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見据えるのは空高く



 銀餓狼(ぎんがろう)の骸が塵となって巻き上がっていく中、ヱヰラが手を横に振りました。



「――《帰刀指令(リターントゥエルブ)》」



 声に合わせて、十二本の刀がすべて彼女の背後に集まります。

 何というか、凄い能力でしたね。ド派手で強くて。

 いわゆるトップランカーみたいなやつなのでしょうか。このゲームにそういう概念があるのかはわかりませんが。



「えっと……助かりました。ありがとうございます」


「本来、銀餓狼は(かのと)級――希少な魔物としては十段階中八番目のそこまで強くはない魔物なんだが、今の個体の強さは明らかに異常だった。君がまともに戦っていたらすぐに死んでいただろう」



 異常? あれが本来の強さじゃないってことなんですかね。



「自己紹介がまだだったな。私はヱヰラ。神織の同盟【銀空騎士団(スカイナイツ)】の盟主をやっている。君は?」


「リクドーです。まだ初心者なんですけど、【万華郷】の盟主です」


「なるほど、覚えておこう。……最近、異常に強化されたモンスターが神織の至る所で目撃されている。大方どこかのプレイヤーの仕業だろうが、まだ尻尾は掴めていない。十分に注意してくれ」



 そう言って、彼女は剣翼を広げ、一瞬のうちに飛び去ってしまいました。



「あれがトッププレイヤー……なんですかね。能力も強かったですし」



 少なくとも、私よりも格上であるのは明らかでした。

 全体としてどの程度の位置にいるのかはわかりませんが……いつかは追いつきたいものです。



 さて、これからどうしましょうか。

 この辺りにモンスターはもういなさそうですし、ひとまず藍路(あいのじ)まで帰ってしまいましょうかね。

 ……と、その前に。



「アイテム落としてますよね、多分」



 先ほどまで銀餓狼がいた場所には銀色の毛や牙など、素材がいろいろと落ちていました。

 私は何もやってないのですけど、まあこのまま置いておくのも忍びないですし拾ってしまいましょう。

 灰餓狼の素材は四方八方に散らばっていてちょっと集めるのがしんどいのですが、まあ目に付く範囲では拾っておきましょうか。


 そうして10匹ほどの素材を拾ったところで、不意に着信音が鳴りました。

 チャットのようです。


 

『こんにちはー! アクセサリー出来ましたよ!』



 レアメタルからのチャットでした。文面でも元気ですね。

 まあ、ちょうどいいタイミングでしたし藍路に帰ることにしましょうか。



――――――



 藍路、十文(じゅうもん)通りの装備屋デスドレイン。

 様々な珍妙な品々の並ぶ店内に、私は再度やってきました。



「あ、リクドーさん! できましたよ~アクセサリー!」



 店に足を踏み入れた瞬間、待ってましたと言わんばかりにレアメタルがやってきました。



「どうぞ! つけてみてください!」



――――――

[金獅子の首輪]

金獅子の(たてがみ)を編んで作り上げられた首輪。

装着者の内なる力を引き出し、攻撃力や持久力を向上させる。

僅かではあるが弱点へのダメージを低減させる効果を持つ。

――――――



「首輪……ですか」



 なんかちょっとアレですね。いや、チョーカーというファッションがあるのは知ってますし、デザインは結構おしゃれなんですけど、首輪って書かれるとすごい抵抗感が生まれてしまいます。



「首を守れるものは強いんですよ? 致命傷を防げますからね!」


「確かにそうですけど」



 このゲームにおける対人戦、首切れば勝ちみたいなところありますからね。

 だからこそこういう装備が役に立つのもわかるんですけど……。


 まあ、仕方ないですね。

 観念してウィンドウから[金獅子の首輪]を選択し、装着します。


 首に何か圧がかかるというのが苦手でその手のアクセサリーはつけたこともないのですが、これは特に気になりませんね。



「どうですか?」


「最高です!!」



 グッと親指を立てるレアメタル。その目線は私というか、完全に首輪しか見てないんですけど、まあいいです。



「あ、そういえば新しく素材を手に入れたんですけど」



 インベントリから銀餓狼の素材を取り出して、レアメタルに見せます。



「銀餓狼の素材ですね! それなら他に灰餓狼の素材がある程度あれば防具を作れますよ!」


「丁度持ってますよ。これで足りますか?」


「これだけあれば問題ないです! 一式作れると思いま…………ん???」



 素材をレアメタルに渡すと、突如彼女の表情が固まりました。

 その視線の先にあるのは銀餓狼の素材で。



「これ、本当に銀餓狼ですか!? なんかランクが凄く高いんですけど!」


「あー……そういえば異常に強い個体だって言ってましたね」


「なるほど……これは素晴らしいですよ! すごく強い装備が作れそうです!」


「そんなにですか」


「それはもちろん!! ただちょっと、これを使うとなると灰餓狼の素材じゃベースとして力不足なんですよね……結構な強さの魔物からとった素材が必要なんですけど、持ってたりしませんか?」



 そんなもの持ってましたっけ。

 一応インベントリを探してみますが、そもそも格上の魔物と戦った経験がほとんどないのでそれらしきものは見当たりませんでした。



「さすがにもうないですね」


「そうですか……一応適した素材をこちらで見繕うこともできますけど、そうなると安くても数百万銭はかかってしまいますからね」



 ただ今の手持ちは十万銭。流石に足りませんね……。この十万銭もPKerを倒して手に入れたものですから、安定して稼げる手段があるわけでもないですし。

 


「いつかお金が溜まったら頼むことにします。そういえば、この首輪の代金はいくらなんですか?」


「あー……そうですねー……」



 少し言いにくそうに言葉を濁すレアメタル。

 何かあったのでしょうか……と訝しんでいると、彼女は「あ、そうだ!」と手を叩きました。



「今度その銀餓狼の素材で装備を作らせてくれるって約束していただけるのでしたら、タダでいいですよ!」


「え、良いんですか?」


「はい! ぶっちゃけその首輪作ってる時にエキサイティングしちゃって予算思いっきりオーバーしちゃったんで!!」



 ちょっと。

 言いにくそうにしていたのはそういうことですか。

 いやまあ、その分強いものになっているんでしょうけど。



「まあ、そういうことならいいですよ。どうせ他に装備作れる知り合いがいるわけでもありませんし」


「ありがとうございます!!」



 なんというか、全体的に得した形になりましたね。

 新たな人脈も開拓できましたし、目標となる存在もできました。


 自分がこのゲームにどんどんハマっていっているのを感じながら、私は神織に帰還したのでした。

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[一言] ちょっと都合よすぎない? と思ったけど他に比べればまだマシか(感覚麻痺)
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