会敵一閃
視点変更の時の書き方をどうしようかなーと迷っていたり。
気がつくと、私は草原に立っていました。
一瞬、一人で飛ばされたのかと思いましたが、龍子もベアも近くにいます。
「ここは……?」
「華王の刀の中だな」
「刀の中……刀の中!?」
「そう言う能力なんだよ、華王の刀霊はな」
NPCも刀霊の能力を使えるというのは知っていましたが、これは何というか……規格外では?
言ってしまえば、人を自分の空間に引きずり込むってことですからね。
先程龍子が王はめちゃくちゃ強いと言っていましたが、それが意味するところを目の当たりにした感じです。
「こんな能力もあるんですね……やっぱ王だからこそなんでしょうか」
「まあ、こんな固有空間作る能力なんてNPC以外には実装できねーとは思うけど、皆伝までいけばみんな意味わかんねー能力になるからな」
えー……皆伝、怖すぎます。
「で、どうするか。アタシはあんまりバトロワゲーってやらねーからよくわかんねーんだけど、どうすんのが定石なんだ?」
「私もあまりやり込んでいるというわけではないのだけれど、こう言ったゲームにおいては戦闘の音を聞いて駆けつけてくるハイエナへの対策が重要になるね。ただ、それは全員が一位を目指すからこそ。32チームという枠にさえ入れれば良いこの予選においては、わざわざハイエナをする人間はいないだろう」
「……なるほど。戦闘で弱ったところを横からかっさらうってことか。確かにこのルールならやる奴はそういないだろうな」
まあ、極端な話、このルールなら最後まで隠れ続ければいいんですもんね。
わざわざ戦いに行くメリットは薄いわけで、なんなら戦闘の気配を察知したら逃げていくことが多いでしょう。
もちろん運悪く遭遇してしまえば戦闘になるでしょうけど、戦闘を避けるというのがこのルールでの定石であるように思えます。
「ただ、今回はリクドーの能力を覚醒させる為になるべく戦闘数を稼ぎたい。敵を探して片っ端から倒していくと言うのもいいのだけれど、こちらからハイエナを行えばより確実に安全に立ち回れるだろう」
「漁夫の利ってやつですね」
「ああ、そういう事さ。さて、それを行うにはまず辺りの状況を調べなくてはならないのだけれど……リクドー、頼めるかい?」
「勿論です。シキ、行けそうですか?」
『ええ、能力を使うくらい問題ないわ』
「わかりました。なるべく高いところまで上がって、それから視界の共有をお願いします」
『分かったわ』
シキは一直線に上空へと登っていき、ある程度の高度まで上がってから視界の共有を始めました。
映し出された光景と、メニューから見ることのできる方角表示を照らし合わせて、大体の位置を把握します。
どうやら、私たちが立っているのは空間の北東部。森や草原がある一角のようです。
南東部には海があり、南西部には紅葉地帯、北東部には雪原地帯がありました。
多分、四季がモチーフになってるんでしょうね。私たちがいるところは春という感じで。
全体として、思ったよりもこの空間は大きくないみたいですね。
端から端まで行くのはさすがに時間がかかりますが、隣のエリアに行くくらいなら問題なく行えそうです。
大体の位置がわかったところで、戦闘しているグループを探す為に、今度はさらに細かく見てみることにしましょう。
眼を鍛えているだけあって、双眼鏡でも覗いているのかってぐらい遠くまで見渡せます。
そうしてぐるりと見渡してみると、まず見つけたのは秋のエリア。
さすがに戦闘の詳しい様子までは見れませんが、戦っているようです。
ただ、ちょっとこれは遠すぎですね。もっと手ごろな位置で探したいです。
続いて夏のエリアでもサーファーのようなプレイヤーが戦っているのを見かけましたが、こちらも秋寄りの位置で少し遠く。
