子供は大人の背中に隠れてなんぼ、なのにね
レークスが私に興味を失ったらどうなるのか。
それはイコール、共喰いデーモンのメインディッシュにこの私が乗るって事じゃないの!
私は物凄い勢いでレークスに向かって走って行き、絶対にこの男を離すものかという勢いで抱きついた。
「レークス~!水族館で珍しいイルカのバブリングが見たいんじゃなかったの!私はレークスと水族館に行きたいって、それはもう、楽しみにしているのよ!」
私がシロイルカに化けられると知って、昨日はパスクゥムにおいて自分が私の庇護者となると名乗り出てくれたはずじゃなかったの?
命の不安におびえる私の頭に、大きな手がポンと乗った。
私はその手にびくりとし、しかし、本物のミニチュアポニーでも、スタンダードプードルでも無いので、恐怖による心臓発作で死ぬ事は無かった。
上位デーモンに撫でられて脂汗は出たが。
「ハハハハ。小賢しいなぁ。ローズ。だが、俺はそういうお前のデーモンそのまんまな情けねぇ性質は好きだよ。」
レークスはデーモン特有の真っ黒い瞳をきらりと光らせると、私が断れないことを知っている上位者として私に命令を下した。
リリーには聞こえないこそこそ声で。
「明日っから、あのアルファ君も学校に連れて行ってくれ。俺は仕事で忙しいからな。ついでに、あのワンワンが俺の命令で何時でもワンワンになるように仕込んでくれるとなお嬉しい。」
私は、わかった、と答えるしか無かった。
吸血鬼という殿上人に、いつ暇つぶしで殺されるか分からない街なのだ。
出来る限り自分の命乞い相手は作っておかねば。
でも、レークスの私への命令がちょっと気になるというか、人狼如き、それも、子供の人狼に上位デーモンのレークスが命令できないって意味なのかと、恐る恐るレークスを見上げると、彼は茶目っ気に片目を瞑って見せた。
黙っていればそれなりの美貌の男だ。
しかし、私はレークスの美男子ぶりにびくっとしたのでは無くて、デーモンよりもはるかに偉い吸血鬼様を前にした時のような感覚に陥ってしまっただけだ。
怖いではない。
ものすっごく話を聞きたくない面倒を持って来た、そんな感じだ。
「お前は本当に話が早くて嬉しいや。俺の弟たちも見習って欲しいものだよ。」
「わた、私は、お、お馬鹿ですのよ?」
「嘘つけ。俺の庇護が欲しいならな、あれの面倒を頼むな?あいつは人狼のアルファだよ。外見はあれだが数百年は生きている長老様だ!ハハハ、バランスブレイカーって奴だ!」
私は両手を顔に当てて、うわっと本気で泣いていた。
このまんまじゃ人狼族と戦争になっちゃう!




