ジェット・バーク連邦保安官
黄色にも緑色にも見える瞳は腕の中の私を見つめ、それから私の心をとろけさせる笑みを顔に浮かべた。
前世の私は目が見えなかったけれど、彼の瞳はこんなに素敵に輝いて、そして、こんなにも素敵な目で私を見つめていたのか。
私はほうっと溜息を吐いて目を瞑った。
ヴィクトールは私を後ろから抱き締めるのが大好きで、彼は私の首筋に顔を埋めては、夢や希望、そして、失われた家業について語ってくれたのである。
私の左耳に彼の吐息が掛かった。
びくりとして目を開けると、彼の顔は私の顔にキスできる程に間近にあり、彼は目を開けた私に、私に気が付いているよ、という風な目線を寄こした。
いや、それは私が勝手に考えたことだが、でも彼は私の耳に囁いたのだ。
「ついて来て。」
彼は私の腰に腕を回し、私はその力強い腕によって彼にしなだれかかる格好となった。
あら、あなたったら。
そうよ、魔物と戦うバンディット一族だってあなたは私に語ったわよね。
私があなたの恋人だったブランだって、あなたは気が付いてくれたのね。
私があなたをヴィクトールだって確信できたのと同じように!
「あの、保安官、どちらへ?」
しかし、スーは仕事熱心なのか頭が鈍いのか、私とヴィクトールの邂逅に水を差した。
「ああ、ちょっとこの方と現場検証だ。目撃者として呼んでいた方でね。そして、公にしたくない証人だから、頼んだよ。」
スーは上司の言葉を聞くと受付机の書類仕事に戻った。
それはもう、私と保安官などこの場に存在していないのかのように、きっぱりとだが、彼女から保安官が背を向けた途端、彼女は私にだけ聞こえる音量でぼそりと呟いたのである。
「ざまあみろ。」
ざまあみろ?
私は首を傾げながら、でも、受付からすぐに外に出ると彼は上着を脱ぐと私に被せ、そして私から視界を奪ったまま私を事務所の駐車場へと連れて行った。
「まるで連行される売春婦ね。」
「そう見えないと後が大変だ。車に乗って。」
私はヴィクトールに言われるまま車の後部座席に乗り込んだ。
SUV車の車高が高いため、彼が私の腰に手を当てて持ち上げてくれなければ目隠し状態の私には無理だったが、彼のエスコートはとても上手で私の身体は羽が生えたかのようにしてすっと車内に乗り込む事が出来た。
ああ、あなたはこんな素敵な扱いを女性にできるようになったのね。
あの頃のあなたは、私に手を貸すなんて考えもしてくれなかったのに。
過去を思いながらヴィクトールの上着を頭から外した。
「あ、私は連行されている!」
車内は後部座席と運転席には仕切りが付いていたのである。
「これは支給車ですからね。君は知り合いに連行されていると思われたくなければその上着で顔を隠していた方が良いと思いますよ。」
私は運転席のヴィクトールの言うがまま彼の上着を被り直した。
上着には彼の懐かしい匂いと、あの頃の彼には考えられなかったコロンの香りまで上着には残っていた。
ウッディな香りの後にゼラニウムやムスクが香る。
彼はもう十代の子供では無いのね。