何がどうしてどうすれば?
一応は放課後に、と、学校を飛び出す勢いのアルフォードに私は言った。
彼が私という下僕の言う事など聞くわけはないと百も承知であるが、しかし、現実問題子供にしか見えない彼が町中をふらふらすれば、いくらのパスクゥムでも補導されちゃうはずなのである。
パスクゥムのフラーテル達は、自分達がフラーテルであることを人間に知られる事を何よりも嫌う。
下手をすれば、パスクゥム内の規律を乱したという名目で、フラーテル達にタコ殴りにされる可能性だってあるのである。
わたしが。
「あ、アルファード。ま、まままって、あの、せっかくだし、シルビアともっとお喋りするのはいかがかしら、かしら?」
まあ!
アルファードが腕を組み、私の申し入れを考えるそぶりを始めたじゃないの。
「あら、善は急げだと思うわ。わたくしが早退の届けを出してきましょうか?学校などという枠組みにいては親交を深めるどころでは無いでは無いですか!」
しかし、ここにはバンシーという性悪女がいた。
彼女は私が酷い目に遭う事をひたすら望んでもいる。
「いやいや、シャーロット。まさか、この、ケルベロス様、ハハハ!ソロモンにはナベリウス、古代エジブトではアヌビス、古~い神話ではエンキドゥなこちら様が?そんな性急に番を求められるはずは無いじゃないか。ああ!もしかして耄碌された?時間が惜しいぐらいに余裕が無いという事でしたか!」
………私への助け舟では決してないな。
ジュスランはもともと陰険な奴だ。
人間の食べ物を食べられない彼に、毎日スムージーを押し付けた女性を切り刻んで殺して、その死体の一部をスムージーに入れちゃったぐらいに糞陰険だ。
と、いうことで、聞いたこっちが慌てるぐらいな挑発をアルファードにして見せたのである。
アルフォードの地を這う者発言が、彼的に許せなかったと思われる。
「まっさか、若犬相手に準備も与えずにその娘を引っ攫おうと?いやいや、もしかしてこれがあなた様のいつもの手順ならば、ハハハ、女を口説いて落とした事が無いという証拠ですねぇ。」
小馬鹿にした口調でジュスランはアルフォードにそう言い募ったが、それを聞いた私は、私の弟分?兄貴分?となった爺さんの本当の身の上に怖気が走った。
走ったついでにレークスに緊急メールをしたが、そういえばあいつはろくでなしのデーモンだったなと、返信を見て思い出す始末だ。
「先見の明のある俺って凄いな。」
それだけなの!
あいつは弁護士なんてやっていていい人なのだろうか。
いや、最初から人じゃ無いからいいのか。
「は、女を口説くか?余は余が決めたそれだけだが、この姫が余の真心を捧げるに値するのは事実だ。ローズ。余は狩りがしたい。姫の父者への貢ぎ物だ。獲物をすぐに見繕え。」
そして、ジュスランの挑発に爺は乗ってしまったのか、饒舌にしゃべり始めたが、私としてはお前は黙っていろという心境にしかならなかった。
だって、なによそれ、獲物?
「え、えものって、な、なにを見繕うのでしょうか?」
「腕を切り落としてよい奴隷、だな。百人は欲しい。」
「意味わかんない!それでどうして腕を切り落とす必要があるのですか!」
私は大声を上げていたが、はっと気が付けばここは教室の中だった。
全員の目が私を見つめているじゃないか!
私がパスクゥムの親世代たちからの罰を受ける事になる?
「まあ!ローズったら風邪かしら?混乱中。」
「ふうん。早退させなきゃね。付き添いは良いかな、シルビア?シャーロット?それから、君は今日はローズと一緒に行動しなきゃな制約があるからね、一緒においで、アルファード君。」
ジュスランもシャーロットも、私が混乱しているという理由で、私を教室の外へと引きずり出した。
引き摺られる私の後ろを悠々と歩いて付いてくるは、美少年の姿形をしたお爺ちゃん魔物と、彼と腕を組んだ殆ど人間の人狼族の姫様だ。
だめだ、絶対にダメだ!
このまんまじゃブランドンがお怒りで、パスクゥムに血の雨が絶対に降る!
「リサ!リサを呼んでぇええ!リサがいないと私は動かないわよ!」
最後のあがきの叫びを、私は校舎中に聞こえるぐらいに出していた。




