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雷と共に

三章の始まりです




 雷神の試練を突破し、居合技を入手した翌日。

 私は同盟拠点に設置された練習用の木人(ダミー)と向き合っていました。


 木人というのはプレイヤーたちが効率のいい戦闘方法を模索し、練習するためのカカシのようなものなのですが、この木人は少し特殊なもので、ある程度反撃を加えてくるタイプのものになっています。

 カウンターを発動するためには敵が攻撃してくる必要がありますからね。

 普通のものより値が張るのですが、龍子が買ってくれました。ありがたいです。


 というわけで、新たに会得した技を試してみましょうか。

 いつも通り、居合の姿勢に構えます。



「――《火神鳴(ひがみなり)》」



 抜刀。鞘から雷が迸り、居合の一撃を木人に叩きこむのと同時に[雷響(らいきょう)]のバフが乗ります。

 この[雷響]は現在のステータスに関係なく居合術を強化するもので、効果時間は現状三分間。

 重ね掛けしても三分以上にはなりませんし、効果が重複することもないのですが、かなり強力なバフです。というかステータスを眼に割り振っている以上こういうバフがないとまともに戦えないので、[雷響]を付与できる《火神鳴》を中心とした立ち回りが基本になってきますね。



 さて、雷神との契約によって私が会得した居合系の技はこれだけではありません。

 あの場で使ったのは一つだけでしたし、カウンター技の時のように軸となる一つから派生していくのかと思っていましたが、技の項目を見てみると既にいくつかの技が存在していたのです。


 というわけで、私は一度木人から距離をとって、それから深く構えました。そして――



「《襲雷弩刀(しゅうらいどとう)》!」



 抜刀する瞬間、勢いよく身体が前方に突き進み、離れた位置にいた木人のもとまで急接近しました。

 距離は大体5メートル。その距離を一息で詰められるというかなり便利な技です。


 戦闘状態になった木人が手に持った木刀を大きく振り回すのに合わせて能力を発動。

 ゆっくりと進む視界の中、表示された赤いマークに合わせて刀を振るい、カウンターを発動させて背後に回り込んで技を放ちます。



「《霹靂神(はたたがみ)》!」



 次いで発動した《霹靂神》は跳躍して空中で抜刀するタイプの居合技で、敵の防御力を下げる効果があります。このデバフの有無で総ダメージに差が出るので、《火神鳴》に次いで最初の方に使うべき技ですね。


 木人も負けじと攻撃を繰り出してきますが、《鶴幕雷鳴》にて回避したのち、もう一度素早く納刀して次の居合を発動させるための構えに入ります。



「《渦雷旋(うずらいせん)》! 《閃刃(せんじん)》!」



 大きく踏み込んだ後、自身を中心とした円形の斬撃を放ちます。《渦雷旋》はそのままわかりやすく範囲攻撃ですね。

 続いて発動した《閃刃》は《火神鳴》と同じようなベーシックな居合ですが、[雷響]を付与できない代わりに威力が高い技です。



 火神鳴(ひがみなり)閃刃(せんじん)霹靂神(はたたがみ)渦雷旋(うずらいせん)襲雷弩刀(しゅうらいどとう)

 この新たに会得した五つの技をどのように使っていくか。それについては、やはりこれから戦闘を重ねていくことが必要不可欠ですね。

 ゲームシステム的に技を会得したからと言って、自分がそれを使いこなせなければ会得していないのと変わりませんから。



『なんだ、結構使いこなしてるんだな』



 人型の虚像として現れた雷神が、腕を組みながらどことなく感心した様子で声をかけてきました。



「あ、ライさん」


『それやめろって言ったろ。敬え』



 雷神さんって毎回呼ぶの、ちょっと面倒じゃないですか。

 まあそれを言うと確実に怒られるので黙っておきますが。



「ところで、ライさんはシキと仲良くなれましたか?」



 私がそう聞くと、雷神は急に苦虫を噛み潰したような顔になりました。



『私あいつ苦手だ……ペースに飲み込まれる……』


『あらあら、ふふっ』


『ひっ』



 人型状態で現れたシキに、雷神が小さく驚きました。

 流石にまだ打ち解けてはいなそうですけど、なんだかんだで上手くやっていけそうですよね。

 シキもどこか楽しそうですし。

 そう思いながらシキの方を見た私でしたが……



「…………ん?」



 楽しそうに笑うシキの姿に、私は妙な違和感を覚えました。

 

