母と恥知らずと不幸な娘
こんにちは、わたくしはローズ・パラディンスキ。
ええと、パスクゥム小学校に通う八歳の少女ですのよ?
あなたのお名前は何て言うのかしら?
本気で、何て名前なのかしら?
私の目の前の少年は、私の呼びかけに反応するどころか、蠅が飛んでいるぐらいの反応であくびをしながらソファにごろんと横になった。
この失礼な少年、褐色の肌に灰色の髪の毛に灰色の瞳を持つ十歳ぐらいの少年だが、瞳に薄いが紺色の輪っかがあることで、彼が人狼であるのは間違いないだろう。
ただし、こんなにも綺麗な瞳を持つ人狼には会った事は無いが。
私は私の父となったらしい恥知らずなデーモンと、まだ最愛の夫を失って三か月も経っていないのに再婚しくさった軽薄女をぎろりと睨みつけた。
いや、睨みつけただけでなく、私の母親という属性もあるリリーの腕をつかむや、彼女を居間の隅に引っ張り込んだ。
「何が起きたの?ママ?どうしてレークスが伯父さんじゃなくて、私のパぁパになってしまっているの?」
輝く様な金髪に真っ青な瞳という、ファッション人形さながらのゴージャスな彼女は、私のにらみなど何てことないように微笑んだ。
「聞いて。私は感動したの。レークスったらね、あの子、アルファード君のお父さんになりたいからって私に協力をお願いしてきたの。普通の身の上じゃない子だから、しっかりした家庭じゃないと引き取れないからって。」
ソープオペラの打ち上げパーティ会場からの帰り道、急に襲いかかって来た銀色の犬からレークスは格好良くリリーを助け、尚且つ、彼はその銀色の犬を追いかけて行ったのだそうだ。
そして戻って来た時には、がりがりで痩せこけている、あのソファで横になっている少年を、レークスは抱いていたそうだ。
「可哀想な子を拾ってしまった。あの狼はこの子を守っていたんだね。俺があの狼を追い払っちゃったから、この子を代わりに守ってあげないと。君も協力してくれるかな。」
リリーはレークスの優しさと高潔さ、そして、責任感の強さに感動したのだそうだ。
レークスに優しさ?
動物好きでも動物と触れ合えないデーモンが、ふれあい動物見つけたと頭にお花畑を咲かせているだけだとどうしてわからないのか!
乗馬しようとしたらお馬さんが恐怖で死んだらしい過去のある男なんだぞ!
私は時々リリーは賢いのか馬鹿なのかわからなくなる。
彼女は常に無邪気で考え無しのように振舞っているが、ここぞという時には蜘蛛の巣を張っていた女そのものの行動をとれるのである。
私はその全勝な彼女に、背筋がぞくっとすることもしばしばだ。
よって、彼女が本当の意味で不幸に陥った事は無い。
大体、デーモンの愛人を十代の頃からしておきながら、身に髪の毛一筋の傷だって負った事は無いって、ジュスランの餌のくせに生き延びているオコナ―と同じぐらいのラッキーさなのである。
「リリー。やっぱりローズはひねくれちゃったかな。でもさ、ローズ、心配いらないよ。俺はこれからアルファードにかかりきりになるからね、君達を煩わせることはしばらく無いと思うよ。」
私はレークスの満面の笑みを見て、自分の足元が崩れそうなんだという危機感を物凄く抱いた。




