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リクドーは砕けない



 ヘッドセットを外し、私はため息をつきました。

 ベッドに仰向けに寝転がって、少しの間ぼんやりと天井を眺めて……



「負けてしまいましたね……」



 そんな呟きが零れました。



 神龍寺に殺された私は、リスポーンすることなくそのままログアウトしました。

 感情が昂ってしまったので、少しメンタルをリセットしようと思ったからです。

 切り替えは大事ですからね。



 ……まあ、全体的に見れば負けとは言えないかも知れません。

 黒夜叉を倒したことで、本来の目的である彩音が仇討人になるための条件はクリアできましたし、神龍寺に関しても、私たちを殺したことによってシステム的にもPKerとして扱われることになりました。

 それに、私が負けた状況に関しても、黒夜叉を討伐し終えた後の動けないタイミングを攻撃されたわけですから、正直どうしようもありませんでしたし。


 ……そう思っていても、やはり悔しいものは悔しいんですよね。

 MPKは姑息だとは思いますが、ゲーム的には禁止されてませんし、負けは負けですから。

 それが私にとっては悔しくて——同時に、少し楽しくもあります。

 戦いとはそういうものなんだという、最近は感じていなかった感覚ですね。


 負けたからと言って心が折れるような私じゃありませんから。

 次こそは、対等な状況で戦って……その上で勝利します。


 その為に、これから計画を立てないといけませんね。

 逃げられると私では追いつけない可能性が高いですので、なるべく逃げられないような状況を作らないといけませんし。

 まあその辺りは追々考えていきましょう。

 今日はもう疲れましたし、時間的にも0時を回っていますから。


 遅い夕飯を食べたり湯船に浸かったりして、それから私はゆっくりと眠りについたのでした。




————————




 翌日、<虎狼 零>にログインして同盟拠点にスポーンした私のもとに龍子がやってきました。



「よう、リクドー。なんかいつの間にか面白いことになってんな」



 え? 面白いこと?



「……何のことですか?」


「ん、その様子だと知らないみたいだな。ほらこれ」



 そう言って、龍子はウィンドウをこちらに向けてきました。

 そこに表示されているのは、動画投稿サイトに投稿された一つの動画で。


 ……そこに映っていたのは、紛れもなく私でした。



『……決めました……、地獄の果てまで追いかけて、貴方を殺すと』


「……あの、これ」


『——私は、貴方を……絶対に許しません』


「ちょっと!!」



 思いっきり私じゃないですかこれ!


 見た感じ、神龍寺の生配信動画を切り抜いた感じみたいなんですけど…… 私が神龍寺に対してはいたセリフがそのまま録画されていました。

 というか再生数が尋常じゃないんですけど。普通こんな行きませんよね。というか私こんなにたくさんの人に見られたんですか?

 ちょっと……めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど……!



「『迫真すぎる』『めっちゃカッコいい』『踏まれたい』『抱かれたい』」


「コメント読み上げないでください!」


「はー、めちゃくちゃ楽しい。まあ良いじゃん、界隈では元からある程度有名だったんだし」



 いや確かに一度ネット上で少し有名になったことはありますけど、これはそれとはあまりにも違うじゃないですか!

 というか抱かれたいってなんですか。私に何を求めてるんですか。



『あらあら、有名人ね?』


「こんな形で有名になんかなりたくありませんでしたよ……」


『くくくっ、何だかよくわからないけど、お前が苦しんでるようで気分がいいぞ!』



 ここぞとばかりに煽ってくる雷神をスルーしながら、私は頭を抱えます。

 これは……正直予想外でした。冷静に考えると、配信されていた以上こうなるのは予測できたかも知れませんけれど。そういう考えができるほど冷静じゃありませんでしたから……。



「はぁ……辛い……」



 もう、どうしてくれましょうか。

 少なくとも神龍寺には出来るだけ同じ屈辱を与えたいですね。なるべく多くの人が見ている前で負かしてやりたいです。

 そうなると神龍寺が生配信している状態が一番良いのですが、常に配信しているわけではないでしょうから、そう都合よくは行かない気もします。


 うーん……私自身が配信を始める、とか?

 いや、ここで安易に始めてしまうと今後何年もついて回りそうですね……ゲームはゲームで純粋に楽しみたいのでその案は却下です。



「何かこう、衆目の前に神龍寺を引きずり出す方法とかないですかね……」


「そうだな……リクドーが配信始めるのが一番手っ取り早いと思うけど」


「却下です」


「食い気味に却下してきたな……。それならまあ、他の配信者に同行してもらうとか……あ、そうだ」



 そう言って、龍子はポンと手をたたきました。



「近々、神織でPvPの大会があるんだよ。観客も大量に来るし、そこならいいんじゃねーか?」


「大会ですか。そう言えば何か言ってましたね」



 神織華王御前試合。それは、この神織を統治する王によって志気向上を口実に開催される大規模な大会なのだとか。

 つい先日開催の発表があったようで、掲示板も賑わっていました。

 確かにそこなら観客のいる場所として最適でしょうが……



「……でも、それって神龍寺が参加しないと意味ないと思うんですけど」


「それな」


「ちょっと」


「冗談冗談。普通なら参加しねーだろうけど、こっちから誘導すればいいんだよ。生配信のコメントでおだてるなりボコボコに煽るなりしてさ。パッと見た感じプライドだけはめちゃくちゃ高そうだから、割と乗ってくるかも知れねーぞ?」


「なるほど……」



 それなら、確かにいけるかも知れません。

 まあ何にせよ、私はあまりその大会について知りませんし、情報収集から始めることになりそうですね。



 さて、これでひとまず新たな目標が出来ました。

 神龍寺を衆目の前で倒す……少なくとも今はそれを目標として、日々を生きていこうと思います。


 新たな目標を胸に、私は歩き始めたのでした。

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