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―――ただ光が欲しかった。
目の前には幸せに包まれた男女が踊っている。舞台の真ん中で皆の祝福を受けて微笑み合い、その瞳の中にはお互いしか映っていない。光そのもののような幸せな恋人達。
ミズリは強い光の元で出来る影の中に立ち、微笑んでそんな二人を見守っていた。笑顔以外は似つかわしくないのを知っている。
この国の王太子と神子の婚姻式だ。国中が祝福に沸いている。何の憂いもなく一点の陰りもない輝かしい未来が約束されたのだ。国中の歓喜がこの瞬間にあった。
ミズリが願った通りになった。願いを叶えてくれるなら何を犠牲にしても奪われても構わないと願ったのはこの瞬間のためだ。
だからミズリはこの結果を誰よりも喜んでいる。
祝福の鐘がなった。いつの間にかミズリは二人の前に立っていた。最高神官の法衣に身を包み聖杖を持っている。
この国の第一王子であり王太子であるルーファスと救国の神子であるアリサ。運命を結び合わされた二人に最後の祝福を送るのがミズリの仕事である。
二人は跪き手を握り合っている。神子の白く細い指とルーファスの大きく力強い指を絡めて二度と離れないかのように固く結び合わせている。
聖杖を持つ手に力が篭る。その無機質な冷たい感触がミズリを現実に引き戻す。
ミズリを見上げるルーファスの瞳には何の感情もない。かつてあった愛情の一欠けらも幼馴染みに対する親しみも、憎しみもない。彼はただこれから自分達を祝福してくれる神官を見ているだけだった。
痛む胸をミズリは持たない。そんな資格は初めからなかった。
神官らしく慈悲深く微笑み祝福を行う。二人のためにミズリが出来る最後の仕事だ。
微笑む二人を前にして、ようやくミズリは悟った。自分の存在はこのためにあったのだ。何故自分の力が衰えていったのか。
(運命の二人を結び合わすために―――)
ただ、それだけのために。