、素性を隠して参加することもできる。そこまでして参加するプレイヤーはほとんどいないのだけれど、確か前例はあったはずだ」
「なるほどな。素性を隠してでも参加してーのか、もしもの時の隠し球って感じなのか……どちらにせよ、注意した方が良さそうだな」
制限ありルールのおかげでステータス的には差のない状況になりますし、刀霊の能力も一定段階以下に制限されますが、やはりこのゲームをやり込んだことによる経験の差は制限できないところですからね。
そこは後続の私にとってどうしても不利になってしまうところです。
「……つーか、アタシたちが決勝まで行けるかってのもあるんだからな? 制限ありルールったって、アタシだって制限のせいで火炎の無効化とか出来なくなってるしよ」
「そこはもう頑張るしかないですよ。ちなみに私たちが当たりそうなチームで知ってる名前とかあります?」
「あー、そうだな……基本的に制限ありルールってのはそんなに名の知られてねーやつが多いから、ほとんどは見たことねーけど……この鈴井ホロウってのは知ってるな。バイクで暴走してる奴だ」
「バイクで暴走……」
和風ファンタジーとめちゃくちゃかけ離れてますね。ピザ食べながら言うことではないですけど。
そういえば、私がこのゲームを始めてすぐの頃にバイクで爆走してるプレイヤーを見た気がしますが、あの人なんでしょうか。
「私もあまり知らないな……向こうの山の方には何人か知った名前もあるのだけれど」
「それならまあ、特別ヤバい人がいるわけでは無さそうですね」
「ぶっちゃけアルティオが特別なだけだからな。大会に出るタイプの有名プレイヤーは制限無しルールに行くのがほとんどだし」
と、そんな感じで作戦会議をすること二時間。
設定しておいたアラームが、開会式が始まることを知らせました。
「開会式か。どうする?」
「折角だし見に行きましょうよ。というかその後すぐに初戦ありますし」
「そうだね。ウォーミングアップもしておきたいところだし、移動することにしようか」
これから始まる本戦に向けて、私たちは歩き出したのでした。




