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見知らぬ道場

投稿が開いてしまい申し訳ありません。

8月中は毎日投稿できると思いますので、よろしくお願いします。



「…………あれ?」



 気がつくと、私は見知らぬ場所に立っていました。



「えー……何処ですか、ここ」



 辺りを見てみると、板張りの床や、なんと書いてあるのか分からない達筆な文字の記された掛け軸が目に入ります。

 壁には竹刀が立てかけられていますし、道場のようですね。

 私も高校に入るまでは空手を習っていたので、若干の差異はあれど馴染み深い場所です。


 にしても、道場ですか。

 謎の影を追いかけて、家の中に足を踏み入れたら引きずり込まれて、それで気がついたら道場にいたという……状況としては脱出ゲームに似てますよね。

 自分はああいうの結構好きなのでよくやってるんですけど、フリーの脱出ゲームとか導入すっ飛ばしてこういう場面からスタートですし。



「シキ、いますか?」


『ええ、勿論』


「シキはこの場所に見覚えとかあったりします?」


『そうね……』



 人魂の状態で現れたシキは、ぐるりと周囲を見回しました。



『ごめんなさい。私にもよくわからないわね』


「ですよね」



 以前、シキは神織について自分で見てきたかのように話していましたから、もしかしたら私の知らない情報でも知っているのかも……なんて思ったのですが、この状況はかなり限定的ですし、知らないのも当然ですね。

 

 まあ、脱出するべきなのかどうか、その判断材料を探すというのも含めて、少し辺りを調べてみることにしましょうか。



「……と言っても、なにか目ぼしいものがあるわけでもないんですけど」



 扉は開けようとしてもびくともしませんし、窓も無いので外の様子は一切わからず。立て掛けられた竹刀には使用された形跡もありませんし、その他にもこの場所の手がかりを得ることの出来そうなものはありません。

 後はもう、掛け軸の裏とかそういう場所くらいですかね? 脱出ゲームならハンマーで壊せそうなひび割れとか暗号とかが書いてある場所ですし。


 というわけで、私は掛け軸の裏を見てみるために、普通なら師範が座っていそうな少し床の高くなった場所に足をかけようとし——



「あら、お客様ですの?」


「っ!?」



 背後からかけられた声に驚いて勢いよく振り向くと、そこにいたのは銀髪の女性。

 急いで注視して名前を確認すると、そこには緑色の文字で飛柳院(ひりゅういん)雷華(らいか)と書かれていました。

 このゲームにいて、緑色の名前はその人物がNPCであるということを示します。そういう表記の違いがないとプレイヤーとNPCの区別がつきませんからね。


 友好的だろうと敵対的だろうとNPCは全員緑ネームになるようですが……一応、目の前の彼女は友好的に見えます。



「ええと……すみません、ここが何処なのかよくわかっていないのですけれど、どこなのでしょうか、ここは」


「なるほど、それならお客様というわけではないでしょう。ふふっ、よくってよ」


「はい?」


「神織八名家の一つ、飛柳院家の一人娘であるこのわたくしが先輩として指導して差し上げますわ!」



 ……何を言っているんでしょうか、この人は。



「えっと、責任者とかいないんですか」


「師範ならいますわよ? ただ、ここにいないのなら今はいませんわね」



 師範ってことはやっぱり道場なんでしょうか。

 なんというか、とても話の通じそうにない人なので、できれば師範に話を聞いてみたいのですけれど……。



「いつ帰ってくるのかわかります?」


「さあ……気まぐれな人だから、私にはわかりませんわね。それよりもさあ、さっそく道着に着替えてくださる? 善は急げというやつですわよ!」



 猪突猛進って感じですね……嫌いじゃないけどこの状況ではしんどいので誰か助けてください。

 「ふふふっ、遂にわたくしにも弟子ができましたわ!」とはしゃぐ彼女に連行されそうになっていると、不意に道場の扉が開きました。



「ごめんごめん、遅れちゃったよ」



 現れたのは、編み笠を被った謎の人物。顔が見えず声も中性的ですが、男性のようにみえます。

 そんな彼を見て、雷花が声を上げました。



「師範! いったいどこに行っていたんですの?」


「いやあ、道場に人が来るなんて久しぶりだから、衣装を引っ張り出してくるのに時間がかかってしまってね」


「師範?」



 なるほど、この人が師範のようですね。もっとお爺さんみたいな人を想像していたのですが。



「なるほど、君だね」



 師範は編み笠の陰から目をのぞかせ、私をじっと見つめてきます。

 何でしょうか? ちょっと居心地が悪いのですけれど……なんて思っていると、彼はゆっくりとしゃべり始めました。



「『極彩色』……眼の純粋強化と刀霊との視界の共有、か。能力は少し心もとないけど、大器晩成型という奴だろうね。流派に入ってないのにここを見つけられたのは驚きだけど、その能力を使えば確かに不可能じゃないのかも」


「えっと……?」


「ああ、ごめんごめん。癖なんだ」



 この人も【洞察眼】を持ってるのでしょうか。能力を判定するまでにかかる時間は私とは比べ物にならないくらい早いので、もしかしたら違うのかもしれませんが。

 ちなみに私もさっきから洞察眼を発動させようとしているのですが、一向に情報が開示されないので多分とんでもなく格上なのでしょう。



「あの、ここはどこなんですか? 小屋に入ったと思ったらここにいたんですけど」


「ん、雷花ちゃんはまだ説明してないんだね。それなら自己紹介も兼ねつつ教えよう」



 そういって、彼は師範用の場所っぽい場所に座ってから口を開きました。



「僕は神楽識天流(かぐらしきてんりゅう)現師範、天曾木(あまそぎ)嘉市(かいち)。普段はこの道場で師範をやったりやらなかったりしている」


「神楽識天流……」



 ってことはこれ、やはり流派ですよね。

 思わぬ形で流派を発見してしまいました。少なくともwikiには載っていない流派です。



「何処の流派にも所属していないようだけど、どうだろう。うちに所属してみる気はないかな?」


「そうですね……」



 正直どんな流派なのか説明がないのでよくわからないのですが、ちょっと運命のようなものを感じている私がいます。



「ちょっと体験させてもらったりとかできますか?」


「ああ、それはもちろん歓迎するよ。なにせ二か月ぶりの入門者だからね」



 そういって、彼は私に手を差し出しました。

 その手を取ると、[神楽識天流に入門しますか]という表示が現れます。


 二か月ぶりの入門者って滅茶苦茶過疎ってるじゃないですか、なんて思いましたけど、まあそれはそれでレア感もありますしと自分を納得させたうえで承諾したのでした。

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[一言] 目と足重点の流派かな~?
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