無知こそ最強
アルファード・パラディンスキ。
無言を貫き名もなき彼が、名前をいつレークスに唱えたか。
なんてことはない。
アルファだと直ぐに気がついたレークスが、アルファ?アルファードと適当に名付けただけの話である。
よって、自分の名前で無い名前で呼んだところでアルファードが反応するわけは無いし、お世話係という私がデーモン世界では下位のちびちびである以上、人狼の長老様な彼が私の言う事を聞くわけは無いのだ。
だったよね?
彼は反抗的ではないが一切自分で何もしようとせず、私は彼の為に朝食を口にねじ込んでやり、彼の手を引いて学校に向かい、そして、彼が文字が書けないという事で一番下の学年扱いになったからとリサの教室に連れて行った。
そこはラッキーと思ったけれど。
リサはとても面倒見が良いのだ。
それなのに、今の私は、自分の隣の席になぜアルファードが座っているのかと、世界が急に変化した事に戸惑っているのである。
「姫がいた。お前、姫と繋ぎが取れるか?」
喋りかけて来た!
流石長老様というべきか。
彼の声は甲高い子供の声ではなく、十代半ばの透明感のある少年の声だった。
「あ、あの。どちら様の姫でございますか?そして、あなた様の本当のお名前を教えていただけますか?」
アルファードは、ふん、という風に顎をあげ、名は無いと言い切った。
「遥か昔はソロモンという男に使われた事もある。その時に名前は捨てた。名前は契約と隷属を強制的に産むこともあるからな。」
ソロモン?
私としてはR&Bで有名な歌手の方だったら良いなという希望もあるが、人狼が口にしたその方は紀元前のソロモンの方で間違いはないのであろう。
「さ、さようでございますか。で、姫とは?」
「姫だ。あれは姫だ。男の格好をして居るが、あれは姫で間違いはない。まだ成熟はしておらぬが、あれは良き雌に育つであろう。」
「え、ええ。その方は、もしかして焦げ茶色の髪をしたお嬢様かしら?」
「おお、知っていたか。その者は余にものおじもせずに、自分の出来る事なら何でもすると言って見せたぞ。これは婚約の成立でもあるな。」
「それはない!ないない!気が早いぞ!おじいちゃん!」
私の馬鹿!
リサにはもれなく、人狼族のお姫様、シルビアちゃんがついていたじゃないか!




