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舞い遊ぶような桃色

視点変更ってどう書いたらいいんでしょうか。

一応今回の話では◇◇◇で区切って表していますが、分かりにくかったら申し訳ないです。



◇◇◇◇◇◇◇




(思ったよりも楽しませてくれるじゃねェか)



 爆発によって舞い上がった土煙の中、ザイエンは獰猛な笑みを浮かべた。



 最初こそ、ザイエンはリクドーの名を見てひどく落胆していた。

 プレイヤーを注視することで現れるウィンドウの、リクドーという名前の横に初心者マークが付いていたからである。


 初心者マークは、現実時間換算で七日間ログインすることと、何らかの流派に所属することで自動的に解除される。

 どちらか一方を達成することでマークは半分になるのだが、リクドーのものはそうはなっていない。


 つまり、ザイエンが相手として選んだ少女は<虎狼 零>を始めたばかりで、刀技すら持たぬ初心者である、ということだった。



 さっさと倒してしまおう。

 そう考えたザイエンは、これまでに何人ものプレイヤーを屠ってきた圧倒的速度の初撃をリクドーに放ち——容易く回避された。


 一度ならば、まぐれかも知れない。

 そう思って放った二撃目、三撃目までもを躱されて、ようやく彼は気付いた。

 今目の前にいるのはただの初心者ではない、と。



 そうして彼は、一先ずの小手調べとして先ほどよりかは真面目に戦闘を行った。

 当然、流派の技を持たないというのはステータス的にも刀技的にもかなり差が生じてしまうので、全身全霊で戦えば苦労せずに勝利してしまうだろう。

 しかし、それでは面白くない。


 それ故に、ザイエンは刀霊の能力を一つしか使用しないという縛りを自分に課していた。


 それでようやく、自分自身が楽しめる程度の力の差になるだろうと考えたからだったのだが……



「その結果がこれか」と、ザイエンは自嘲気味に笑った。

 たった一度の攻撃で仮面を割られ、直撃を免れるための回避で膝までつかされ、そのうえ使っていなかった刀霊の能力さえも暴かれたのだ。

 相手を舐めていたと、認めざるを得なかった。



(にしても、刀霊の能力を看破する能力か……爆発はともかく、問題は三つ目の能力がバレているかどうかだ。アレは絶対に知られたくねェしな……)



 彼にはとある目標がある。

 それは、当時まだ初心者であった自分を惨殺したPKerに復讐することだ。


 その為に三つ目の能力は必要不可欠であり、だからこそその存在を誰にも知られたくないのである。



(さて……やるか)



