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空舞う影



「……」



 刀を払って鞘に納め、ゆっくりと立ち上がると、のぼせたように足元が一瞬ふらつくのを感じます。


 肺に残った微かな空気を押し出すように吐き出すと、火のように熱い吐息が漏れ出しました。



「リ、リクドーさんっ……大丈夫?」


「——え? あ……すみません、ぼーっとしてしまって」


「良かった……声かけても反応がなかったから、そういうデバフがかかってるのかと……」



 なんとなくぼーっとしていたみたいです。

 たまにあるんですよね、こういうこと。乱戦中にやってしまうとマズいのでどうにかしたいとは思うのですが。



「さて、アイテムは……っと、あまり持っていませんね」


「置いて来たんじゃないかな……? 多分、PK同盟への入団テスト……みたいな」


「入団テスト?」


「何人殺さないと入れないみたいなの聞いたことあるから、それかなって」


「あー、そう言う奴ですか。巻き込まれた側としては迷惑この上ないですね」



 動きもあまり良くありませんでしたし、初心者がPK同盟に入る為にやったと考えるのが妥当でしょう。

 あまりアイテムを持っていないのは、負ける可能性を見越したのか、それともそもそもアイテムをあまり持っていないのか……。どっちにしろ、今回の戦闘では大した戦利品は得られませんでした。

 アイテム類を拾ってから、通行の邪魔にならないように死体を路地裏に置いておきます。



 そういえば、戦闘中に少し思ったんですけど、能力発動時の思考の加速率が少し上がってるような気がするんですよね。

 これ、どういう仕組みなんでしょうか。

 気になって、少しシキに聞いてみることにしました。



「シキは能力について知ってたりします?」


『ええ、知っているわ。そもそも私が能力そのものと言っても過言ではないでしょうし』



 確かにそうですね。設定的には、刀に宿った付喪神のような性質を持つ霊が、所有者の戦闘情報や敵から啜った霊力によって超常的な能力を持ち、その力を所有者に貸し与えている……みたいな感じでしたっけ。



『貴女の能力は眼の純粋強化。主に動体視力と言われる部分の能力を飛躍的に向上させ、戦闘を有利にする能力よ』


「……え、そういう能力なんですか? これ」



 動体視力の向上を思考速度の加速という形で擬似的に再現している……ということなのでしょうか。

 まあ動体視力を向上させると言われても、せいぜい見たものに瞬時にフォーカスが合わさるとかそのくらいしか思いつきませんし、それに比べたら現状の方法にするのが良いのかもしれませんね。

 思考速度の加速に関しては、ゲーム内時間を調整すれば問題なく出来そうですし。



「ということは、能力の効きが強くなってる気がすると言うのも……」


『貴女の眼の元々の能力が以前に比べて向上してきている、ということね』



 なるほど。何というか、紋を目に振ったのがここに来て活きて来ているって感じですかね。

 ……いや、むしろ眼に極振りしてるからこそこの能力になったのかも?


 冷静に考えると人それぞれに固有の能力とかどういうシステムで成り立ってるのかわかりませんよねってところまで行ってしまうので、あまり深く考えるつもりもありませんが。

 龍子曰く「MANDALA社が僅かでも関わってるゲームにはよく分からない技術が入ってる」らしいです。

 一説によると、最新の軍事システムを流用しているのだとか。3DCGやGPSと言った技術も元は軍事システムですから、まああながち間違っているわけでもないのでしょうけど。

 この<虎狼 零>はメインの開発がMANDALA社らしいですし、この刀霊システムも軍事システムが元になっていたりするのかも知れませんね。



 ……と、そういえば紋について考えた時に思い出したのですが、最初に割り振って以降、紋の数を確認していませんでした。

 ステータスを開いて確認してみると、紋は12つ。

 思ったよりも溜まるものなんですね。


 さて、どこに振るべきか……



「……えいっ」


「えっ、何したの?」


「紋を全部眼に突っ込みました」


「えー……」



 そんな引いた目で私を見ないでくださいよ、興奮しちゃうじゃないですか。

 やはり世間的には極振りって異端なんですかね。


 まあ関連する複数項目にまたがっていたほうが良いだろうなというのは実感していますし、正直蹴りのダメージを上げたいので脚とかに振るのも考えたんですけど、正直そこまで考えるのも面倒だなということで極振りを継続してしまいました。

 月額課金系のサービスを止めるタイミングを見極められずにダラダラ継続してしまうというわたしの個性がここでも遺憾なく発揮されてしまっています。


 まあ、それはさておき。



「さて、紋を入れて見たところで早速効果を確認して見ましょうかね」



 戦闘中に使えるかもと思っていくつか拾っておいた石をインベントリから取り出して、頭上に放り投げます。

 落下するまでの秒数を数えてから、もう一度同じくらいの高さに放り投げ、今度は能力を発動した上で計測してみます。

 その差から能力の大体の倍率を計測する作戦ですね。


 結果として、意識の加速は大体倍くらいになっているということがわかりました。

 今までは計測したことがないので正確にはわかりませんが、少なくとも倍よりは少なかったはず。

 体感でも、先程の戦闘に比べて明らかに強化されているように感じました。



「いい感じに強化されてますね」


「わたしには全然変わってないように見えるけど、リクドーさんのはそういう能力だもんね」



 相手から見れば、私は能力を使っていないように見えるでしょうからね。

 敵に「まだ刀霊の能力という隠し球がある」と思わせることもできそうです。



「派手さは無いけど便利な能力ですね」



 そう言って、私はもう一度石を放り投げて能力を発動し————視界の端で高速移動する黒い影を見つけました。



「——ん!?」


「えっ、どうしたんですっ……じゃなかった。どうしたの?」


「今なにか、一瞬影が屋根の上で動いていたような……」



 もう一度能力を発動して見てみますが、特にそれらしいものは見当たりません。

 見間違え? にしてはハッキリと見えたのですが……。

 というか、能力を発動した上であれだけの速さというのはちょっと異常では?


 べらぼうに速いプレイヤーという可能性もありますが、何かのイベントに繋がっているという可能性もあります。



「何か面白そうな予感がしますね……!」



 あの影の正体を暴いてやろう。

 そう意気込んで辺りを見て回った私でしたが、結局その日は大した痕跡も見つけられず、そのまま彩音と一緒に烏通りの店を見て回ったのでした。

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