幕間 壱
<虎狼 零>内の掲示板はプレイヤーネームが強制的に出ます。
それが嫌なプレイヤーは外部の掲示板に行くので、民度的に結構差があります。
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[総合雑談スレ Part.639]
1:ベルドロフォー
<虎狼 零>について語るスレです。
荒らしは見かけ次第通報してください。反論も通報される可能性があります。
※前スレ→[総合雑談スレ Part.638]
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329-4:ロビンソン
予想以上にドラマティックだな
330:DNA
そういえば【滅星同盟】の盟主変わったらしいな
330-1:零落
キシガミだっけ? あそこのシステムよくわかんないけど
330-2:移動式図書館
マジか
331:ランチャー斉藤
ここって虎狼シリーズの話していいんだっけ。
331-1:ジュリ
他作品てことか? 専用スレ見当たらないし良いと思うけど
332:ザンジバル
おっ、虎狼NEXTの話か
332-1:デストラクション
やめろ
333:ランチャー斉藤
<虎狼BS>で有名だったリクドーってプレイヤー覚えてる奴いる?
333-1:ふぇいん
誰だっけ。プロゲーマー?
333-2:ロイ
ヴィルベル?
333-3:ランチャー斉藤
いや、プロゲーマーじゃない。
戒堂蘭華全一のプレイヤー
333-4:ジョエル
思い出した
333-5:吟醸
思い出した
333-6:85号
知らなかったけど蘭華使いで調べたら出たわ
あれ使ってたの当時何人いたよ
333-7:ユリウス
懐かしい。蹴りビルド一瞬流行ったよな
再現できなくてすぐ廃れたけど
333-8:ランチャー斉藤
さっき神織で見たんだよ
相変わらず蹴り使ってた
333-9:千年刀
SF実況スレで実況されてたやつか?
滅茶苦茶うまいって話題になってたけど、名前までは出てなかったな
333-10:ひどらん
飛んでったってヤツか
333-11:縄文
飛ぶ?
333-12:JG
SFスレ見ろ
333-13:レグルス・ラウエル
今日は【御庭番衆】と【宇宙戦艦黒船】の大規模な抗争があったからな。
流れてると思うぞ。
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ゲーム内掲示板が表示されたウィンドウを見ながら、金髪碧眼の少女は呟く。
「リクドー……」
彼女がメニューからフォルダを開き、『BS記録帳』というノートを開くと、人の名前がズラリと並んだリストが表示された。
夜夜 渡瀬虞煉 済
ライオネル 陰樫久郎 済
らむだら 沙羅座しとね 済
ララランス 夜藤清彦 済
リガーリグ 凶仙解 済
プレイヤー名と<虎狼BS>のキャラ名が並ぶリストをスクロールしていくと、果たしてその名前はあった。
リクドー 戒堂蘭華 未
「うん、やっぱり」
少女は満足そうに頷くと、インベントリから脈導石を取り出した。
「待っててね、リクドー」
そうして、彼女は脈導石を放り——
「…………神織、行ったことなかった」
地面に落ちた脈導石を拾ってから、少女は神織に向けて歩き出したのだった。
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見渡す限り、何もない空間だった。
地面には、均一に引かれたグリッドによって作られた正方形が無数に整列し、空はどこまで行っても薄青く。
そんな、オブジェクトを配置する前の一番最初の状態であるかのような世界の真ん中に、男はいた。
宙に浮く数十のウィンドウと、そこに並ぶ文字列。
男が手元の仮想キーボードを叩くのに従って、文字列は恐ろしいスピードで増殖していく。
VR内と現実の時間の進みを乖離させるシステムにおいて、フルダイブ中の脳に負担のかからない最大値は6倍とされている。
それを独自のシステムでもって10倍にまで引き上げた彼は、この空間の速度を12倍にして仕事に打ち込んでいた。
つまりは、働きすぎであった。
「この程度の超過によるダメージなら寝れば勝手に治る」というのが彼の持論である。
MANDALA社の代表として三つのゲームのメインプログラムを担当する彼にとって、働きすぎという概念はそもそも存在しないのだろう。
「VOXのユニークとアイテムの修正プログラムがこれで……Chaos Keeperは新武器の追加でのバグか。挙動がおかしくなってるのはこれのせいっぽいね。修正っと」
順調に仕事をこなしていく彼だったが、突如としてウィンドウの一つが赤い文字を映し出した。
——ERROR CODE 185C2 - Lambda Box——
そのエラーメッセージを見て、男の顔が青ざめる。
185C2が表すのは、多数のシステムにおける参照先が複数存在するというもの。
その後ろに存在するLambda Boxというのが、その複数存在する参照先であるのだが……。
「不可解だ……一体何が起こってるんだ?」
そもそも、今は<虎狼 零>ではなく<VOX-0>と<Chaos Keeper>の修正作業をしているところだ。
このエラーメッセージがプログラムに触れていない状況で出るはずがない。
それに、このLambda Boxというのは<虎狼 零>の根幹をなす重要なものだ。
そこから男は一つの結論を導き出し、メニューから赤いメガホンのアイコンを叩いた。
「えー、社員並びに『天岩戸』に緊急連絡。今すぐどうこうするって話じゃ無いし、僕としてはこのまま泳がせたいって気持ちもあるんだけどね?」
そう前置きしてから、男は言葉を続けた。
「起きたことをそのまま言うと……『匣』がコピーされて、そのまま消えた。理由は不明、どうやってコピーされたのか、消えたのかも不明。正直お手上げだね」
『誰かにハッキングされて持ち出されたって可能性は無いんスか?』
「無いね」
何者かから提示された可能性に対し、彼は即座に否定で返した。
「そもそも侵入できる人間がいないからね。まあ僕の師匠なら出来るだろうけど……こんなことする人じゃないし」
『こちら天岩戸、把握しました。いつも通り待機ですか?』
「ああ、君か。とりあえずメンバーを<虎狼 零>に集めておいて欲しい。その後はまあ、捜索するなりなんなり……基本は一任するよ」
『はあ。……一応連絡は回しておきます』
「頼んだよ〜」
『また先延ばしにしてるっスけど……いい加減早く対処するってことを覚えた方が良いんじゃないスか?』
「それだけの価値があるってことだよ」
『価値、ねぇ……』
「はっはっは」
責めるような声を笑い声ではぐらかし、男は通信を切断した。
そうして椅子に深く座り、息をついてから、
「『匣』の新たな可能性……見せてくれるだろうか」
そう一言呟いて、彼は仕事に戻って行ったのだった。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
これにて一章終わりです!
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