 ザイエンは重い刀を両手でしっかりと持ち、身体を沈めた。

 そして、今まさに晴れようとしている土煙の中から飛び出して、既に戦闘体勢を整えていたリクドーに対し頑陀羅の一撃を振り下ろしたのだった。




◇◇◇◇◇◇◇




 爆発。爆発に次ぐ爆発でした。

 抉られた地面から土塊が飛んで視界を覆い、その影から迫る大剣は寸前で回避しても爆発のダメージをもらってしまうため、かなり大げさに避ける必要があります。

 正直言って、相性は最悪でした。



「はぁ……はぁ……」



 持久力を底上げする効果のあるスキル【継続戦闘】があってなお、追いつかないほどの疲労が身体を襲います。

 全ての攻撃が範囲攻撃なので最小の動きで避けるというのは出来ず、そうなるとスタミナ管理も難しいんですよね。


 どうにかスタミナを維持しようとしても、今度は爆風の範囲内に入ってしまいますし……客観的に見てもこれは明らかにジリ貧でした。


 どこかのタイミングで反撃しなければ。

 そう理解してはいるのですが、しかしそのタイミングというのは一向に訪れる気配もなく。


 三つ目の回復薬をあおりながら、周囲に何か使えるものは無いかと見渡してみます。


 既にNPCがいなくなり、野次馬のプレイヤーのみが遠巻きに私たちの戦闘を眺めているこの状況。

 武具屋や道具屋などは既に閉まっており、そこから何かを調達することは難しそうです。


 その他に周囲にあるものといえば、この戦闘で破壊されたオブジェクトの残骸である木材や、店先に掲げられていたものであろう暖簾など。

 あとは通りに生えている幾つかの煌輝晶(こうきしょう)が微かに光を放っているのみです。



「一か八か……やるしか無いですね」



 ステータス的にも能力的にも負けているのなら、多少の博打は仕方ありません。

 ザイエンの攻撃を回避しつつ、地面に落ちた暖簾を拾い上げてインベントリに突っ込みます。

 大きさは私の身長と同じくらい。少し大きいですが、まあ問題ないでしょう。



「何を考えてんのかは知らねェが、このままじゃあマズいんじゃねェか? なァおい」



 どことなく上から目線ですね。自分の勝ちを確信しているのでしょう。

 まあそういう人間の方が倒した時に喜びが強いですからね。



 さて、またもやザイエンは大振りで刀を振るってきました。それが一番効果的なのでそうする他ないのでしょうが、好都合です。


 私は振り下ろされた刀に対し、敢えて突っ込んでいきました。



「——ッ!!」



 身体に刀が当たる寸前で身体を捻り、攻撃を回避します。先程まで同様の状況であれば確実に発動していた爆発は来ません。予想通りです。


 能力の使い方を見る限り、爆発はザイエン自身にも効果がある様子。

 であれば、懐に入り込めば爆発は使えないでしょう。

 それに巨大な刀を振り回すのも難しくなります。


 捨て身の爆発の危険もありますから過信はできませんけど、それでも先程までよりは余程いい条件で戦うことができるというわけです。

 まあ、自分も刀を振るうのが難しくなる距離なので徒手空拳で戦う必要はありますが。



「今度はこちらから行きますよ」



 刀を納め、相手の死角に回り込み、脇腹に膝蹴りを入れます。

 次いで掴みかかってきた腕を潜り抜け、更に蹴りを続けていきます。



 ちなみになぜ蹴りを多用するのかというと、前作で自分が使っていたキャラクターがパッシブで『蹴りの威力が増加する』という能力を持っていたので、それに合わせてVR上での蹴りについて研究と練習を重ねた結果身体に染み付いてしまったからです。

 まあこのゲームなら基本は刀使いますし、そうなると手より足を使ったほうが都合がいいでしょうから、結構合理的なのでは?



「ぐっ……良い動きだ」



 急所に直撃を食らったザイエンが顔を歪ませながら言います。



「だがな、俺ァ刀が無くとも戦える流派なんだ……《剛拳(ごうけん)》!」



 至近距離で放たれた拳を直前で回避しますが、それと同時に生じた衝撃波が私の頭部を揺らしました。

 ダメージは大きくなさそうですが、視界が揺れるのはかなりしんどいです。



「徹底的に相性が悪いですね……!」

 


 避けてもダメージが入る技が多すぎて、個人的にメタられてるのでは無いかと思うレベルです。

 これはもう、速攻で決着をつけるしか無いでしょう。



 至近距離での戦闘をしながら、私は戦闘位置を変更していました。

 なるべくザイエンには()()られないように、徐々に、徐々に。


 そうしてようやく目的の立ち位置にまでやってきてから、私はインベントリから暖簾を取り出し、作戦を行動に移しました。



 ザイエンが拳を振り下ろしたタイミングで彼の背後に回り、そこで一瞬のタメを作ります。

 当然ザイエンは私の姿を追う為にこちらを向きますから、そこに合わせて暖簾を展開し、こちらを見えなくしてから布の向こう側に飛び膝蹴りを放ちます。

 


「ぐあっ……小癪な!」



 頭部に蹴りをクリーンヒットさせつつ、更に包み込むように暖簾を動かします。

 なんかハロウィンの仮想の幽霊みたいになりましたね。前を見るための穴は空いてませんが。

 


「さあ、こっちですよ」



 敢えて足音を立て、私は目標の位置へと動きます。


 暖簾を引っぺがしながらこちらへと近づいてくるザイエン。

 彼が振り上げた刀を能力も併せて全力で見て、私は出来る限りギリギリで回避しました。



 斬り裂く相手を失ったザイエンの刀はそのまま突き進み——私の背後に生えていた煌輝晶(こうきしょう)を破壊しました。



「な——ッ!!?」



 瞬間、凄まじい光の奔流が辺り一面を覆います。

 その光量は予想以上で、手で顔を覆っていた私ですら強い光を感じるほどでした。

 当然、それを不意打ちで食らったザイエンが対応できるはずもなく。



「ガぁっ! んだこれ、目が……ッ」



 当然、この機を逃す自分ではありません。

 光の洪水が止まったのを確認し、まずは暴れられないように腕を破壊しに動きます。


 適当な方向に振り下ろされた刀と爆風に当たらないように走り寄り、壁を蹴って跳躍。

 その勢いのまま肩口に刀を突き刺し、捻り斬ります。

 赤い蛍光色のエフェクトが散り、ザイエンの右腕が使用不能状態になったのが確認できました。


 こうなればもう、反撃されることはないでしょう。

 ザイエンの悪あがきのような突進を跳躍して回避し、そして——



「——楽しい戦いでした。また会いましょう」



 彼の首元に向けて、鋭く刀を振り下ろしたのでした。

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