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眼と眼を合わせ



 ――――あれ?



「もしかして私、生きてます?」



 雨がしとしとと降る中、ゆっくりと立ち上がってみると全身に広がっていた痺れはなく、それどころか視界の端を覆う赤いエフェクトも消滅していました。

 体力が回復している……?



「不思議なこともあったものだね……死を覚悟していたのだけれど」


「なんかよくわかんねーけど、デバフも消えてるんだよなぁ」



 すぐに二人も起き上がってきました。

 困惑しているところから察するに、どうやら二人も私同様に回復している様子。



「っと、そうだキマイラは!?」



 龍子の声に慌ててキマイラのほうを向くと、そこにあったのは、呻きながら苦しみもだえる三つの顔。

 注視してみると、雨毒という名のデバフがついていました。



「雨……この雨が関係しているのでしょうか……?」


『ふふっ、あなたの行いがこの雨を引き寄せたのよ?』


「え、それってどう言う――」



 その言葉の意味を問おうとしてシキの方を振り返った私は、思わず硬直します。

 目の前にいたのは紫色の球体などではなく、一人の少女でした。


 地面につきそうなほどに長い黒髪と、羽衣のように揺らめく紫色の着物。

 髪の間から覗く眼は閉じられ、その長い睫毛も相まって不思議な雰囲気を持っていました。



「貴女、シキ……ですよね?」


『ええ、そうよ。貴女があれほど強く願ったのだから、私も応えなくてはと思ったの。私自身の成長を以て貴女を導くのが私の役目と言ったでしょう?』



 そう言って、シキは微笑みました。

 急にいろいろなことが起きていて少し混乱しているのですが、これは『極彩色』が新たな能力を発現させたのだと受け取ってもいいのでしょうか?



「何はともあれ、このチャンスを逃すわけにはいきませんね」


「そうだね。私も、今度は失敗しないと誓おう」


「つっても、また同じようにやっても意味ないんじゃねーか?」


「単純に人手が足りてませんよね。抜け道的な倒し方というのを探りたいんですが……」


『そこは私の出番かしら?』


「シキ?」



 人間体のままふわふわと浮遊していくシキ。彼女は未だ苦しみ続けているキマイラの横にまわってゆっくりと目を開き――その瞬間、半透明の山羊の頭部が私の目の前に現れました。



「わっ、えっ、なんですかこれ!」


「急にどうしたリクドー」


「なんか山羊が目の前に……山羊が目の前に? 山羊が目の前にいる状況ってなんなんでしょうね」


「自分で言ってて混乱するなよ……」



 目の前で起きた光景のインパクトが強すぎて若干混乱してしまいましたが、私は直感的にこれが新しい能力なのだと悟りました。

 目の前に突如現れた山羊の頭部はキマイラの山羊部分そのもので、今シキが浮遊しているのも丁度山羊の目の前。



「視覚の共有……ってことですか」


『ふふっ、その通りよ』



 視界の共有……うまく使えば戦闘の幅が広がりそうな能力ですね。

 というか今使えるやつです。



「シキ、そのままキマイラの周囲を見てみてください。怪しいところを調べます」


『わかったわ』



 シキが浮遊してキマイラの周囲をまわるのにあわせ、目の前に表示されていた半透明の山羊が消え、キマイラの全体像が表示されました。

 パッと見ですが、徐々に毒に適応してきているように見えます。

 早く弱点らしき場所を探さないといけませんね……。


 腹部や脚部などを見てみますがそれらしきものはなく、口内にもありません。

 それなら背中を……あっ。

 めちゃくちゃそれっぽいものがありました。

 獅子の顔と竜の尾の端は山羊の胴体に繋がっており、およそ腰のあたりに位置するその三つが交わる点に、異なる三種族を繋ぎとめるためのものと思われる結晶のようなものがありました。



「なんか滅茶苦茶雑な作りですね……」



 カンパニー謹製っていう割には肝心なところがしょぼいです。

 ただまあ、今はそれがありがたいのですけれど。



「弱点らしきものを見つけました。背中にあるみたいです」


「なるほど、背中か。どう攻めよう」


「なんにせよ、動きを止めねえとな」


「それなら私に任せてほしい。荊を使えば少しの間動きを止めることができるはずだ――《セルヴィトゥ・ローザ》!」



 ベアトリーチェのレイピアから薔薇の荊が複数本放たれ、それらは地面に潜行すると、キマイラのすぐそばで再び地上に現れて互い違いに拘束しました。



「「「――ォォォォオ!!!」」」



 棘が食い込んでいるのか、キマイラは叫び声をあげながら抵抗し始めます。



「あまり長くは持ちそうにないね……竜の炎を抑えられないだろうか」


「それならアタシの出番だな。行くぜ!」



 刀を片手に龍子はキマイラに接近し、竜の頭部の丁度下あたりに傷をつけると、炎が噴き出すのに合わせて跳躍し、暴れる竜の額に刀を突きたてました。



「炎の効きが悪ぃなら、どっちが先にスタミナが切れるか勝負しようぜ。なあ、トカゲさんよぉ」


「――!!!!!」



 言葉の意味が分かったのかどうかは知りませんが、竜はこれまで以上の声量で咆哮すると、龍子に向けて炎を噴出し始めました。



「こっちは気にするな! アタシは炎効かねえから平気だ!」


「わかりました!」



 となると、私はおのずと弱点部に攻撃を入れる役割になりますね。



『私に掴まれ。上空まで連れていく』


「あっ、龍子の刀霊さん。いいんですか?」


『構わん。主の窮地だ』


「ありがとうございます」

 


 言われるがまま、私は龍子の刀霊につかまって上空へと移動しました。


 正直言って、結晶を私の力で破壊できるかどうかはわかりません。

 ですので、少しでも成功率をあげるために高めの位置から落下することで位置エネルギーの力も加えてやろうという作戦を考えました。

 自分にも落下ダメージが入ってしまいますので諸刃の剣ではありますが、今なお降り続ける雨の効果によって軽い継続回復(リジェネ)状態となっているため、ある程度なら耐えられるでしょう。多分。



 荊に捕らわれたキメラを眼下に、狙うは接続点を覆う結晶。

 シキの視点も使いつつ、細かく降下位置を調整してもらいます。


 とは言え、相手は捕らわれながらも暴れている状態。

 最終的な位置はずれる可能性もありますから、そこは自分でどうにかするしかないですね。



「ふぅ……ここで大丈夫です」


『分かった』



 ゆっくり息を吐いて、結晶を見据えます。

 流石に高すぎると落下死してしまうのでそれほど高いわけでもないのですが、とは言えこの位置から自由落下するというのはかなり怖いです。

 まあでも、ゲームですからね。それくらい割り切ってないとアクロバットなプレイはできません。



「さあ……行きましょうか」



 三回の深呼吸の後、私は手を放しました。


 内臓の浮かび上がるような感覚と、徐々に迫ってくるキマイラの背中。

 その上に存在する結晶に狙いを定め、私は構えた刀を一息に振り下ろし――



「――ハァッ!!」



 ――パキィンッと音を立てて、結晶は粉々に砕け散ったのでした。



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