招かれざる客人
私はまっすぐに部屋に戻らなかった。
とっとと部屋に戻れば良かったものを、私はなんちゃって寝酒を飲もうなんて考えてしまったのだ。
これは全部ジュスランのせいだ。
私はグレナデンシロップの炭酸割に嵌ってしまったのだ。
いや、ザクロシロップにこそか?
リリーは私がグレナデンシロップに嵌ったと知るや、体に良いものだからとザクロジュースを煮詰めてシロップを作ってくれた。
私は知らなかったが、ザクロは気管支炎や動脈硬化の抑制に効能があるらしいのだ。
母親としては、合成物だらけの清涼飲料水よりも、砂糖たっぷりでも手作りしたザクロシロップの方が安心な飲み物らしい。
ただし、炭酸水は一日一本までと決められているので、ザクロシロップ炭酸が飲める回数と言えば大き目のコップ二杯までだ。
母親がいないうちに沢山飲んじゃおうと考えるのは、子供だから仕方が無いともいえるが、そのせいで見つけたくないものも見つけてしまったのである。
冷蔵庫の中に眠る、銀色に光る大きなボウル。
氷が沢山のなかに付け込まれた死んでいる筈の生きている生首。
生首は私の方へ眼玉を動かすと、首から下が無いから声は出せないだろうが、ううううという声が聞こえそうなぐらいに口元を震わせた。
私は大きな悲鳴を上げていた。
バークは私の悲鳴に台所に飛んできてくれたが、私が見つけた物に関しては、あ、ごめん、それだけである。
「ごめん?」
「ごめん。そいつは可哀想な犯罪被害者。脳さえ残っていれば誰がその生首をグールにして、そしてその状態にしたのか探ることが出来るらしい。ジュスランが言うにはね。今夜中にジュスランに渡す予定でさ、明日には無くなるから我慢してくれないかな。」
お前か!
これはお前がやった事なのか!
我が家の冷蔵庫に死体を入れて汚染したのはお前なのか!
「こ、こここ、ここは、食べ物を入れる場所ですわ!一体何を考えているのです!誰がグールにしたのかですって?本人に聞けばいいじゃないのですか!」
「喋れないのに?」
「バンシーという、最高の死人使いがパスクゥムにはいるでは無いですか!」
私はバークに言い切ると、自分の部屋にダッシュで戻り、最愛の黒ドレスを久しぶりに纏うと台所に走り戻った。
バークは私の外出着の出で立ちに目を丸くし、さらにはそれは許可できないと私が提案をする前に却下した。
「どういうことですの?」
「第一に、子供の君を夜遊びに連れ出せない。君のお友達のシャーロットちゃんを叩き起こす事も論外だ。そして、一番大事なことは、今夜のニューヨーク・ジャイアンツの試合は見逃せない。」
「人気があった試合の再放送じゃないの!」
「何度だって見たいんだよ!俺は、最高のプレイだと言われているこの試合、一度だって最後まで見たことが無いんだ!」
私は思い切り冷蔵庫の扉を閉めると、生首入りの冷蔵庫で冷やしたビールが飲める男を放っておくことにした。
ただし、頭に来たので勝手な行動はする。
シャーロットが以前に言った言葉を元に、生首の中に入っているだろう霊を覗くことにしたのだ。
部屋に戻った私は両手をパシンと音を立てて組んで、冷蔵庫の中の生首に意識を集中させた。
しかし、それで見えたのはレストランの看板だけ。
モンドソンメルソ。
イグニスが関わっているの?




