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誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
日常は変わらず続き、私は再び月曜日を迎えられた
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遅れて来たヒーロー

 館長が館長でなければ館長室にいるはずもなく、私達はサラマンダーの言う館長の中身の魔物が行きそうな場所へと駆け付けた。


 南米出身のイプピアーラ。


 水棲の人食いの魔物で、全身は毛に被われていて猿に似ているとのことだ。

 つまり、サラマンダー様がふれあい広場に追いやられたのは、サラマンダー様の大型水槽をイプピアーラに奪われてしまったからに他ならない。

 そして、私達が南米の生き物コーナーに辿り着いた時、私達が煽った結果がそのコーナーの一角で起きていた。


 オコナ―弟と全裸男の死闘である。


 オコナ―弟は学生のまま学者になってしまった感のある頼りない外見であったが、飼育員としての日々の肉体労働に未踏の地へのフィールドワークによって体力と腕力もあったらしい。なんと、全裸男のこん棒攻撃に対して、エマージェンシー用の斧で打ち合うという健闘を見せていた。


 バリバリに割られた水槽の前で、背中に毛皮をはためかせた全裸男と飼育員の黄色のツナギを着た男が死闘を繰り広げている所は、意外と見ものである。


「邪魔をするな!この変態が!」


「俺の女房をおおおおおおお!よおおおくもおおおおお!」


「変態男に女の子は渡せない!いい加減に諦めろ!」


 そしてよく見れば、水槽の中でもぞもぞと動く人影があった。


「イプピアーラが中にいるの?いい加減にアランの加勢をしなければ危ないわ!サラ爺!私の背から今すぐ降りて!私は今すぐトイレに行きたいのよ!」


「おおおお。しゅまない。」


 意外と素直に降りてくれてありがたかったが、私は一番近くのトイレに駆け込むと一気に服を脱ぎ捨て、そして、戦えるように犬に化けようとした。

 犬に変化するぞと大きく息を吸い込んだ時、私の鼻腔は良く知っている人の匂いを捕まえていた。

 耳はあの頃のヴィクトールよりもしっかりとした、でも、彼のものでしかない足音を捉えている。


「バークだ!」



「君達!大丈夫か!」


 バークの声に私はきゅんとなり、そのせいで私は攻撃的なブラッドハウンドではなくいつものスタンダードプードルに変化してしまった。

 それも、どピンクだ。

 どうしよう!

 でも、とりあえずトイレを飛び出した。

 オコナ―弟を助けなければいけないし、バークには危険な生き物は変態男一人としか伝えていないのだ。


 南米のコーナーの入り口にはバークが既に銃を構えて立っていた。

 私は彼の邪魔にならないように、いや、スタンダードプードルでは飛び出せないと廊下の置いてあるベンチの下に身を隠した。

 遠目でも入り口は広いので全てが見通せた。


 私が彼を見守る中、彼は手をあげろも、黙秘権云たらも一切口にせず、ただ、以前にイカ女を殺した時と同じ文言を口にした。


「神の名が刻まれた銃弾は生きとし生けるものすべてに公平に死をもたらし、その恩寵は何者も覆すことは出来ない。灰に、戻れ。」


 彼の弾丸はディゴーの脳天を貫き、ディゴーがどさりと床に転がった。


「けが人は!君は大丈夫か!」


「はい。ありがとうございます!バーク保安官。ほら、みんな!すぐに出てきて!助けが来たよ!もう大丈夫だ!」


 オコナ―弟が水槽に向かって叫ぶと、そこから死んだ変態男の妻だった人達がわらわらと飛び出してきた。


 最初は小柄でぽっちゃりした体型の女性だった。

 灰色の長い髪をした彼女は美しい大人の女性ともいえるが、次々に飛び出してきた女性達は美しい大人とは言い難い外見だった。

 大きすぎる目に厚ぼったい唇をして可愛い顔立ちでもあるのだが、体は痩せてガリガリでとっても小さかった。


「まあ!お子様だわ!わたくしと同じぐらいよ!」

 リサが痩せている雌セルキーの姿を見て驚きの声を上げた。


「こんな子達を女房にしていたのか?この変態!ここで死んでいなかったら親父に全身をかみ砕かれていただろうよ!」

 正義感の強いシルビアの声は、セルキーの受けただろう不幸を思いやっての怒りとせつなさを含んでいた。


「ほんとーに、許せません事よ。私達が最初のあの変態男に追いかけられたのは、オコナ―弟がここで盗みをするための目くらましにされたって事じゃないの!」

 シャーロットは鼻を鳴らして言い切った。


 リサもシルビアも目を真ん丸にしての驚き顔をして見せ、オコナ―弟は彼女達にぱしんと両手を合わせた。


「ごめんなさい!ウーパーベビーも君達を呼ぶための嘘です。君達の家には水槽の設置も無いです。でも、お詫びに水槽と金魚を後日にプレゼントしますから!」


「いりません事よ!それに、最初からベビーはいらなかったから、ベビーがいないって所は吉報ね。」


「あ、そうだね。あたしもいらないや。ウーパーは。」


「ええ。飼うんだったら私も可愛い生き物がいいもの!」


 サラマンダーは物凄く絶望した顔をしてシルビア達を見上げ、バークはどうしようかな、という顔で周囲を見回した。

 私は彼に見つからないように物影に身を潜め、そして、バークが探していた何かを彼よりも先に見つけていた。


 天井に貼り付く猿のような蛙。


 それはシルビア達目掛けて口からヘドロを吐いた。


 シルビアはリサをひっつかむと飛び上がった。


 バークは当たり前だがヘドロから逃げ遅れそうなシャーロットを庇って床に転がり、イプピアーラはぴょーんと壁を蹴ってバークに襲いかかろうとした。


 私は既に駆け出していて、すぐに床を蹴ってジャンプをした。


 私の体当たりによってイプピアーラは弾かれて何もない床に転がり、私はバークの無事を確かめると直ぐにその場を駆け出した。


「待って!ミスティ!って、ああ、邪魔だ!この糞が!」


 私の後ろで44口径の音が二発、いや、三発目も聞こえた。


「ああ、畜生!銀玉だけじゃ無くて唱えなきゃこいつも死なないタイプなのか?ああ、もう!ミスティ!待ってくれ!って。邪魔だって言っているだろ!はい!神様の名前付きの弾丸ですよ!生きとし生けるものはぜーんぶ灰になります!」


 背中に聞こえる物凄いやけっぱちなバークの声に逃げてごめんなさいだが、ミスティに扮装したら服が無いではないかと私はトイレに駆け込むしかなかった。

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