神様はどこにもいない
さて、失敗続きの私だが、神様はまだいたかもしれない。
リサは勝手に行動していた。
教室に戻って来ないアルファードを探しに私の教室に足を運び、そこで、私の大声を聞いたからと嬉しそうに駆け寄ってきたのだ!
「まあ、まあ!ローズ。私が必要って、ええ!聞きますわよ!」
そして彼女が一連の出来事を聞くと、女の幸せである結婚の申し込みを当の女性が着飾る猶予も無く行われるのは、その彼女にとっての一生の不幸だと言い張ってくれたのである。
リサにあなたは一体いつの時代の女性なのかと問いたいが、今はほんの少しでも猶予時間が欲しい私には天の助けの言葉でしかない。
「そうよ!シルビアにはパーフェクトな状態でアルファードの申し出を受けるべきだと思うわ!つ、次の日曜日に、で、でも、どうかしら?」
私の言葉に、当のシルビアも、勿論最初に主張したリサこそ大きく頷いたが、性悪女のシャーロットだけは同意で無い別の笑い声を立てた。
私の神経を逆なでるだけの笑い声だ。
私はシャーロットをひっぱたきたい衝動に駆られたが、アルファードが私ににこやかな顔を見せて大きく頷いていた事で、シャーロットが笑っていた理由を理解してしまった。
私は大失敗してしまった、と。
「よしよし。余の申し出を受ける時には着飾る、これは余への礼儀に適う行為だ。愛い奴だ。ではでは、余はそんな素晴らしき姫に捧げる獲物を狩るとしよう。さあ、良いな、下僕よ。」
「だからどうして狩りに拘るのよ!」
私が叫んだところで事態は変わらない。
リサとシルビアは各々の教室に戻っていったが、シャーロットと私はジュスランを保護者にしてアルファードの狩りに付き合う事となった。
そして、可哀想な私を巻き込んでジュスランが向かった先は、私を先日見捨てた薄情な男がいる警察署だった。
バークは私達ご一行を目にして「学校は!」と憤慨の声を上げたが、その声が終わる前にジュスランがバークの耳元に唇を寄せて囁いていた。
「留置場を開けて。保安官。」
「ちょっと、それは!ローズやシャーロットがいる前で?」
「平気だよ?シャーロットとローズなんだ。それに、新たな魔物もいる。君は知らないだろう?ケルベロスが人に何ができるか?」
「ケルベロス?」
バークはハッとした顔で私達と一緒にいる彼には初対面の少年を見返し、それから私を見つめて下唇を噛んだ。
私はバークの正義感にかけたが、バークはまたもや私を裏切った。
いや、人間を裏切ったのか?
GOMDという組織の一員であり人外を粛正して人間を守る立場の人間ながら、ジュスランに対して留置場に続く扉の鍵を開けたのである。
私は留置場へと続く地下通路を歩きながら、ジュスランに案内するようにして無言で歩くバークの後姿を眺めていた。
パスクゥムに派遣されたばかりのバークは、婚約者殺しのデーモンを追っていた事もあったからか、フラーテルとは馴れ合ってはいなかった。
それがジュスランと肩を並べて歩くようになっているとは、と、胸のうちには裏切られたような悲しさも湧いた。
バークのこの行為こそ自分がやっているようなパスクゥムで生き抜くための行為そのものなのだけれど、私は少年時代の魔物退治に燃えるヴィクトールだった純真なバークをも知っているのだ。
「どうして?」
「あら、あなたって本当にフラーテル?何もご存じないのね。」
「どういう事?」
シャーロットは私を小馬鹿にしたようにして、鼻にかかった笑い声を立てた。
「あなたは人狼が成人になるための儀式が何か知らないの?」
「知っているわよ!人を狩って、ええと、殺して。だから、そんな事は公に出来ないから、人狼族は傭兵になったりして一度はパスクゥムの外に出るんでしょう?ブランドンの会社自体が傭兵を雇ったりもしている警備会社、だし。」
「そう。そして、人狼以外にも人を殺さねば成人できない種族は沢山いるのよ?その種族はどうやって成人式をしているのかしら?」
私は再びバークの背中に視線を戻した。
あなたは神様の名を唱えていた人ではなかったのか、と。




