私達は二人だけだった
私は子供らしく八時にはベッドに入った。
そういう事にした。
ビビアンが私がベッドに入った姿を確認した三十分後、バークのSUVのエンジン音が聞こえ、彼女はバークと入れ替わりに自宅へと帰って行った。
バークは用意されていた二階の客間に真っ直ぐに上がったようだ。
客間からはシャワーの音が数分聞こえた。
「お疲れ様、ヴィクトール。」
私はベッドの中でバークに呟いた。
しかし、あら、彼が使う客間の扉が再び開いた音がして、続いて足音が続いたという事は、彼は部屋を出て行ったようだ。
バークの足音は一階の大型テレビの設置のあるリビングへと向かっており、どうやら彼はそこでしばらく寛ぐ気持ちらしい。
彼が部屋に入るやすぐにテレビが点けられたが、階上の私を思いやってか音声はかなり小さめだ。
暗い部屋で階下のテレビ音を聞いているうちに、私はブランであった頃のような気持ちに戻っていた。
あの頃の彼は一人暮らしが寂しいからか、必ずラジオをつけていた。
私はあの頃のブランのようにベッドから出ると、階段を下りてバークのいる居間に行ってしまった。
ブランはいつだってバークが部屋に戻って来れば、彼が寂しくないように彼の隣に寄り添ったのだ。
「あ、ああ、ごめん。煩かったかな。って、え、そんな大きな音だった?」
「私は耳が良いの、ブランの時ほどでは無いけれど。鼻もいいわ。一度嗅いだ臭いは忘れない。」
「さすがブラッドハウンドだ。誘拐された被害者のたった一滴の血液、あるいは、犯人の流した汗一滴だって見逃さない最高の追跡犬だものな。」
「だからあなたがヴィクトールだと確信した。」
「おいで、ブラン。寝ちゃったら俺がベッドに運んであげるよ。」
バークも昔を思い出したのかもしれない。
私は彼の隣に座り、彼の身体に寄りかかり、目を瞑った。
あの頃の私達は、お互いしかいなかった。
こうやってくっついて、慰め合って、でも愛し合って幸せでもあったのだ。
バークの身体は温かく、私は昨日までのバークへの恐怖心が少し薄まり、ブランの時のように彼への思慕だけが心に芽生えた。
「ジャイアンツ!フォーダウン獲得!」
「よっしゃあああ!」
バークは元気よくソファから立ち上がり、私はぽそんとバークが座っていたはずの場所に転がった。
私はむっくりと起き上がると、部屋に戻って寝直そうと考えた。
そう、明日も平日で私には学校があるのだ、から。




