悪の顛末
「あああああ。何てこと!何をしたの?私がせっかく作り上げた復讐の場を、お前はなんてことしてくれるのよ!」
アンジェラは天晴れな事にジュスランに対して雄たけびを上げ、それだけでなく、顔の真ん中にすっと線が入り、なんと、彼女はバナナのようにしてひょろっと剥けた。
アンジェラの剥けた皮はそのまま蛸のような赤黒い触手となり、中から出て来た裸の本体は私がエージの雑誌で見た金粉の女性モデルを三倍ぐらい太らせた外見をしていた。
金粉は塗っていないのでイカの表皮のような色合いの肌であったが。
「お前ら全員殺してやるよ。ああ!私をコケにし続けた男達も殺してやる!」
両足の足首からそれぞれ触手を生やした女は、ジュスランではなくバークとレークスへ自分の触手をグンと伸ばした。
バークは当たり前だろうが、祭壇に背中を向けてしゃがんで吐いていたレークスも、アンジェラの繰り出した触手を簡単にかわした。
「コケ?俺をコケにしていたのはお前だろ。俺はずっと探していたんだ。俺がプロポーズしたクロエを隠して成り代わってしまったお前をね。」
「おい、お前のクロエはシェリーじゃないって言っただろうが!」
「プロポーズして指輪を渡した次の日に目の前のイカ女がクロエですって現れたんだ。違和感ばかりでも、ストーカーやら三月五日の殺人事件やら、だ。仕事でプライベートどころじゃ無くなっての一月後に、急に手のひらを返したようにして婚約破棄をされてね。その時にクロエじゃないと確信もしたが、消えたクロエが心配で調べている最中にクロエの死だ。俺の家に死体をばらした鉈も捨てられるし、全部お前の仕込みかと思っていたよ。」
「どうしてあいつばかりなんだよ!どうして誰もあたしを見ないんだ!」
アンジェラの触手はバークとレークスだけ狙っていた。
「あたしはクロエでありシェリーでもあったのに!」
「お前こそ何人の人間を喰って来た。お前は他人の記憶どころか人生そのものを喰って成り代わる名も無い化け物でしかない。最初に喰ったのは、シェリーか?クロエか?」
「え、俺の恋人がシェリーで。幽霊も自分がシェリーだって。」
「違う。おそらくそれもあのイカ女に掛けられた暗示何だろう。」
「そうか、ハハハ……あいつは俺に嘘など一つもついてないどころか、化け物に混乱させられて壊されただけの哀れな女だったんだな。このアマ。」
「お前が間抜けなせいであたしはクロエでもいられなくなったじゃないか!」
アンジェラは頭が二分するぐらいに口をぱっかりと開けてレークスを罵ったが、その口の臭いは船一隻分ぐらいの魚を腐らせたぐらいに強烈で、レークスは仕返しどころかやっぱり吐くだけだった。
「お前……。俺がやってもいいか?」
「頼む。うぷ。」
バークは大きく溜息を吐いたが、すぐに銃を構え直した。
「神の名が刻まれた銃弾は生きとし生けるものすべてに公平に死をもたらし、その恩寵は何者も覆すことは出来ない。灰に、戻れ。」
バークは静かに唱え、そして最後に銃の引き金を引いた。
そのたったその一発で、アンジェラは軟体の体をぐちゃりと後ろに倒した。
「ああ!なんか!思ったより面白くなかった。帰る!」
そして吸血鬼は自分が注目されていないからか、シャーロットを私の手から奪うと、彼女を連れてこの部屋から出て行こうと歩いていった。
「ああ!待って!私こそこっから出たい!」
長い足の彼に私は慌てて追いすがろうと走り出したが、私は背中の布を掴まれてそのまま放り投げられた。
背中から転がった衝撃で私は喘ぐしか出来ず、そんな私は私を転がしたエージによって押さえつけられた。
ドンによく似た美貌など消え去り、青い肌の異形に変わった男の両目は狂気しか宿っておらず、彼は壁の死体にしたように右手を私の心臓に向けて突き出した。
だが、私を貫く前に彼の両脇に紫がかった雲が二つぼわっと出現し、その雲はシャーロットそっくりの姿になると両脇からエージを押さえつけた。
「喰わせるかあ!」
私は今だと叫びながらエージを蹴り飛ばした。
足からミニチュアホースに変化していき、エージを蹴り飛ばした蹄の両足を床につけて体を起こした時には、私は完全なるミニチュアホースになっていた。
少しでも威嚇できるように、私は鼻息荒く前足をがつがつと床に打ち付けた。
「このガキがああ!」
エージは怒号をあげながら床から起き上がり、だが、立ち上がったそこで彼は動きを止めた。
彼の左胸から青い腕が生えており、その手はエージの心臓を握っていたのだ。
エージは自分から生えて自分の心臓を握る手を不思議そうな顔で見下ろした。
「俺はいいものしか喰っていなかったからね、腐れ者の臭いに弱いんだよ。長男様だからかねぇ。」
レークスは低い声でそう言い切るや、思いっきりエージの背中を蹴り込んだ。
エージは前へと飛ばされ、そのまま床に転がって息を引き取った。
レークスは弟の死など確認するどころか、自分が握る心臓をそのままごくりと丸飲みをした。
青い肌に変化したレークスはエージのように角が額に一本ではなく、両のこめかみから角が生えているのだ。
そして、その二本の角はバイソンの角のように太く大きく流線形であった。
黒かった瞳は猫目石にも似たものだ。
私を見つめるレークスの目は、私の心臓を狙っているぞという風に、私を真っ直ぐに射貫いて来た。
――お前は美味しそうだ。
エージの台詞が脳裏で蘇った。
ひい!
レークスはまっすぐに私の所に来ると、脅える私の前に膝をついた。
私の歯なんて、もうガチガチとしか鳴っていない。
レークスは私の頭に右手を乗せてきて、私はびくりと両目を閉じた。
「心配するな。今日からお前は俺が飼ってやる。」
目を開けた私の目の前には元に戻ったレークスが子供のように目をキラキラさせており、私は蹄のある馬の前足でレークスをぽかぽかと叩いた。




