深く闇に落ちる魂
本日2話目の投稿です。
一つ前のを読んでない方はそちらからご覧ください。
「――――ォォオォオオオオオオオ!!!!!!」
身体を鷲掴みにされたかのような圧を持ち、地を揺るがすほどの咆哮。
天井から石の破片がいくつも落ちてきて、それと同時に黒夜叉が急接近してきました。
強い踏み込みと、振るわれる横薙ぎの斬撃。
それを避けようとして、その寸前、私は自分の身体がうまく動かないことに気付きました。
「ヤバい……っ」
どうにか体をひねり、無理やり倒れ込むような形で攻撃をかわします。
思いっきり頭を地面に打ち付けてしまいましたが、斬撃自体は回避できました。
ステータスメニューを開いてみると、表示されていたのは[恐怖]と[重圧]という行動を阻害する二つのデバフ。効果時間はかなり短く既に解除されていますが、その分強力なデバフでした。
とっさの判断をする時間すらありませんでしたから、『極彩色』の能力がなければ完全に死んでましたね……。
さて、この状態は俗に言う発狂モードというやつでしょう。
HPが一定以下になると攻撃が苛烈になったりするやつです。
ステータスも強化される場合がほとんどですが、今回は志柳の能力である程度ステータスが減少しているでしょうし、それほど大きく変わることはない……といいんですけど。
「ォォォオオオ!!!」
続く攻撃に対し、今度は能力を発動して真正面から万全の状態で迎え撃ちます。
迫る大剣に表示された赤いマークは七つ、地面に表示された青い足跡は三つ。
……いやマジですか、これ。倍以上じゃないですか。
《猛幕海鳴》は無理と判断し、青い足跡を追います。
一歩二歩と進み、三歩目で跳躍。空中で能力を発動して足の位置を微調整し、三歩目を踏み抜きます。
赤黒い大剣は大きな音を立てて迫り、そのまま私の身体に達しますが、《鶴幕雷鳴》の無敵時間中なのでそのまますり抜けていきます。
物理的に無理な回避でも無理やり通せるのが強いですね。
とは言え、このままだと攻撃に移ることはできませんが。
どうしたものかと考えていると、志柳がさっと近寄ってきて耳打ちしてきました。
「……僕の刀霊の奥義を使えば、行けると思います」
刀霊の奥義……? 単なる能力ではないということでしょうが、そういうものがあるとは知りませんでした。
「《鍔獲還し》……現在のステータス全てを一時的にゼロにし、その分だけダメージを与える技です」
ここで振るわれた斬撃を回避し、再度接近して話します。
「今使えばほとんど削れるとは思いますが……倒しきれない可能性も高いです。使うと数分動けないので、そのあとは完全に任せてしまう形になりますけど、大丈夫ですか?」
「……ええ、任せてください」
きっと、やってみせますよ。
私の返答を聞いた志柳は笑顔で「ありがとうございます」と答えて、それから散開しました。
合わせて私も黒夜叉の前へと躍り出て、注意を引きつけます。
その隙に志柳は《空梯》という妖術で二段ジャンプをし、そのまま勢いよく黒夜叉の頭部に刀を突きたてました。
そして――
「――《鍔獲還し》!」
輝く鍔から刀身へ光が溢れ、それが黒夜叉の肉体に到達した瞬間、洞窟内を凄まじい光が満たしました。
地響きのような叫び声をあげて黒夜叉が悶えます。
「……あとは、任せました……!」
能力値がゼロになった志柳が、倒れ伏しながら言いました。
志柳の予想通り、黒夜叉はまだ死んではいません。
とは言え、一度に大きなダメージを負ったため、一時的に行動不能状態となっているようですね。
任された者としての責任を果たすため、その隙を逃さず追撃します。
「《火神鳴》、《霹靂神》、《閃刃》!」
雷響をかけ、デバフを与え、攻撃を重ねます。
連続する居合は黒夜叉の身体を裂き、着実にダメージを与えていきますが……
「ォォォォオオオ!!!」
「くっ……まだ足りませんか……!」
なかなか決定打になるような攻撃ができません。
これはもう、《猛幕海鳴》を使うしかないかもしれませんね……。
振り下ろされた大剣に表示された赤いマークは相変わらず七つ。普通にやっては絶対に破壊できない量ですが……その寸前、どうすればいいのかを思いつきました。
ええ、この場で思いついただけですから、これに関して練習などは一切していません。
それでも、成功すればカウンターは発動できるはず。
軽く息を吐き、納刀した刀に手をかけます。
「《閃刃》!!」
