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赤は環を巡りて



 道場の中央で、私は師範と向き合いました。



「よろしくお願いします」


「ああ、こちらこそよろしく」



 流派について調べていた時にwikiで得た知識なのですが、流派に入ってから技を取得するための方法は主に二つあるようです。

 一つは、直接訓練を受けることで会得する方法。

 もう一つは、流派に所属した状態で戦闘を行い、経験を重ねることで会得する方法です。


 全ての流派に当てはまるわけではないようですが、一般的には基礎となる技や奥義的な扱いをされる技が前者で、そこから発展するものが後者のようですね。

 特殊なところでは全ての技が何らかの試練を突破することで解放されるということもあるようですが、まあそんな流派は一握りみたいですし。


 とりあえず今からやるのは直接の訓練によって会得する方法のようです。



「じゃあ、さっそく始めよう。まず最初に伝授するのは《導紅血(どうこうけつ)》。これは身体の血の巡りを意識的に操作し、一か所に集めたり流動させたりすることで任意の部位を短時間強化する技だ。神楽識天流の技の中では一番の基礎となるものだね」



 なるほど、血の流れですか。

 前作<虎狼BS>では妖術の代わりに血法というのがあったので、少し懐かしく感じます。

 一応今作にも妖術の属性として血に関するものがあるみたいですけど。



「さあ、眼を閉じて」



 言われた通り、眼を閉じます。



「まずは息を吸って、優しく吐いて……徐々に強く……」



 吸って、吐いて、吸って、吐いて……なんか催眠術にかけられているような感覚ですね。



「身体を環とし、血はその内に滴る。ゆっくりと巡るそれをだんだんと加速させ……今は頂点にとどめよう」



 と、ここで暗闇の視界に一つのウィンドウがポップアップしてきました。

 そこに記されているのは、半透明の赤い円。

 師範の言葉に従って、私はその円を操作してみました。

 強く意識をすると、円の内部の赤が一か所に集まって濃い赤となり、考えた場所へと動いていきます。

 師範が言っていたのは、確か頂点だったはず。

 そう思って赤を円の頂点へもっていくと、不意に足から力が抜けました。



「……っ」


「足元がふらつくのは上手く出来ている証だ。少しやりすぎているということでもあるけれど、そこの調整は実戦で慣れていかなくてはならないからね。……じゃあ、そこから目に移そう」



 その言葉と同時に、円にいくつかの線が追加されました。

 線は円の内部を縦横に走っていて、意識すると要所要所に人体の部位名が表示されます。

 つまり、この図形は人体の模式図というわけですね。

 ゲーム的な言い方をするならば、スキルを発動する際に必要となる一種のインターフェースというやつでしょう。


 頂点に溜まった赤を動かし、眼の位置へと下ろします。



「よし。じゃあ眼を開けていいよ」


「……何か変わりました?」


「わからないか。まあ、眼は比較が難しいからね」



 普通にしててもよくわからないので、とりあえず能力を使って計測してみることにしました。

 前回測ったときには、能力発動による意識の加速は実時間と比較して大体倍くらいだったはず。

 それを思い出しつつ、私はインベントリから取り出した石を放り投げ、速度を計算してみました。

 同じくらいの高さに放り投げて、その差を計測。



「なるほど……確かに強化されていますね」



 流派技である《導紅血》を発動した状態では、発動していない状態と比べて大体1.5倍ほどの差が生じているようです。

 実際に能力を使った状態の倍率に直すと、実時間に比べておよそ3倍。

 これどのくらいまで伸びていくんですかね。流石に青天井ってことはないでしょうけど……。



「会得段階だと他の部位に必要な分の血も持ってっちゃうから、その辺の量の調整をできるように実戦で経験を積んでみてね。これから教えるもう一つの技も同様に。こちらは実戦で使うことで新たなひらめきが生じるものだけど」



