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誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
週の真ん中な水曜日は月曜日よりも嫌い
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バークの私生活

 バークの部屋は玄関ドアを開けるとそのまま横長のリビングキッチンとなり、リビング部分となる正面はベランダに出られる大きな掃き出し窓が見え、左手はキッチンで右手奥の壁にはドアが一枚だけついていた。

 右手奥のドアが寝室で、そちら側にバスルームが付いているのだろう。


「うわお!外側と比べると設備がモーテル並みだねぇ。いや、テレビドラマの安い集合住宅の一室並みと言うべきか。うーん、がっかり。」


 ジュスランの言う通りだ。

 室内は家具付きの引き渡しであったようだが、設置されているものが宿舎というカテゴリーに適した汎用品ばかりである。

 建物の外観や立地環境から見るに、嫌がらせかと思うぐらいに落差があると言っても良い。


 また、家具の配置にしてもモデルルームのような味気ないものだ。

 けれどモデルルームでは無いと言い切れるのは、バークの匂いが部屋には漂っているし、キッチンカウンターの上にはバークが買いおいていたらしき食料品が置いてあったりで生活感があるにはあるのだ。


 私がレークスの家で感じたようなバークらしさと言えるものが一切無いだけだ。

 例えば、よくある黒色の合皮ソファにはバークの趣味が伺えるはずのクッションどころか、彼が読み捨てた雑誌一冊塵一つない。

 レークスはアーリーアメリカンが好きだ。

 それは本棚に並んだヘミングウェイが好きだからかもしれないが、とにかくあのデーモンはそんな感じに自分の趣味が見える部屋を作っている。


 そこで、バークは何が好きなんだろうと考えて想像した所で、私は彼の部屋の趣味が見たかったのでは無いと気が付いた。

 私は犬だったあの頃のヴィクトールの部屋、十七歳の彼がたった一人で住んでいたあの部屋の内部を見て見たかったのだ。

 ガレージを住めるように改造した、窓が一個だけの寂しい部屋。

 それを彼はどんなふうに飾っていたのか、飾っていなかったのか。

 もう一度部屋をぐるりと見回して、酒もグラスも入っていない空のサイドボードの上に写真立てが一個だけ置いてあったことに気が付いた。


 彼の永遠の恋人のクロエだ。


 バークにはブランなど必要のないと言っているようだと、私の胸はズキっと痛み写真立ての景色がぼんやりと霞んだ。

 頭を振って涙をひっこめ、大げさな声を上げてみた。


「なんか、思ったよりもつまらない。ねえ、この町の写真館でも行って遊びましょうよ。みんなでコスプレするの。どうかしら?」


 急にいたたまれなくなった私は、外に出ることを提案したのだ。

 すると、私と同じように感じていたのか、私の提案にディアンヌは乗った。


「ええ、そうね。そうしましょう。この部屋はあの子の寝るだけの部屋みたい。うすら寒い位に全然あの子の趣味が無いわ。」


「ディアンヌ。ジェットの好みは何なのかしら。私は知りたいの。私は婚約者でしょう。」


 シンディに乱暴に肩を掴まれたディアンヌは、体を強張らせ、彼女の青い目は瞳孔が開いた感じになった。


「あの子は、あの子の趣味は――」


 母親は息子を裏切ることは無かった。

 防音性の高い建物のはずなのに地響きがするほどの足音が近づいて来て、ドアが壊れる程の勢いで開かれたのだ。


「おい!勝手に俺の部屋に帰るとは何事だ!」


 反抗期の少年っぽい怒った表情でバークは部屋に飛び込んできて、でも彼はすぐに体を強張らせた。


「ああ、お帰りなさい!私の為に早く帰ってきてくれたのね!」


 シンディはバークの胸に抱きつき、バークは数十秒前のディアンヌの状態となった。


「バーク!写真館に遊びに行こうかって言っていた所よ!」


 術中に完全に嵌ってしまったのか、バークは声をかけた私に目もくれなかった。

 彼は殆どシンディに寄りかかるようにしてよろよろと部屋の中心に来ると、三人は座れるだろうソファの真ん中に彼女と腰を下ろした。


「え、バーク?」


 私はディアンヌに振り返り、ディアンヌがマネキンのように立っているだけだと気が付いた。


「シンディの術が発動するとこんな風になるはずなの?」


 ディアンヌの時間が止まっているようなのだ。

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