極振りの始まり
初めての敗戦の後リスポーンした私は、近くの茶屋で団子を食べながら、周囲の目も気にせずさめざめと泣いていました。
「くやしい……」
負けたのは当然悔しいです。
でも、負けが自分を強くするのも事実。
問題なのは「なぜ負けたのか」が全くわからないことです。
その理由が分からなければ、強くなる為の手がかりも掴めませんからね。
「うう、おいしい……」
団子の甘さが心に沁みます。
お茶もすごく美味しい。
「お団子もう一本ください……」
「はーい!」
茶屋の看板娘的なNPCが元気よく返事をして、店の中へと入って行きます。
……さて、気持ちを切り替えましょうか。
頰をぺちっと叩き、リベンジに向けての作戦を考えることにします。
先ほどの戦いを思い返してみると、確か『未覚醒』がどうのこうの言っていたような気がしますね。
早速、この<虎狼 零>における覚醒について検索してみることにしました。
最早なりふり構っていられないので、wikiの情報もフルに使用して行くつもりです。
検索をかけてみると、早速それらしき情報がヒットしました。
「刀霊システム……なるほど」
『刀霊とは、プレイヤーの刀に宿る精霊のようなものであり、ひとたびその力を覚醒させればとてつもない力を得ることができる』……と記されています。
十中八九これのことですね。
もう少し詳しく読んでみます。
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刀霊の覚醒には段階が存在する。
その段階は人によって様々であり、細かい覚醒が短いスパンで発生する場合や、長い時間をかけて一息に成長する場合など、基本的に分類は不可能である。
プレイヤーの間では通例的に『未覚醒』『初伝』『中伝』『皆伝』の四段階に分けられることがあるが、これは特に『初伝』と『中伝』の分け方が明確ではないなど、全体として正確なものではない。
まず、全てのプレイヤーは『未覚醒』状態から始まる。
この状態では刀霊が発現しておらず、既に刀霊を発現させているプレイヤーとの力の差は初心者狩りが存在する一因でもある。
刀霊の発現に至るまでの時間は人によって様々であり、一日で覚醒する人間もいるが、遅くともゲーム内時間で一週間経つ頃には殆どのプレイヤーが能力を得ることができる。
また、この時点では能力が他人と被ることも多い。
その次の段階である『初伝』と『中伝』に関しては前述の通り明確な区別がなく、初伝だと思っていたら皆伝になっていたというプレイヤーも存在するため、ここでは単に『未覚醒』と『皆伝』の間であるとする。
覚醒までの間に別方向の新たな能力を得るプレイヤーもいれば、最初に手に入れた能力が純粋に強化されていく場合もある。
この能力の発現から皆伝までの間の期間に能力の強さが調整されるという説もあり、事実、初期段階であまり強い能力ではなかった人間が、この段階でかなりの強化がなされたという事例は数多く存在する。
その後、最終的にプレイヤーは『皆伝』の能力を手に入れる。
皆伝が明確に区別されているのは、刀霊によって今の能力が皆伝であると告げられるからであり、能力的にも目に見えて大きく変化する。
現段階ではこの皆伝に到達したプレイヤーはほとんど存在せず、更にプレイヤーはその能力を隠す傾向にあるため、具体的な人数は把握できない。
その上でどれだけ多く見積もっても五十人には達しないだろうというのが一般的な考えである。
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「なるほど……」
書いてある内容を言葉通りに受け取れば、刀霊とは『プレイヤーそれぞれに存在する固有の能力』ということになります。
そんなことが出来るのかはわかりませんが……本当にそうなのだとしたら心が踊りますね。
スタンドとか念能力とか、そういうやつじゃないですか。全人類の憧れですよ。
その他に書かれている部分、能力の段階に関しては、まあ今は関係ないでしょう。
そもそもまだ未覚醒ですからね。
「それじゃあ、とりあえずは刀の覚醒を目標にしますか」
初心者指南のページにも最初の大きな目標と書かれてますし、そういえばキャラメイクの時のNPCもそんなことを言っていましたね。
一先ず目標は定まりましたが、まだ知らない初歩的な情報があるかもしれませんし、もう少しwikiを見てみることにします。
妖術六属性の具体的な意味や、強力な技を伝授してくれるNPCの所在など、様々な情報がありましたが、その中で特に気になったのは『紋』というシステムについてでした。
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『紋』とは、プレイヤーの成長に応じて手に入るボーナスポイントのことである。
任意の項目に振ることができ、具体的な数値は不明だが、ステータスの上昇やその項目に関係するスキルの取得がある程度緩和されるなどのメリットがある。
また、紋の数によってスキルに特殊な効果が乗る場合があり、これは(上)などの表記で判別することが可能。
項目がかなり多いため、満遍なく振ることはお勧めできない。
ある程度固めて振ることが望ましいが、一箇所に全て振る「極振り」は非推奨である。
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なるほど。ステータスを見てみると、たしかに紋の項目が存在しています。
所持している紋の数は四つ。
wikiによると初期状態では三つ持っているようなので、一つは成長によって得たものなのでしょう。
「さて、どう振るべきでしょうか……」
個人的には「眼」を鍛えたいのですが、どうやら極振りは非推奨らしく。
wikiにはオススメの組み合わせというのも載っているようですが、眼に関しては……ほとんど触れられていませんね。
このwiki、かなり更新頻度が高いようなんですけど、流石にステータスに関しては検証が中々出来ないということなのでしょうか。
リセットとか容易にできなそうですしね。
「対人なら速度重視でしょうし、脚ですかね? ……いや、脚を鍛えるだけだと効率が悪いんですか。難しいですね」
そんなこんなで、私は紋のオススメの組み合わせを自分のプレイスタイルに照らし合わせつつ考え……
「……えいっ」
四つとも「眼」の項目に突っ込みました。
……まあ、きっと後から軌道修正は効きますから。多分。
課金アイテムでリセットできるようですし、ダメそうならリセットすればいいでしょう。
さて、これによって私の眼は紋四つ分の力を得たわけなのですけども。
「違いがわかりませんね……いや、若干視力が良くなっているような……」
なんか、wikiに眼に関する情報がない理由がわかったような気がします。一気に四つ振っても効果があまり実感できないんですもの。
まあ、脚に四つ振ったとして、効果がすぐに実感できるようなものなのかはわかりませんが。
何はともあれ、一歩前進でしょうか。
やはりオンラインゲームはwikiも参照していかないとダメですね。
後続であるが故にwikiの恩恵をフルに受ける事ができるという幸せを噛みしめながら、私はまた街の外へと繰り出すのでした。