 そういって、師範は竹刀を構えました。



「まずは全体の構造を把握するといい。雷花ちゃん、相手役を頼むよ」


「分かりましたわ。ちなみに何をやるんですの?」


「"鳴"の三種」


「えー……」



 しぶしぶといった感じで、雷花も竹刀を構えます。



「神楽識天流には、基本となる三つの反撃技がある。まずはそれぞれを見てもらおう」



 師範と雷花が目線を合わせて、それから雷花が一歩踏み込みました。

 その動きは流れるように美しく、大きく振り上げるような動きにもかかわらず、生じる隙を上手く消していました。

 そんな攻撃に対し、師範は切っ先を右下に向けるように竹刀を構え――



「――ッ!」



 雷花の竹刀が振り下ろされる刹那、師範はその軌道に強く()ち合わせるように竹刀を振るってその動きを崩し、同時に踏み込んでいた一歩で彼女の背中に回り込むと、がら空きの背面に向かって一撃を叩きこみました。



「これが《猛幕海鳴(もうまくかいめい)》」



 雷花の方を見据えたまま、師範が呟きます。


 次いで雷花は体勢を整えて、再度攻撃を加えるために師範に接近しました。

 今度は先ほどよりも振りを小さく、さらに隙のない動きでの攻撃です。

 その連続攻撃を、師範は一歩、二歩と退いて避け、そして三発目。

 師範は再度刀を振るいました。


 今度は先ほどのカウンターとは異なって、搗ち合うのではなく逸らすように、攻撃に沿わすような動き。

 それによって雷花の体勢は僅かに崩れつつもそのまま前方へと進み、二人は位置を交差する形となり――そこで師範の竹刀が閃きます。

 

 難しい体勢から放った結果、先ほどのカウンターよりは幾分浅い当たりでした。

 反撃を行うのは難しそうですが、先ほどよりも隙のない攻撃に対して用いたのを見る限り、発動条件は緩そうです。



「これは《鶴幕雷鳴(かくまくらいめい)》」



 二つ目のカウンターを見せて、師範は更に構えました。

 カウンターは三つあると言っていましたから、最後の一つを見せるつもりなのでしょう。


 ……なんて思っていたら、不意に雷花が姿を消しました。

 高速で動く相手に対するカウンターでしょうか? そう思って師範の顔を見ると、普通に焦っていました。彼にとっても予想外のようです。

 打ち合わせとかしてないんですね……。

 先ほどから能力を使っているのですが、《導紅血》によって眼を強化しているにもかかわらず影しか見えないので、滅茶苦茶本気を出しているようですし。



「ここですわ!」


「ちょっ」



 師範の背後から、雷花が竹刀を振るいます。

 師範はその死角からの攻撃に対し竹刀を合わせることで防御して見せましたが――しかし、雷花はその防御を真正面から弾き飛ばし、タックルで追撃を加えて師範を倒しました。

 そのまま倒れた師範の額に竹刀を打ち付けて、勝ち誇ったように叫びます。



「そしてこれが《響幕地鳴(きょうまくちめい)》ですわ!」


「まあ、そういうこと……」



 組み敷かれた師範が力なくつぶやきます。なんですかこの滅茶苦茶な状況。

 カウンターの強さと種類は何となくわかりましたけれど。

 猛幕海鳴と鶴幕雷鳴と響幕地鳴でしたっけ。それぞれ使える場所が違うようですね。


 とは言え、これで見た技がそのまま使えるようになったりするわけではなく。

 ポップアップされたウィンドウには、《導紅血》と《交裁閃》という二つの技を会得したという旨の通知が表示されていました。



「ひとまず教えられるのはこの二つだよ。そこから別の技に派生させることができたら次の技を教えよう」



 服を払いながら師範が言います。



「まあ、神織周辺の魔獣を狩るというのが一番手っ取り早いだろうね。丁度良く強いはずだし」


「なるほど……わかりました」



 まだまだ覚えることはありますが、今は魔獣退治をすることにしましょうか。

主人公の身長について表記するのを忘れていました。

ゲーム内では155cm、リアルでは152cmです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 瞳孔、網膜、角膜、強膜ですか 流派まで目だらけですね
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