木曜日のベビーシッター
ジュスランがバークの母の代役に用意したのは、平日どころか土日祝日も関係なく忙しいはずのシルビアの母だった。
彼女は私が学校に行っている間にディアンヌの買い物の同行もし、私が学校から帰宅すれば私を送ってきたジョスランにディアンヌを手渡し、代わりとして私をジュスランから受け取ったのである。
「ジュ、ジュスラン先生と、と、とも達関係だったのですか?」
「え、普通に知り合いってぐらいよ。最近何度かシルビアを家まで送ってくれてね、良く話すようになったぐらい。」
「それじゃあ、今日はご迷惑だったのではないですか?」
「へーきへーき。子供は大人のする事に気を回さない。」
真っ赤な巻き毛の長い髪を奔放に揺らし、つけまつげバチバチの派手な化粧をする人だが、そこにシンプルでお堅いスーツを羽織ると知的という形容詞も付帯され、とても格好良く見えるという不思議な人だ。
ただし、今日はプライベート時間だからと彼女は派手な光沢のあるシャツワンピース姿で、今のところはどこから見てもはすっぱな女性にしか見えない。
そんな風に自分の姿で遊べる美しきビビアン・ミレィは弁護士であり、個人事務所も構えているやり手である。
狭いパスクゥムならばレークスと縄張り争いをしそうだが、意外にどころかレークスから顧客の紹介をしてもらえる程の友好関係なのだそうだ。
「え!そうだったのですか!ライバルだったらレークスをけちょんけちょんにしてもらえるようにお願いするつもりだったのに!」
ビビアンは右手をひらひらさせながら、私を面白い子だと笑い声をあげた。
「あの人、離婚問題に弱いのよ。あと、動物案件は役に立たなくなるって事務所の子達が嘆いている。金持ちの老人が飼い猫の遺産の相談に来たら、猫と遊んで話を聞かなくなっちゃうような人なの。だからかな、ブランドンとも仲は良いのよ。あの人も仔犬や野良犬を見かけると必ず拾っちゃう人だし。」
いや、ブランドンが拾う仔犬も野良犬も人狼の気がする。
絶対に、無責任に生き物と遊びたいだけのレークスと違う。
でも私は訂正などせず、そうなんだあ、とへらへらだけした。
「でも、ごめんなさいね。今週はシルビアはブランドンの家に行く日だから。あの子もいたら楽しかったでしょうに。」
「そうですね、シルビアは頼れるお姉さんで人気者ですもの。少し残念。でも、ビビアン様はお忙しいのに、我が家にいらしていただいてすいません。」
昨夜はホテルで一泊したが、今日は自宅に帰ることとなった。
親の旅行のためにバークに押し付けられた身の上だが、押し付けられたバークが自宅に帰れない状況であるので、彼が我が家を使うためには私を私の家に戻す必要があるのだ。
二日続けてディアンヌとベットにぎゅうとなって寝るのは私には無理だ。
かといって、私とバークが一緒に寝るのはさらに問題だ。
私が一人で、バークとディアンヌが一緒に寝るのは、いくら親子でも彼らにはとっても我慢できない問題であるだろう。
と、すると、客室だけは沢山ある我が家が一番良いのである。
「保安官宿舎から火が出たって、驚きよね。」
パスクゥムが嫌になったバークが火をつけたのかと思ったが、バークに捕えられていた魔女が逃げるために隣の部屋の住人を操ったらしい。
隣の部屋の住人は自宅にガソリンを撒き、自分を巻き込んで自宅を爆発に近い状態で燃やしきっただけでなく、両隣の部屋にも被害を与えた。
もちろん、そんな事を命じた魔女が逃げ切れるわけは無く、恐らくバークに撃ち殺されたのだろう。
漏れ聞いた話では、操られて焼死した隣の住民の耳の穴には蟻がぎっしりだったらしい。
うえっ、だ。
「隣の方は焼死だそうで可哀想ですね。」
「いや、それはいいかな。」
「いいのですか。」
「いいの。レークスから持ち込まれた過去の離婚案件よ。どうして私に持ち込まれたかというと、レークスが夫に殴られる可哀想な依頼人を可哀想だって愛人にしちゃったの。私はとっても大変だったわ。いくら相手がろくでなしの男でもルール違反はこちらじゃない?それを法知識と恫喝で押し通したの。もちろん、慰謝料と財産はその屑から少しはもぎ取った上で離婚させましたけどね。もう、ヤクザの顧問弁護士になった気持ち。」
いやあ姐さん、その通りです。
あいつは、パラディンスキ家は、そういう家です。
私が乾いた笑い声をあげていると、ビビアンはさらに驚く事を言い出した。
「私は休業中なの。弁護士資格を剥奪するかの査問中。」
「まあ、なぜですの?全部レークスのせいですか?」
「焼死したろくでなしが私を訴えたの。死んだことであっちの弁護士が訴えを取り下げるはずだけど、経歴には泥が付いたわね。全く、あんな男をパスクゥムの保安官にしていたとは、最悪よね。」
私は新たな情報に子供らしく、まあ!と驚いて見せると、ママに電話して来る!とやっぱり子供らしく言って二階の自分の部屋に駆け込んだ。




