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誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
聖でなくとも木曜日には薬草飯を
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子供は夜に目覚めるもの

 私はリリーの部屋に突入した。

 以前に大人用の服をエージに捨てられているからして、ミスティとしてバークの前に現れるにはリリーの服が必要なのだ。


 しかし、リリーの部屋に入り、私はリリーの物を弄ることが出来なくなった。


 彼女の部屋は私とエージと三人で映る写真ばかりで溢れ、私は彼女の喪失感をそこで初めて知ったと言っても良い。


 リリーはあのエージを本当に愛していたのだ。


 私はリリーの世界を壊す事がためらわれ、けれど、このままではミスティが裸のままだと追い詰められた。

 しかしてそこで、妙案が頭に浮かんだ。

 私は部屋に戻ってテンに私の身代わりをさせると、どピンクのスタンダードプードルに姿を変えて階下に降りた。


 てくてくてく。


 歩を進めるたびに、悪戯気分ばかりが盛り上がっていく。


 てくてくてく。


「ローズ。何をしているの?変な歩き方をして?」


 居間にいたバークが私の足音を耳にして異常だと感じたのか、ひょいと居間から顔を出した。

 ハハハ、彼はそのまま固まったじゃないか。

 私は彫像のように固まったバークに見せつけるようにしてミスティの姿を取ると、バークにお願い、と両手を組んで上目遣いまで使って言ってみた。


 わあ!押し倒して来た!


 私は飛び掛かって来たバークによって床に横たわることになったが、彼が私を優しく支えてもいたからか床に背中を打ち付けはしなかった。


 けれども、バークの腕と体に完全に逃げるどころか動けもしない状態だ。


「ちょっと!何を考えているの!」


「君がお願いなんて言うから!」


「服が無いから助けてっていう意味でしょう!」


 私を床に押し倒していた男は直ぐに体を退かせるかと思ったが、私をさらに強く抱きしめて動きを完全に止めた。


「バーク!」


 彼はようやくのそのそと、それはもう渋々という風に私から体を退かせると、自分の着ていたTシャツを脱いで私に手渡した。


「ちょっとこれを着ていて。で、君はどうして服が無いんだ?」


 私はバークの匂いがする、あら、汗ばんでいるようでちょっと湿っているわ、というTシャツを着こみながら、考えていた嘘理由を彼に語った。


「私はパラディンスキ家の名簿にも載っていないはぐれデーモンですもの。今まで獣の姿で生きて来たの。こっちの方が雨露をしのげるでしょう。」


「でも、君はあんなドレスやクラッチバッグを!」


「ローズが買ってくれたの。親友だものって。」


 バークは自分の右手でバチンと叩くようにして、自分の口元に手を当てた。


「ああ、すまなかった。それで君は恩返しに俺の元にか!ああ、そんな健気な君を俺は一度は殺そうと銃まで向けて!」


 正しくは二度だが、それは流した。

 話がややこしくなる。


「ねえ。では、お詫びの印として、私が着れるような服を頂けるかしら?」


 今の私は通販でミスティ用の服を買えない事情なのである。

 レークスという財産管財人という男に、嫌がらせのようにクレジットカードの明細を監視されている身の上だ。

 だが、私が口にした願いを聞くや、バークは、ぱああああああ、という風に嬉しそうだが間抜け面になった。そして、バークは上半身裸にショートパンツ姿のまま、なんと我が家を飛び出していってしまったのである。


 私は彼が去っていってしまった玄関ドアの方向を眺めながら、ジュスランに惚れて道を誤りかけていると評判の保安官の今後を憂いだ。

 私の為にあの格好で女物の服を買いに繁華街まで走ったがために、明日からはストリーキングをするまでに道を誤ったとバークは噂される事だろう。


 ああ、私のせいで、彼は保安官の任を解かれるかも。


 しかし、私の心配など不要だったらしく、バークは数十秒後には私の方へと駆け戻ってきた。

 もう、ぎゅいいいいいいん、という感じで。

 そんな半裸の彼が腕に大事そうに抱えているのは、私が彼に殺されかけて逃げ出した時のドレスとブーツとクラッチバッグだった。


「まああ。」


 満面に笑みの彼は、私にその服を差し出した。


「君に会えた時にはと、大事にとっておいたんだ!」


「ええと、ありがとう!」


 私が腕に抱いたミニドレスからは、仄かにゼラニウムとラベンダーの香りが匂っていた。

 まあ、この匂いはコロンではなく、彼の愛用の柔軟剤の香りだったのね。


「って、洗ったの?クリーニングじゃなくて、洗ったの?縮んじゃうじゃないの!駄目になっていたらどうしてくれるのよ!」


 バークは私に叱られて、ものすっごく悲しそうな顔を見せた。

 私の胸が張り裂けそうなほどに可哀想な顔だ!

 もう!ヴィクトールったら!


「わかった。怒って悪かったわ!すっごく助かったのは本当だもの!」

 どうして八歳の子供が二十八歳の大人を慰めなければいけないのだろう。

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