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誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
週の真ん中な水曜日は月曜日よりも嫌い
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ほのぼのとしたところに落とし穴がある

 水族館事件後の一か月はジュスランのちょっかいも無く、何事も無く平穏に過ぎ去ったが、私は昨夜から水曜日がとっても忌々しいものとなっている。


 正しく言えば、本日の水曜日の放課後から、だ。


 リリーと私の後見人となったレークスは毎日のように夕飯を食べに我が家に立ち寄るが、それだけでもウザイ親父でしか無いのに、さらに、保護者という立場からの強権を私達に振りかざして来たのである。


「リリー。君はなんでも受け身すぎる。普通はさ、義理の兄でももっとね、煩いウザいって口や顔に出していいんだよ。ほら、あそこのチビみたいに。」


 彼が指さしたあそこのちびは、勿論私の事だ。


「ま、まあ、何をおっしゃいますの?伯父様ったら!」


「あ、否定してくれるんだ。お前はやっぱり伯父さんの俺が大好きなんだね!」


 私はレークスのオーダー通りに顔を歪めてやった。


「あ、傷つく。だけどこんな感じだよ。リリー、君は昼遊びも夜遊びもこの一か月全くしていないじゃないか!いいかな、若い君はもっと遊ぶべきなんだよ!」


 リリーはレークスの剣幕に目を白黒させていたが、くすりと小さく笑うと、男という男は全て虜にしそうな微笑みを浮かべた。

 ど金髪に青い目という我が母リリーは、内面は普通の地味な主婦であるが、外見に至ってはファッション人形のように最高であるのだ。


「あなたは本当に優しい人ね。レークス義兄さん。私は忙しいあなたが夕食を一緒にしてくれるだけでもうれしいの。見て、ローズはあなたのお陰でいつも笑っていられるわ。もちろん、私も。」


 レークスは私の方へ顔を再び向け、彼は自分の顔がリリーに見えないことを良い事に私にあかんべをしてみせた。

 私もつられて彼にあかんべをし返した。


「もう!ローズったら。変な顔をして。エージさんにはそんなこと!あっ。」


 リリーは少々ヒステリックな笑い声を立ててたが、終いには顔を両手で隠した。

 エージを亡くしてから私という子供の為に泣かないように頑張っていた彼女が、今ここで崩壊してしまったと言っても良い。

 崩壊させられたか?

 静かに嗚咽を始めたリリー。

 するとレークスはリリーの肩に右手を乗せた。


「ほら、君は無理をしすぎた。君は頑張らなくとも、沢山泣いて、沢山笑っていいんだよ。それで、まずは肩ひじを全部抜こうか!」


 親指だけでリリーの肩をそっと撫でる奴の右手は危険だと私は直感したが、そのとおりかその指の動きがリリーの身体をびくりと震わせた。


「……。どう、どうすればいいのかしら。」


 レークスはやり手弁護士の顔をすると、リリーの肩から手を外し、自分が座る椅子の背と自分の背中で隠していた書類サイズの茶封筒を取り出した。


「さあ、君が明日からしなければいけないメニューだ。君はまず明日の朝に可愛い小鬼を学校に送り届けたら、この書類通りに過ごさなければいけない。ルールは、何も考えない。泣きたくなったら泣けばいいし、騒ぎたくなったら騒げばいい。最後は腹から笑えるが最高だね。」


「うふふ。何かしら。」


 私は勿論その書類が見えない距離なので、ダイニングの椅子からぴょんと飛び降りると、リリーの脇へと駆けて行った。


「ママ?なあに?見せて!」


 レークスがリリーを食べようとしてる危険な罠であれば、私が事前に確認して彼女を守らねばならないのだ。

 私は茶封筒から取り出されたレークスの手によるリリーのスケジュール表と、その表にそって動き回るためのチケットの束を見て、やはりレークスは危険なデーモンなのだと確信した。


