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誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
週の真ん中な水曜日は月曜日よりも嫌い
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なんでそうするの?

 バークは町の保安官という事で、町が用意した専用宿舎に居を構えている。

 専用宿舎と言っても田舎町である。

 高級コンドミニアムの一室などでは…………だった。


 パスクゥムは自給自足率150パーセントもある農業地な田舎町でもあるが、一応観光地としても運営されている町でもあるので、町中に高級ホテルもあり、町外れに高級じゃないホテルもあり、高台には人間専用の高級住宅地も広がり、そこには豪邸も建っていれば高級コンドミニアムというものもある。

 その一室が保安官住居に貸し出されているなんてなんと太っ腹な町だと改めて驚き、そして、敷地内のいたるところにある監視カメラを見て、住民側からの余所者への監視棟なのかもしれないと考えを改めた。


「丸見えの部屋に彼は押し込められたのね。」


 ホテルのような建物内の共有廊下を歩くジュスランは私の言葉に吹き出し、私の頭にポンと手を乗せた。


「監視カメラ映像はいくらでもジャックできる。彼はその気になれば自分で見れるようにするだろうし、この建物の内も外もカメラ映像を変換できる人でしょう。ならば、騒々しい町中にある一戸建ての宿舎と高級住宅街にある防犯性防音性共に高い集合住宅の選択とくれば、君だったらどちらを選ぶ?」


「監視カメラジャックは面倒だけど、騒々しい所の一戸建てだったらこっちがいいわね。ここには大きなプールもあるし。」


「そう。魔物の殆どが嫌うと言われている大量の水があるんだよ。魔物でなくとも敵を撃退する時の障壁にも使える。」


 聖水だって全く気にしない魔物は性悪そうな笑い声を立て、私はこの内緒話が後ろの二人に聞こえていなかったかと、怖々後ろを振り向いた。

 ディアンヌは息子の住む建物の豪華さにただただ感動している顔付だった。

 ディアンヌの後ろに控えるシンディ、侍女とはシャーロットめよく言った、は、この建物の全てに惑わされまいとしているように自分の足元だけ見つめている。

 足元の絨毯は勿論ホテルの廊下に敷かれているようなものであるが、彼女の足元には細かくて黒い粒子がいくつも纏わりついているように見えた。


 ようにじゃない、纏わり付いている、だ!


「おやめになって、シンディ!あなたは意識的なのか無意識なのかわからないけど、人を不幸にさせる振る舞いばかりだわ。その足元から意識を離しなさい!」


 彼女が紡いでいた呪いの道筋は私に邪魔をされたせいでぱっと途絶え、彼女が率いていた蟻は外へと逃げまどい始めた。


「あ、きゃあ。蟻がこんなに!まあ、これがシンディがしたって言うの!ああ、でもシンディ!あなたの靴には蟻が沢山纏わりついている!大丈夫なの!ああ、私の足にも!」


 ディアンヌはきゃあきゃあ言いながらティッシュペーパーを鞄から取り出し、自分の足を昇ってくる小さな虫を掃い始めた。

 術の邪魔をされたシンディは、背の低い私に対して上目遣いのような恨みの籠った目を向けてきた。


 うわあ!ほとんど白目にされて睨まれるのは怖い!


「ああ、残念。バークの部屋を蟻ん子だらけにして見たかったのに。」

 うわあ!ジュスランの方が怖い。


「もう!あなたは意地悪ね。バークの部屋には虫など入れさせませんからね!」


「そうなの?虫が紛れ込んだら、虫退治の名目で家探しも出来るのに!ねえ、シンディ。君はそれ狙いだよね。バークの部屋のどこかに恋を成就させるおまじないを置いておきたい。そんな恋心なんだよね。」


「まあ!あなたはそんなことを考えていたの!でもあなたは今までヴィクトールに会ったことも無かったはずでしょう!」


「あら、何度も会っています。私達は結婚を誓った仲です。そうじゃ無かったですか?ディアンヌ。」


 シンディはディアンヌの手を握り、ディアンヌはすぐに、そうね、とシンディの言葉を受け入れた。

 こんなあからさまな暗示を人前で行えるシンディもシンディだが、こんな暗示にしっかりと掛かるディアンヌもどうなのだろうか。

 彼女は捜査チームも抱えたことのある女部長刑事だったのではないのだろうか。


「ねえ、ジュスラン。シンディって魔女、なのよね。」

「見たままだね。」

「魔女って、もっとこう、わかんないように魔法を使うものじゃないの?」

「そうだね。彼女はそうしているんだけど、君も僕も上位の魔物だから、ぜーんぶ駄々洩れなだけなんだよ。」

「あら、まあ。」


「だからね、魔女に混乱させられるバークを楽しく鑑賞できるんだよ。」


「まああ。あなたって本当に底意地が悪いのね。」

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