世界は勝手に回っている
私のお教室、ハハハ、遅かったよ。
かのお爺ちゃん長老様は、かっては神でもあったらしいバンシー族の姫と、今でも殿上人な吸血鬼様に囲まれているではありませんか。
ああ!私がアルファードの傍を離れたばっかりに。
教室の入り口で金縛った私は、茫然と自分の失態を噛みしめるしかなかったが、世界はそれでも私に優しくしようとはしない。
アルファードは私に顔を向けると、声では無く指一本で私に来いと命令した。
偉そうに指一本を私に向けて、その指をくいっと折り曲げたのである。
シャーロットはアルファードのその素振りで私と彼との上下関係が分かったらしく、意地悪そうな笑みを浮かべただけでなく、アルフォードと同じ素振りを私にして見せるという嫌らしさを披露してくれた。
この性悪女が!
「わお!良かった。この転校生は全くお喋りしないからさ、お姉さんなローズを探さないとねってシャーロットと相談していた所なんだよ!」
底意地が悪く優しさの欠片もない吸血鬼が、何をまあ、気さくで生徒想いの教師の振る舞いをしてくれているんだ?
時々蛍光カラーに輝く青い瞳がキラキラしているぞ?
大体あなたは私の担任でもない理科教師でしょう?
帰れ!理科準備室に!!
私はシャーロットにもジュスランにもウンザリしていたが、私がジュスランに暇つぶしにならなくなったと殺されたら、私を揶揄うためのシャーロットも不要だと処分されるに違いないとシャーロットが考えて私を助けてくれるかもと自分に言い聞かせて顎を上げた。
頑張るのよローズ。
って、自分を励ますには顎を上げるしか無いじゃない。
そして、重い足をえっちらおっちらと動かして、兄妹になったらしい人狼族の長老様の机の脇(もともとは私の机なんだけど!)に立った。
アルフォードは私が直ぐ近くに来るや、私にだけ聞こえていると本人だけが思っている声で、言ってはいけない言葉を吐いた。
「姫が十歳でならば、あと二年もすれば婚姻可能だな。」
シャーロットとジュスランは手を打ち合わせて喜ぶんじゃない!
私は出来うる限り低い声でジジイにダメ出しをした。
「十二歳に性行為を強要したら現代は死刑になるのよ?で、勝手にシルビアの個人情報をあなたに教え込んだ恥知らずは誰かしら?」
「冥界に拒絶された魂を持つ小汚い地を這うものと神聖を捨てたあばずれだ。」
年寄りの冷や水をジジイのせいで浴びたのは私の方だった。
ジュスランが、ケルベロス、と吐き捨てるように呟いた気がする。
え?このお方が、あの有名な地獄の番犬さんだというの!
「さあ、我が婚約を姫の父親に伝えに行くぞ。我が下僕として付いて来い。」
「シルビアの気持ちを聞かずに何を先走ってるかな!お爺ちゃんは!」
「いや、あの、あ、あたしは、別に、構わないというか。」
私は首の骨が折れるぐらいに振り向いた。
そうだ。
シルビアを付けたまま自分の教室に戻って来てしまったのだった。
で、純粋なシルビアは、アルフォードのたわ言を聞いて怒るどころか、純な乙女として頬を真っ赤にして照れているじゃないか。
嬉しそうに!
ああ、私を殺すものがまた増えた。
ブランドンはシルビアを目の中に入れても痛くないどころか、無体な奴に奪われるぐらいなら噛み殺すぐらいの愛情を掛けているのだ!
「シルビア!恋愛話にリサを仲間外れにしたら絶交されるわよ!」
お昼のどろどろ恋愛ドラマをこよなく愛するリサならば、シルビアと人狼族の危機を救う助けになるかもしれない。
ソロモンの契約悪魔にはナベリウスという悪魔がいます。
ナベリウスの二つ名が、ケルベロス。
ナベリウスでは三つの首がある鴉の悪魔ですが、ギリシャ神話で有名なケルベロスでは三つの首を持つ犬の魔物であるのは不思議な事です。




