その名は『万華郷』
一章ラスト。
この後は現時点でのキャラ紹介と章の間の接続話を挟んで、そのまま二章に行くつもりです。
さて、いろいろありましたが、どうにか街の中に入ることができました。
神選組も現れる気配がありませんし、とりあえずさらに厄介なことになることはないでしょう。
「で、同盟の申請ってどこからできるんですか?」
「あ?」
問題は龍子の機嫌がずっと悪いことなんですけど……。
「すまない、私の存在が気に障っているのだろう? ……できればアナタには笑っていてほしいのだけれど。その美しい顔が曇ってしまうのは、私としても不本痛たたたた」
顎に触れようとしたベアの指を、龍子が掴んで逆方向にへし折り始めました。
まだ同盟を作る前だというのに二人の相性は最悪そうです。
大丈夫なんでしょうか。
「あ、えっと、同盟の申請は御役所でできたはずですっ」
「御役所ですか。ありがとうございます」
彩音は癒しですね。小動物的な感じです。
さて、マップを開いて確認してみると、御役所は少し歩いたところにあるようでした。
いろいろと移動手段はあるみたいですが、この距離なら徒歩でいいでしょう。
「行きますよ二人とも」
「ちょっと待ってろこいつ殺してから行くから」
「おや、騎士を自覚するものが姫様の命に背くのかい?」
「お前ほんとうぜえ!」
背後でてんやわんやしている二人を引き連れて、私たちは神織の通りを歩いていきました。
「さっきはびっくりしました……リクドーさんの能力なんですか?」
「ええ、能力の一部ですけどね。刀霊と視界を共有できるんです」
ちなみにシキは一時的に休眠状態に入っているらしいです。
呼び出せば来るらしいのですが、まあ先ほどの戦いでは頑張ってくれたわけですからそっとしておきましょう。
「彩音の刀霊はどんな能力なんですか?」
「わたしの『雨色蝶々』は回復系の技を使えるんです。蝶を飛ばしたり、雨を降らせたり……敵に対してはデバフが入るみたいですけど」
そういえば、キマイラに対しては雨毒というデバフがかかっていましたっけ。
「刀が渇くと使えなくなるので、無尽蔵に使えるというわけではないんですけどね」
「それでも便利ですよ、回復能力って。戦闘中に回復薬をのむタイミングって思ったよりもありませんし」
「そ、そうですか? えへへ……ありがとうございます」
かわいいですね……下手したらあざとさを感じさせかねないムーブですが、単純にかわいいです。
さて、歩いていると道の先に大きな建物が見えてきました。
「あれが御役所ですか。結構大きいですね」
入ってみると、魔物の特徴の書かれた紙の貼られた掲示板や、青色の結晶など、使用用途はよくわかりませんが、様々なものが設置されていました。
かなり様々な施設が一つに集まっているようです。
同盟の登録に関してはわかりやすく、総合窓口から申請をすればいいようです。
なんか現実の役所みたいな感じですね、なんて思いつつカウンターの鈴を鳴らすと、奥から一人の女性がやってきました。
「お待たせいたしました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「同盟を作りたいんですけれど」
「同盟の設立ですね、かしこまりました。それではこちらにご自身のお名前と、同盟の名前をご記入ください」
私のもとに紙が差し出されました。
また名づけですか……私名づけ苦手なんですって。
「誰かいい案ありませんか?」
「そうだね……私はアナタに従うよ」
「わたしも、リクドーさんにおまかせしますっ」
みんな消極的ですね……というか私、リーダー的ポジションになり始めてませんか?
何というかそれは面倒なんですけど――
「よしリクドー、10秒で決めろ」
「えっ、はっ?」
「10、9」
無茶ぶりが来た上にカウントダウン始まったんですけど!?
「8」
何にしましょう、なんかぱっと浮かんだものを……!
「7」
みんな知ってる言葉をもじる……慣用句とか……
「6」
千変万化……とか?
「5」
花の都ですし万花にしましょう。いや華の方が良いのかも……?
「4」
万華鏡とかも良いですね。華ですし。
「3」
万華鏡……万華郷とか。
「2」
万華……千変万華と混ぜられますね
「1」
でも長いような……ええい、ままです!
「0!」
「万華郷! 万華郷にしましょう!」
さっと紙に万華郷と書いて見せます。
「万華郷……いいんじゃね?」
「なんというか、自分でも久しぶりにうまくいった気がします」
この10秒で考えるってやり方、良いかもしれませんね。
ついつい捻りすぎてしまって意味の通じにくい名前になるというのが常だったので……。
「名前被りもございません。では、【万華郷】でよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「かしこまりました」
これで登録できたのでしょうか。
気になってメニュー画面からステータスを開いてみると、所属同盟:万華郷という表示が追加されていました。
「出来たか? そしたら招待送ってくれ」
「招待……これですね」
フレンドリストから三人に招待を送ります。
すぐに三人の名前がメンバーリストに追加され、晴れて私たちは同盟を組むことができたのでした。
「……ところで私が盟主になってしまっているんですけど」
「別にいいだろ。一番リーダーっぽいし」
「そうだね。アナタは人を導くことのできる逸材だ」
「わっ、わたしはリーダーとか無理ですからね……?」
確かにこのメンツだと私がリーダーをやらざるを得ませんね……。
ただまあ、こういうのはあまり得意ではないんですけど、今日に限っては不思議とそれほど嫌な気分ではありませんでした。
多分、それだけ私がこのゲームを楽しんでいるということなんでしょうね。
これからもずっと楽しんでいくことができればいいなと密かに願う私でした。