 姿が変わった……? いや、見る限りでは特にどこも変化していないようですが……何なのでしょう。



「……シキ、髪切ったりとかしました?」


『?』



 私の質問にキョトンとするシキ。

 いやまあ流石に髪ではないだろとは思ってましたけど。


 見た目ではないとすると、立ち振る舞いとかそういう部分が違うんですかね。

 そうなると流石に判別が出来ません。

 まあ、別に戦闘に支障が出るわけでもないでしょうからとりあえず放っておきましょうか。



 そんな風に考えていると、不意に家のドアが開きました。

 現れたのはベア。丁度ログインしたようですね。



「やあ、リクドー。鍛錬かい?」


「はい。ちょうど流派技を会得しましたし、慣れておかないとと思って」



 私の返答に「良い心がけだ」と頷いて、それからベアは私の横に浮かぶシキと雷神に目を向けました。



「おや、随分と賑やかになったね。二人目の刀霊、と言うわけではないのだろうけど……ひょっとして、昨日チャットで言っていた『雷神様』かな?」


『いかにも、私が雷神だ。敬っていいぞ』


「これは驚いた。貴女のことは一目見て『美の女神』なのだと確信したのだけれど、まさか雷神様だったとは。……いや、見ようによっては、雷も『美』という概念を内包しているのかも知れないね。一瞬の光と、それに伴って放出される莫大なエネルギー。それはそのまま人の生に重ね合わせることができる。人生という短い晴れ舞台の中で、人が美しくいられる時間は、それこそ空に瞬く雷光の様に僅かなものだ。しかし、だからこそ人はその刹那に強く気高く生きるのだと私は思っている。さて、こうして知り合えたのも何かの縁。一緒にランチでもどうだろう? この神織にはプレイヤーの経営する様々なレストランがあるけれど、その中でも特に『harvest』という店は料理だけでなく景色も——」


『なあお前の周囲変な奴しかいないのか!?』



 否定したいところでしたが、こんな長文が出会い頭にすらすらと出てくるベアに若干引いてしまったので無言で押し通ります。

 キャラメイク中にもNPCを口説いていたらしいのでこれも完全に平常運転なんですけれど。



「そういえば、ベアに聞きたいことがあったんですけど、今時間大丈夫ですか?」


「勿論、問題ないよ。私で良ければ話を聞こう」


「ありがとうございます。聞きたいのは、前に言っていた仇討人についてです。確か、PKKerプレイヤーキラーキラーのことでしたよね?」


「ああ、そのことか。ちょうど彩音も興味があると言っていたから、いいタイミングだ。ただ……彼女は今ログインしていないようだね」



 フレンドリストから確認してみると、確かに彩音はオフラインになっていました。

 現実がいろいろと忙しいようですから仕方ないですね。

 学生なのでこの時期は私同様夏休み期間のはずですが、確か吹奏楽部に入っていると言っていた気がしますし、それ関係なのでしょう。

 彼女が使っていたのは何て楽器でしたっけ。あまり馴染みのない名前の楽器だったんですけど、調べてみたら思いの外大きかったので驚いたのを覚えています。

 彩音はなんかこう、フルートとかのイメージでしたし。



「それなら、彩音がログインしてからお願いします。そのほうが無駄がありませんし」


「そうしてもらえると助かるよ。それじゃ、彼女が来次第ここに集まろうか」



 そう言って街の方へと歩いていったベアを見送って、私は再度、木人に向かって居合の練習を始めたのでした。

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