落ち込む息子よりも明日の楽しみ
私はローズの姿をしているテンとすれ違うようにして入れ替わった。
「この入れ替わりは僕は好きだよ。二人がすれ違うと片っぽが別の生き物になって、片っぽが着ていなかったお洋服まで着ているんだもの。」
「それが見たいだけでこの仕込みなんじゃないでしょうね。わざわざNYで魔女まで捕まえて来て。」
「いやいや。魔女は今日初めましてだよ。母親を出迎えたところでバークは魔女だと見抜いていてね、そこで僕に相談は来たけど、あの仕掛けはバークだって。彼は本気でミスティという君の分身に会いたかったみたいだね。」
私はジュスランに鼻を鳴らして見せると、ジュスランの停めた車の中に乗り込んだ。
後部座席に座るディアンヌはマネキンのようになっており、私達が乗り込んで車が発車した途端に彼女は普通に動き出した。
「あの子がそれなりの場所で寝起きしていると知って安心だわ。でもね、なんだか酷い失恋したみたいで落ち込んでいて。ねえ、お客の前であんなに取り乱してしまったなんて、あんなあの子は初めてだわ。」
「僕達に襲いかかってきた暴漢を逃がしてしまった事が悔しいだけでしょう。せっかくの半休がガラスの取り換えで終了しそうだ。あれは自費での支払いになるだろうし、彼は自分の不幸に落ち込んでいるだけですよ。」
「まあ、では夕飯は差し入れてあげた方がいいかしら。」
「彼もレストランに来ますからご心配なく。ローズの親族がオーナーの店でしてね、パスクゥムではとっても有名なお店です。僕もそこでディナーのご相伴を預かれるなんて最高ですよ。」
運転席のジュスランはなんてことないように返して来たが、私は彼に対して右眉を上げて見せるしか出来なかった。
ディアンヌはシンディの術に嵌っていたので、魔法が解けた今やシンディの存在をすっかり忘れ去っているが、シンディがいたからこそのホテルのツイン部屋であるのだ。
レストランの予約だってシンディという婚約予定者が来ると知っていたレークスが、私を預ける為に大人三人に子供一人と入れていたものである。
ジュスランはその空いた一人枠に収まるつもりらしい。
そこで私は当てこすりを言ってみた。
「ええ、確かに伯父のイグニスのモンドソンメルソはお勧めですわ。あら、でも、パスクゥムの最高のレストランはヴィエットアニモではなくて?」
店の名前に、身も魂も共に、なんて付けるオーナーは誰かと言えばもちろんジュスランしかいないが、彼は楽しそうにハハハと笑い声をあげた。
「あそこは最高のフレンチでもね、お子様が禁止じゃないか。君はご飯抜きでいいの?」
私はぷくっと頬を膨らませて見せた。
ホテルで侘しく一人サンドウィッチは嫌だ。
「あ、あら、私はフレンチよりもイタリアンの方が歓迎だわ。イタリアンの方がチーズもワインも軽くて好きなの。」
「おや、ではあなたに最高のフレンチの真髄を知ってもらわなければ。あなたがこちらに滞在中にヴィエットアニモに行きましょう。僕のエスコートが嫌でなければ。」
ディアンヌは若い娘のようなはしゃぎ声をあげた!
「まあ!素敵!NYに帰ったら友人達に自慢できるわ。こんな素敵な男性とフレンチを楽しめたとね。ええ、支払いは気になさらないで!あなたとご一緒できるなら、破産してでも私が払うわ!」
ディアンヌはジュスランに身も魂も共に捧げてしまうつもりのようだ。
「うわぉ!あなたは素敵な人だ!ですがご心配なく。僕の知り合いの店です。僕だけには特別料金なのですよ。」
まあ、あなたがオーナーだし。
オーナーじゃなくともこの町で一番怖い人だし。
そして、怖い人のお陰でディアンヌはバークを思って沈み込む自分を放棄し、今夜の服どころかジュスランとのディナーの時のドレスまで考え始めた。
「この町でお洋服を買うとしたらどこかしら?」
「明日の昼間は友人に案内させますよ。そして、その友人にローズを預けて僕達はディナーをしましょう。」
ディアンヌは思春期の少女のような歓声をあげ、私は寝る前にホテル周りのチェックをしておかねばと頭の隅にメモをした。
シャーロットに泣かれたらたまらない。