抜刀術によって、一瞬で四つのマークを破壊。
そこから上手く刀を翻して攻撃し――一撃。スキルも発動していない斬撃でしたが、ギリギリで三つのマークを破壊することができました。
「――よしっ!!」
居合術による一瞬の攻撃と、間髪入れずに放った攻撃。
これによって極めて短い時間で二発の斬撃を与えることに成功し、《猛幕海鳴》が発動。
体が黒夜叉の攻撃に合わせて自動的に動き始めました。
さあ、狙うはがら空きの背中です。
軽く息を吐いて、狙いを定め、そして――
「――《襲雷弩刀》!!」
一瞬で距離を詰めてからの斬撃は、黒夜叉の背中を勢いよく切り裂いて。
手に伝わったクリティカルの感触とともに、黒夜叉は断末魔の叫びをあげました。
「オオオオォォォォ――――!!」
重い音を響かせて、力を失った黒夜叉はゆっくりと倒れました。
無理な動きをしたせいでスタミナが切れてしまったようで、同時に私も重力に引かれるように膝をつきます。
やはり一気に動くと体力が持ちませんね……。
心肺機能などは他のステータスに比べると意識しなくても強化されやすいもののようなのですが、まだプレイ時間が少ないというのもあってスタミナ切れを起こしがちです。
スタミナを回復するための丸薬があるそうなので、それを買い占めるくらいしてもいいかもしれませんね。
さて、黒夜叉の巨体が光の粒子となって散っていくのと同時に、私の目の前にウィンドウが現れました。
[黒夜叉の心核を手に入れました]
ドロップではなく、直接手に入るタイプのアイテムですか。
これは少しレアなアイテムの気が――
『――後ろだ!!』
「!!」
胸を貫く衝撃。四肢に痺れが回り、立ち上がろうとした私の身体は再度膝をついてしまいました。
体を蝕むダメージ。ステータス欄には[黒蝕]という謎のデバフが表示されています。
地面に手をつきながら前を見ると、いつの間にか降りてきていた神龍寺が剣を構えていました。
「クソっ、倒しやがって……これじゃ意味ねえじゃねえか!!」
「リ、リクドーさん!!」
「《黒星》」
剣から放たれた黒い遠距離攻撃が彩音の身体を貫いて、そのまま彼女は倒れてしまいました。
「彩音……っ」
次に神龍寺は志柳のほうに歩いていきます。
「意味わかんねえ技使いやがって。てめぇ初心者じゃねえだろ。殺せるからどうでもいいんだけどよ」
動けなくなった志柳の首に、星をかたどった剣が突き立てられます。
視界の端のパーティリストの二人の名前が灰色になり、死亡したことを示しました。
「あとはお前一人だな」
「ふふっ……」
「ああ? なに笑ってんだてめぇ」
「……殺しましたね、貴方。名実ともにPKerの仲間入りじゃないですか」
「……チッ」
舌打ちとともに、飛翔する黒い攻撃が私の足を貫き、全身に痺れが奔ります。
左足はもう完全に動きません。ですが、それ以外の部位はまだ動かせます。
ゆっくりと立ち上がり、私は神龍寺の方に一歩踏み出しました。
……PKに関していうのであれば、システム的に許されている以上、やってもいいことだと私は思っています。
というか私もPKer相手とは言え何回か殺してますからね。
ただ、やはり緋付きでないプレイヤーを倒すというのは、自分にはできないかなと改めて思いました。
私の胸中にドロドロと沸き立つドス黒い感情――殺意にも似たこの感情と同じものをぶつけられることになるのかもしれないのですから。
一歩、二歩と、刀を杖代わりに進みます。
視界は赤く染まり、身体は重く、なぜこれで死んでいないのかわからないのですが、それでも進んでいきます。
「……決めました……、地獄の果てまで追いかけて、貴方を殺すと」
「――こッ、《黒星》!!」
剣の先から放たれた黒い弾丸が、私の肩を貫きました。
視界がグラっと揺れ、姿勢が崩れますが、気合のみでどうにか踏ん張って耐えます。
最早私の命は長くないでしょう。これだけ満身創痍ではどんな相手にも勝てませんし。
ですから、これは最後の悪あがきで……自分自身の気持ちに対する、一種の決意表明のようなものです。
赤く染まった視界の中で、その先に神龍寺を捉え、吐き出すように口を開きました。
「――私は、貴方を……絶対に許さない」
「……ッ!!」
神龍寺は怯えた表情で剣をがむしゃらに振るい、大量に放たれた黒い星は今度こそ私の心臓を貫いて……そうして私はそのまま意識を失ったのでした。
ブチギレリクドー。
三章は神龍寺に復讐するために頑張る話です。




