呪える種族
シャーロットはふうっと大きく溜息を吐いた。
それから正体であるバンシーの老婆の顔を元通りの顔に戻すと、くるっとバークとイグニスに振り向いた。
シャーロットは叫び声一つあげなかった。
銀色の大型拳銃を持っていたとしても、幼女に絶対手を出さないバークに彼女が脅えるわけが無い。
が、イグニスの顔はデーモンそのものになっていたのだ。
地下でグールの生首を齧ったあの時と同じ、真っ赤な皮膚に頭部には二本の大きな角が生えているという恐ろしいものであるというのに、彼女はただ振り向いただけであったのである。
「まあ、デーモンの本当の姿って青と赤がございましたのね。黄色もいますの?」
「ガキが!いいか?俺の大事な女に呪いをかけてみろ。今すぐお前に喰らいつくぞ。」
イグニスの口調がレークス並みに乱暴になっていたが、レークスと違って彼は紳士だな、と思った。
レークスだったらもう喰ってしまっているだろう。
それでも今のイグニスは尋常とはいえず、私はシャーロットが心配だった。
なんだかんだと言っても、逃げたバークとイグニスと違い、彼女は私を助けに駆け付けてくれた友人なのである。
「あなたの家に我がバンシーの呪いが降りかかってもよくて?」
ああ、心配不要だった!
イグニスは、真っ赤な鬼のイグニスが、その一言でグッと言葉に詰まっている。
そして、負けを認めるかのようにイグニスは大きく息を吐き、その顔をいつものハンサムこの上ない顔に戻した。
「君が我がレストランに来れば、予約が無くともいつも良い席に案内するし、デザートのサービスをしてあげよう。彼女に呪いをかけるのは止めてもらえないかな。」
「まああ!素敵なお申し出ね。」
私からはシャーロットの後頭部しか見えず、彼女がどんな表情をしているのかわからないが、イグニスは幼女でしかないシャーロトに営業スマイルを、それも、特別客にしか見せないであろうモノを捧げている。
それはイグニスの私への愛が大きいからではなく、バンシー一族への恐ろしさの方が大きいと私は邪推したが、それは正しいものだったようだ。
「わたくしが呪う事で、彼女の呪いを妨げる事が出来るの。あなたはどちらがお好き?運命が不幸なだけの美女と、運命は普通でもウジ塗れの醜女。」
「それならば!」
口を挟んで来たのはバークであったが、イグニスはそんなバークの言葉を遮るようにして吼えた。
「俺がその呪った奴を喰えば終わりだろうが!」
「食べられますの?相手はマンババランですわよ。」
間髪入れずに言い返したシャーロットの言葉にイグニスは言葉通り膝をつき、バークはうわあと叫んで頭を抱えた。
ジュスランは一人嬉しそうにくすくすと笑っている。
マンババラン?
聞いた事が無い種族だわ!