春のエリアで戦っている人がいるのが一番なのですが……と思って眼を凝らしてみると、森の中で戦闘を行なっているグループを発見しました。
木々に阻まれて戦闘の様子はあまり見えませんが、ここからかなり近い位置です。
「結構近くに見つけました。森の方です」
「森か。いざとなったら焼き尽くせるな」
「ふふっ。そうなると、私たちも焼き尽くされてしまうのだけれど」
「安心しろ、リクドーには被害が及ばないようにするし、お前の骨も拾ってやるから」
「おや、私の生命力をみくびらない方が良いと忠告しておこうか」
「要らねー。どうせ焼くから要らねー」
相変わらず仲はそれほど良くはないみたいですね。
戦闘面での強さに関しては、お互いに認めているような感じなんですけど……まあ、理由はわからないけど何故か相性が悪い人っていますよね。
二人はそういう感じなんでしょう。
「早く行きますよ!」
火花を散らす二人を連れて、私は森の方へと歩いていきました。
◆□◆□◆□◆□◆
「チッ……運が悪い」
森を疾駆しながら、男は吐き捨てるように呟いた。
その背後には、別の足音が一つ。
この予選は生き残ってさえいれば本戦に上がれるため、彼はなるべく戦闘を避けるつもりでいた。
その計画は、開始数分で別チームと会敵してしまったことによって儚くも崩れ去ることとなったのだが。
「森の中での連携を練習しておいた分、運が良かったとも言えるが……さて」
手に持った回転式拳銃をリロードして、振り向きざまに数発射撃する。
日の光が通りにくく、視界の悪い森の中で放った弾丸のほとんどは木に阻まれてしまったが、その内の一発が相手に着弾したようで、小さく呻き声が響いた。
その好機を見逃さず、彼は刀霊の能力を発動させる。
「《投錨》!」
その言葉と共に、着弾地点から鉄の鎖が現れて、森の一角を封鎖する。鎖は弾丸を受けたプレイヤーからも現れて、その身体を拘束していた。
彼の『鎖獄』は、銃に変形することとは裏腹に、あまり殺傷能力の高くない刀霊だ。弾丸の攻撃も、至近距離でなければそれほど大きなダメージにはならない。
しかし、だからこそ、敵を拘束するということに限れば『鎖獄』は無類の強さを誇っていた。
今回のトーナメントでチーム戦を選んだのも、この『鎖獄』の能力をフルに活かす為である。
「ナポリ、今だ!!」
一人が撹乱し、彼が捕縛し、もう一人が必殺の一撃を浴びせる。
これまで数多くの敵を葬り去ってきた無敵のコンビネーションを、彼は今回も完成させようとし——ドサッと、何かが倒れるような音が響いた。
「っ!? 誰だ!!」
呼び掛けた相手からの返事はなく——戦闘中ゆえに意識から外れていたパーティーリストを横目で確認すると、そこにはすでに仲間が死んだことを表すマークが表示されていた。
男の心臓が早鐘を打ち、思考が警鐘を鳴らす。
視線を捕縛したプレイヤーから外し、音のした方へ向けると、影の中からゆっくりと何者かが現れた。
「あー……こんにちは。ハイエナです」
「——《再装填》!」
先程会敵したパーティーの人間ではなく、第三者の襲撃だ。
倒すべき敵を視認して、彼は飛び退きながら即座に弾丸を再装填した。
(時間稼ぎにしかならねえと思うが、それで充分だ!)
自分一人になってしまったが、予定通りに最後まで生き延びればいい。
そう考えながら、彼はリロードを終えた拳銃を構え、その照準を敵に合わ——
「——《襲雷弩刀》」
一瞬のうちに間合いを詰めてきた敵が、彼の持った拳銃を居合切りで弾いた。
大きく照準のブレた銃口から放たれた弾丸が、桃色の髪を掠めて飛び去っていく。
乾いた発砲音が森にこだまする中、桃色の髪の少女は素早く刀を翻し、男の首を一息に斬り裂いたのだった。
 




