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誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
聖でなくとも木曜日には薬草飯を
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地下室へいこうよ

 私達はいやーな気持ちになりながら、ジュスランを加えてイグニスのレストランまでドライブすることとなった。


 車は勿論ジュスランが借りっぱなしのレークスのプジョーだ。


 自分の車でない事に助手席に座るバークは不満顔を見せていたが、彼のSUVの後部座席には魔物封じの術が施されているのは私が体験済みだ。

 フラーテル封じの紋章など平気な私であるのに、バークの車の魔物封じには指先が丸焦げになるという手痛い経験をした。

 私としては二度と彼の車には乗りたくは無いので、ジュスランの運転するプジョーで構わないが、ジュスランがバークの仕掛けたあの魔物封じによって封じられるのかも見たい気がしていた。


 あら、バックミラー越しにジュスランが私にウィンクをしてきた。


 ええと、たぶん、ジュスランはバークの魔物封じも平気だ。

 魔物封じについてはバークに襲われかけた日にジュスランに話してある。

 暴動の日は一緒に行動していたとも聞く。

 きっと魔物封じの威力の確認ぐらいはしていたのだろう。


 ああ、考えるまでも無かった。


 魔物封じがジュスランにも有効だと、バークはジュスランに思い込まされている、ということは黙っていなさいのウィンクだ。


 どうしよう、彼がバークを襲う気だとしたら。


「ミスティ。君は別人に化けれるかな?これから向かう先にはイグニスがいるんだよ。パラディンスキ家は君を捜している。暴動の日にバークが君を捜して無駄に喚いたからね。」


「まあ!」


 エージに尋問された日の事を思い出し、このぐらいバークに黙っていても良いかな、という気持ちが私の中で生まれた。


「――すまない。パラディンスキ家の誰かの娘だと思ったんだよ。」


 バークの声は苦痛と後悔ばかりだったので、私は簡単に許した。

 彼が襲われかけた時は逃げる手助けはしよう。

 ジュスランに完全対抗は、ぜっっっっっっっっっったいに無理だもの。


「もういいわよ。」


 バークは助手席から後部座席へと身を乗り出してきた。

 目は血走るぐらいに必死な光を帯びて私を見つめてきている!


「良くないよ!君が狙われているなら、俺のせいだ、俺が守る。君は俺と一緒に住まないかい?俺は君を守りたいし、君に屋根付きの家と食事を差し出したい。」


 バックミラーに映るジュスランは、目を爛々と輝かせていた。

 バークにどんな嘘を吐いたのか知りたい、という眼つきだ。


「ねえ!明日にでも一緒に服を買いに行こう!俺は君にお詫びを込めて服をプレゼントしたい!」


「あ、いいねえ。明日の夕方にダブルデートをしよう。僕とオコナ―、君とミスティでお買い物デートだ。」


「どうして、お前と一緒なんだよ!」


「ああ、嫌だったら別にいいよ。明日は元々オコナ―とのデートの約束だもの。どこにしようかな、目新しい場所に、いや、初めてのプレイを体験させてあげたいな。最初で最後になるかもしれないけれど。」


 バークはゆっくりと助手席に戻っていき、物凄く不満そうな声でジュスランに追従の言葉を吐いていた。


「明日はダブルデートをお願いします。」


「ようし!では、ミスティ。明日のデートにも使える、かわいこちゃんの外見に変えてくれるかな?パラディンスキの顔ではミスティは表を歩けない。」


「そうね。」


 私は目を瞑り、先日の魔女の顔形を真似ることにした。

 彼女は顔形だけはリサのように可愛らしかったのだ。

 ええと、実は全部を真似してあの顔そっくりにはしていない。鼻の形だけはいくら全米男性が大好きな夢の形でも私が嫌いなので、ミスティの時と同じ鼻の形にした。つまり、私が新たに作った顔は、ミスティみたいに私が成長した姿ではなく、私がなりたいだけの可愛い顔ってやつである。


「わお!最高。あの魔女よりも可愛らしいね。」


 その上、髪をハニーブロンドに変え、目の色は緑色に変えたのである。

 良いだろう、私だって時々は金髪とカラフルな目の色に憧れるのだ。


「うふ、どうかしら?バーク?」


 あら、バークは無言だ。

 彼はミスティの外見のままの私と一緒に歩きたかったのか。

 私はバークへの気持ちでホカホカと胸を温めさせていたが、ジュスランの運転する車はモンドソンメルソの駐車場に滑り込んだ。


「さあ、僕達は地底の王が守る穴倉へと侵入しようか。」


「お前はやっぱり全部知っていたんだな。」


「知っているも何も、僕はこの町の神様みたいなもの。さあ、イグニスの地下室に行きましょうか。」


 歌うように話しながらジュスランは車を降り、私達も急いで車を降りた。

 関係者以外立ち入り禁止のはずのモンドソンメルソの裏口のドアは、ジュスランが持っていたらしき合鍵でするりと開いた。

 その後の私達は、ジュスランを筆頭に、ジュスランの向かう先へと彼の先導に従って歩いただけだが、スタッフしか入れないレストランの裏側のはずの区域の様相に私とバークは子供のように周囲を見回していた。


 単なる通路でいいはずなのに、洞窟を歩いていると錯覚するような装飾が壁に施されているのだ。


 そんなアトラクションの一部のような壁には、アトラクションの一部のようにして隠し扉もあった。

 そこもジュスランは我が物顔で合鍵で開けた。

 隠し扉の先は真っ暗そのもの。

 奈落へと誘うような階段が続いていた。


「この先にイグニスの犯罪が隠されているのか?」


「犯罪かなあ。単なる食糧庫でしかないけどね。さあ、僕の地下室においで。僕の育てるキノコを見に来てよ、お兄さん。」


「ブラッドベリか?お前はほんっとにろくでもないな。」


 私達は階段を下りて行った。

 電灯が点かないのは、フラーテルである私達には灯りなど実は不要だからでもあるが、これは人間除けでもあるのだと考えた。


「いかにもだな。秘密がいっぱいと言っているみたいな階段だ。」


 私達の行き先にぽっと明るい輪が生まれ、それはバークが携帯してた小型ライトを点灯させたからだった。


「そうね。人間には利器があるのだわ。」


 関係者以外立ち入り禁止の通路が、どうしてアトラクションの一部であるかのような装飾が施されていたのか。

 好奇心で一杯の若者が、あの高級レストランには秘密があるよと、誰かに囁かれてしまったとしたら。

 私はバークの腕に自分の腕を絡めた。

 私の目はデーモンの目だ。

 そして能力は少し衰えているが、耳と鼻はブランのものだ。

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