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夜に移る影を追う



 ゲーム内時刻午後8時23分、鴉通りの一角。

 昨日、槍使いのPKerを撃退したのと同じ時刻、同じ場所に、私は訪れていました。


 目的はもちろん、昨日見た謎の影の正体を暴くことです。

 ああいうのとても気になるんですよね。

 なんとなくレアなイベントっぽさもありますし、調べる価値は十分あるでしょう。



「さて……大体このくらいの時間ですかね」



 一応日中にもこの場所に来たのですが、その時には確認できず。

 というわけで、キルログから時間を確認して同じ時間に来てみました。


 昨日見たのは確かあの屋根の上でしたっけ。位置的にも合ってそうです。


 屋根の上を見据え、能力を発動。

 あらゆるものがゆっくりと動くその視界の中に、果たして影は現れました。



「速っ……!」



 影は物音一つ立てず、一瞬の内に遠くの方へと去っていってしまいました。

 能力を発動していてこの速度ですから、普通のプレイヤーには見えないんじゃないでしょうか。それくらい速いです。



「うーん……どうしましょう、これ」



 同じ時間なら見れることが分かりましたが、とはいえあれ程速いとどうしようもないというか……。

 一応、進んだ方向はわかりました。烏通りを西の方向に進んでいった感じです。



「明日もう一度見てみましょうか」



 進行方向で待ち構えていれば、いつかは終点にたどり着くでしょう。

 どのくらいかかるかはわかりませんが、まあ毎夜決まった時間に見てみるだけですからね。それほど負担にはならないと思います。


 今は夏休みですし、時間だけは何よりも有り余ってますから。

 ……まあ、三年生なので本当は受験勉強とかしないといけないんですけどね。

 正直言って、私は大学に進むかどうかすらまだ悩んでいますから、そっちを何よりも先に考える必要があるのですけど。



「はあ……」



 思わずため息が漏れます。

 もういっそ、プロゲーマーにでもなってしまいましょうかね。

 以前、<虎狼BS>をプレイしていた時にあるプロゲーマーの人と知り合って多少有名になったことがあったのですが、その辺りでいくつかのチームから名刺を頂きました。

 ただまあ、その時はまだ高校に上がったばかりでしたし、プロゲーマーについてもよく分からなかったので、今はプロゲーマーになるつもりはありませんと宣言したんですよね。


 それが今になってやっぱりプロゲーマーになりたいと言って、受け入れてもらえるものなのでしょうか。

 SNSのアカウントも一回消してしまいましたし……。


 相変わらず行き当たりばったりですね、私。



「……と、いけませんね。また弱気になってしまいました」



 一人でいると、どうしてもこうなってしまいます。

 人前なら私は私を演じられるんですけどね。



 まあ、今日のところはいいでしょう。

 地図に場所と進行方向をメモし、私はひとまずログアウトしたのでした。




————




 ゲーム内時刻で丁度一日後。

 昨日影を見た場所からかなり西に進んだ場所で、私は影を待ち構えていました。


 今度は進行方向がわかりやすいように最初から屋根の上で待機しています。


 時刻は午後8時23分。昨日と同じ時間です。

 方向を確認してから、能力を発動。昨日より少し遅れて、影は現れました。


 相変わらず能力発動時でも目で追うのがやっとの影は屋根上を疾駆し、一瞬のうちに姿をかき消してしまいます。


 進行方向は昨日と同じく西。

 場所と進行方向をメモして、明日も影の場所を確認することにします。



 そんな調子で、私は影を調査し続けました。

 影は西に進み、北に進み、また西に進んだかと思いきや、今度は南に進んでいくなど、追いかけるのは少々骨が折れました。


 しかし、それでも影を追い続け——ゲーム内で15日後。私はようやく影の終着点を見つけました。



「ここ……で良いんでしょうか?」



 その終着点を前に、一抹の不安がよぎります。

 屋根の上を疾走し続けた影は、最後、路地裏の謎の家の中に姿を消しました。

 その家は傍目に見ても明らかにボロボロで、窓の様な格子から中を覗き見ることはできず、異様な雰囲気を放っています。


 罠だったりしないでしょうか。流石にここまで追って来て罠とか凄く嫌なんですけど。

 ……ただまあ、ここしか無いんですよね。実際この家に飛び込んでいくのが見えたので。



「……行くしか無いですね」



 意を決して、私はそのボロ家の引き戸を開き、その暗闇の中に脚を踏み入れ——瞬間、世界がぐるりと姿を変えました。



「ちょっ……!?」



 一面の漆黒は虹色の渦へと姿を変え、その奔流に吸い込まれていく様な感覚が私を襲う中、渦の先から現れた無数の腕が私の四肢を掴み、引きずり込もうとします。

 その腕を払い除け、どうにか逃げようとし、しかしどうにもならず、私はそのまま渦の先へと引きずり込まれて行ったのでした。

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