「まあ、これはショッピングね。それで、これが、まあ、エステの予約。そして、まあ、まあ、パーティ?これは誰かさんとのデートだわ!」


 ぱあっと華やかに表情を花開かせたリリーに対し、レークスは何ともまあ、悪そうな、でも、物凄く魅力的な笑顔を顔に浮かべていた。


「そのパーティに俺のエスコートは如何でしょうか?お願いします。素直に答えてください。嫌だったら嫌と。」


「え、でもそうしたら明日の私はお留守番?放課後のベビーシッターは頼んであるの?あ、このスケジュールだと朝帰り確定っぽいわって、NYに行っちゃうの?で、帰宅が土曜の夕方ってどういう事よ!我が家には私を預ける先が無いのよ!」


 私の声が甲高く裏返ってもいたのは、祖父であるドンに預けられたら事であるという恐怖からのものである。


「ま、まあ。本当だわ。あの、レークス。申し訳ないけれども、子供を残してこんな長く留守をするわけには……。」


「残念だな。君の大好きなドラマの打ち上げパーティチケットもあるのに!」


「ええ!もしかして!」


 リリーは悪魔の言葉にレークスの作成したスケジュール表を見直し、そして、震える手で沢山のチケットの中にあるパーティの招待券を再び手に取った。


「まあ。ああ!……でも金曜って、やっぱり駄目よ。私はまだ喪中だもの。」


「ママ。喪中だからって自分を押さえる必要は無いわ。だけど、今回は反対よ。最初にお泊りする相手に危険極まりない人を選んでどうするの!」


「このガキが!リリーの為に別にホテルは取ってあるよ。NYは俺の仕事もあって行くんだ。俺の家があっちにもあるんだよ。一年のうちにいくつか泊まらないと税金がどーんと掛かる自宅がね。」


「うわ、金持ちこそみみっちい!」


「こら!ローズ。そんな憎まれ口ばっかり。でも、ええ安心して。ママはここに残るから。ごめんなさい、レークス。あの、やっぱり。」」


 レークスはリリーにハハハハと楽しそうな笑い声をあげて断りの言葉を遮ると、なんと席まで立って私の方まで来た。

 私は彼に抱き上げられると、ぐんぐん振り回された!


「うきゃああああ。目が回るぅううううう!」


「はっははあ!明日からお前を保安官様に預けるからお前の身柄は安心しろ。邪魔だったら留置場に入れてもいいとも言ってある。大丈夫だ!」


「まあ!保安官はお仕事があるのじゃないの?」


 数秒前にレークスの罠を断ったはずのリリーの声に、何だか期待が篭って聞こえるのはなぜだろうか?


「ああ。仕事だ。彼は明日の朝に母親がやって来るんだそうだ。親戚の婚約者予定者を連れてね。彼はその邪魔をしてくれる悪ガキが欲しいんだってさ。」


「まあ!私があなたにイエスと言わないと保安官が不幸になるのね!あなたって酷い人!」


 リリーの笑い声は一か月ぶりに聞いた心の底からのもので、私はレークスに振り回されながらレークスを、蹴っ飛ばした。


「酔っちゃう!もういい加減にして!だから中年のおじさんは嫌なのよ!」


「あ、この野郎。本気で吐くまで振り回してやる。」


「いやーママ助けて―!」




 リリーはその後は本気で笑い転げていたが、私は二日酔い状態だ。


「ああ、あの野郎。未だに視界がぐるぐるする。」


 そして、こんな不幸の中での私のささやかな幸せは、レークスがお泊りセットの着替えに私の黒ドレスなどを入れてくれた事と、物凄く悪そうな表情をした保安官が私を迎えに来たことだろう。


「さあ、その大きなお泊り荷物は俺が持とう。おや、顔色が悪いけれど具合が悪いの?」


「昨夜レークスに二日酔いになるぐらい振り回されたの。」


「ハハ、それは酷いな。大丈夫かな?俺の母さんはあいつぐらい強烈だよ。」


「まあ素敵。面倒だったら女性の扱いが上手いレークスに全部預けちゃうのは如何?レークスのNYのお家に向かわせちゃうの。」


「君は悪い子だ。さあ、ローズ、俺を守ってもらおうか。」


 バークは私に左手を差しだし、私はその大きな手に小さな自分の右手を乗せた。

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