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誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
金曜日は魔女の夕べ
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クジラは北の海に旅をする

 クジラは年に一回、寒くて深い北の海へと向かうという。

 生き物が死に絶える程の冷たい海。

 彼らがそこに向かうのは、そこで真理について瞑想するわけでも、鯨生に疲れたからと自殺を試みているわけでもない。

 彼らはそこで、体中を蝕む寄生虫を体から払い落としているのだ。


 生きた体にしか巣くえない寄生虫は、体温が駄々下がりしていくクジラを死んだと勘違いして、死体となった宿主から一斉に逃げ出そうと試みるのだ。

 しかし、逃げ出した先こそ彼らの地獄。

 彼らはそこで活動を止められ、二度と彼らの力だけでは這い上がれない深海という地獄に次々と落ちていく。


「まだ?まだ?ここにいなきゃなの?」


 私の言葉は水槽の前に立つ人達には理解できないだろうが、私の水槽から出たい気持ちが伝わるようにと必死に語りかけていた。


「わぉ!ローズはバブリングも出来るようになったんだね。」


「おほほ。このままここでお暮しになったら?スターになれますわよ。」


 ジュスランもシャーロットも本気で人でなしだったと、私は悲しく化けた生き物独自の声でキュンキュンと泣き声をあげるしか無い。


 シャーロットに誘導された私が乗り込んだのは、魔法少女専用車となったのか、水族館のダッチスプリンターの後部だった。

 私達が乗りこむや車は発進し、そして運転者であるジュスランが楽しそうに私に声をかけたのである。


「水族館に着いたらクジラに化け直そう。サメでもいいよ。」


 前述の寄生虫物語はジュスランの語った事であり、私はそれを信じるしかないと彼の言う通りに、私サイズにしかなれないが、「シロイルカ」に変化しながら水族館の大型水槽の中にざぶんと飛び込んだのである。


 ところが本気で、わあ!すごい、だったのだ。


 海水と冷たい水温でウジは悉く死んでいき、私が水槽内をぐるぐる泳ぐたびにそれらはパラパラと私の身体から剥がれ落ちて行った。

 数分しないで私は穴ぼこだらけのシロイルカから、つるんとしたシロイルカそのものの綺麗な表皮を取り戻したのである。

 それなのに、水槽の蓋は閉まったままだ。

 私は出して貰えないというこの仕打ちを受け入れるしかないのか?


「ローズはいいお家を手にいれましたわね。では、わたくしはそんなローズの為にバンシーの歌を歌ってあげましょう。」


 ぎゃあ!

 私はこれ以上の不幸はいらないわ!


 しかし、やっぱり、シロイルカな私の言葉は彼らに届かない。

 私の水槽前に立つ二人、年長者の方の吸血鬼が真っ青な蛍光カラーに瞳を輝かせ、幼い方のバンシー、天使か妖精のような幼女が地獄の老婆のような姿に変化していった。


「ちょっと待ったあ!」


 水族館の地下に転がるようにして駆け込んできたのはバーク。

 そして、イグニスだった。

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