女の敵は女
「そうよ!ジュスラン様に近づかないで!このあばずれ!」
え?
私はアメリアじゃない女の声に周囲を見回した。
なんと、ショッピングセンターの、私の周囲にいた女達、老いも若きも、全員が何か得物を持って私を威嚇しているじゃないか。
「私のイグニス様を誑し込もうとするなんて!」
え?
「保安官はみんなのものよ!」
え?え?
女達は叫びながら一歩前に出て、そこで人形のような素振りで獲物を振り回し、また一歩と私へと歩を進める。
「死ね!」
「そうだ、死ね!」
「そうよ!ころして、きゃあ!」
一番近くのアメリアが、わあ、ジュスランに抱き寄せられるやキスをされた。
私を取り囲んでいた女達も動きを止め、世界はほんの少しだけ止まった。
アメリアは抱えていたマネキンを床に落とすと、彼女こそその場にマネキンのようにしててぐしゃりと潰れた。
ジュスランはそんな彼女を無造作に抱き上げると、長い足で大きな一歩を私の方へと踏み出した。
「僕はお先に逃げるよ。でもね、このままじゃオコナ―も君と同じ目に遭うからね、ごめんね、美しきミスティローズ。愛しているよ。」
彼は、腕にオコナ―を抱きかかえているという姿であるのに、何もないようにして私へと身を屈めたのである。
ちゅ。
ウジだらけの私の頬のすれすれで、彼はキスの音を立てた。
「きゃああ!ジュスラン様!」
「あいつを殺せ!」
私を囲んでいた女達の殺気が私へと押し寄せた。
ジュスランはそれを合図のようにして、ハハハと笑い声をあげながらこの場から颯爽と逃げ去っていくではないか!
「あの男は!」
「ジュスラン様をあの男と呼ぶとは、なんて思い上がった女なんでしょう!ジュスラン様に可愛がってもらっているからって!」
聞き覚えのある声、と振り向けば、シャーロットだ。
金髪の髪をキラキラと靡かせて、フリルとレースのブラウスに合わせたシルバーグレーのパンツスーツ姿の彼女は、可愛らしくて完璧な美少女姿だった。
それに対しての私の姿は。
私は彼女と戦う気概が湧いた。
「この女を殺せ!」
叫んだのはシャーロットではない別の女性だ。
しかし、その声を合図に女達は再び得物を振り回し始め、人形の兵隊のようにして私へと一歩動いた。
この場で一番戦闘力がありそうなのは、シャーロットだ。
私は彼女に再び目線を動かした。
シャーロットが両の手に持つのは、女性服しかないフロアのここでどこで手に入れたというのか!
なんと、パラリンピックで使うこん棒投げ用のこん棒であるのだ。
四十センチほどのボーリングのピンのような形のそれは、握力の無い人でも簡単に投げる事が出来るというものだ。
「ダメよ!それを武器に使っちゃ!」
シャーロットは私ににやりと笑って見せた。
駄目だ!情け容赦ない彼女の事だもの!
自分が彼女によってこん棒がぶつけられるだろう事は確実と諦め、来るべきその時に脅えた私は気弱にも顔を覆った。
がこん。
「きゃああ!」
がこん。
「いたああい!」
彼女は私に投げつける振りをして、私を包囲して来ていた女性客二人にぶち当てたのである。
「逃げるわよ!この馬鹿女!」
シャーロット?
私は四つん這いのまま、いや、四つん這いだからこそ体を獣の姿に変えた。
サイだったら寄生虫も肌に穴を空けられないかと思ったが、私に穿たれた寄生虫の穴は変化してもそのままだった。
だからかもしれない。
いつも以上の、まさにサイがする弾丸のような走りをして、私はシャーロットが誘導する先へと駆け続けた。




