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誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
水曜日は危険がいっぱい
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三年ぶりの情報交換

 金色の扉をくぐると普通に受付があるという体育館か劇場のような造りで、外観から何も変わり映えしないと少しがっかりした。


 あの日はこの金の扉をくぐったら生きて帰れないぐらい脅えていたのに。


 ただし、扉をくぐって直ぐに私はレークスの肩から降ろされてロビーに並ぶソファに座らされ、レークスとバークは私から距離を取った所に行ってしまったので、怖い所じゃ無くて良かったと思う気持ちの方が大きい。


 完全にどこもかしこも怖くない場所といえば嘘となる。


 受付とロビーの先には劇場にあるような防音の茶色の大きな両開きのドアが嵌っているが、その先での惨劇を私達からシャットアウトしてくれていただけだ。


 亡くなっていたのは成人女性一人に成人男性一人、そして、七歳の少年であるが、その少年はあの日のバスに乗っていない子であった。

 この子は、誰?


「それで、俺に改めてクロエの事で聞きたい事ってなんだ?」


 バークの囁き声に私は耳を澄ませた。


「俺はこの指輪が母親からの形見だとクロエに聞いていた。」

 多分どころか、あのパヴェリングをバークに見せたのだろう。


「ハハハ。俺の贈った婚約指輪だ。」


「そうか。それなら返す。それでな、俺はこんな情報を仕入れてしまってな、それで君に改めて話しがしたいと思ったわけだ。」


 レークスは自分のスマートフォンをバークに手渡し、バークはその情報を受け取って大きく息を吸っていた。

 彼らは完全に私から背を向けて私に知らせないようにして話していたが、彼等の周りの空気の動きと声の変動で私は何となく何が起きているのか掴んでいた。

 本気で知らないままでいたかったが、私の耳は秘密を捉えてしまうのである。


「それでな、この二人のどっちがお前のクロエだった?」

「何を。」

「いいから、お前のクロエを指差してくれ。」


 しばしの間と、バークがとんと画面に彼の指先を当てた音。


「おめでとう。君のクロエは生きているよ。俺のクロエはこっちだ。シェリー・ムーンという名前らしい。クロエとルームシェアしていた子だってさ。どうしてクロエの振りして検事の研修に参加していたのか知らないけれどね、俺が出会ったクロエはこっちの子なんだよ。蝶々が見えるだろ。」


「――意味が解んないよ。お前のクロエじゃ無いんだったら、俺と婚約破棄する必要は無いだろう。」


「本当だな。俺もわかんないよ。三月になったばかりのあの日、どうしてあの子は、シェリーは、クロエの振りをしていたのか。」


 バークはしばし黙り込んだが数秒後には、何日だ?と地獄からぐらいの低い声を出した。


「三月の五日。」


「ハハハハ。俺が呼び出しを受けた日だ。ホテルでね、異常な死体があったからさ、俺は魔物の仕業かどうか検証する羽目になったんだよ。胸を切り裂いたあとに心臓を奪っていた。生活反応があるから生きたまま心臓を取り出されたんだろうがな、心臓が取り出されるのに無抵抗でいられるわけはないだろ?そしてもっと驚いたのがさ、その被害者はクロエのストーカーだった。デートの最中に俺がそいつを追い払った事もあるよ。」


「そうか。それで火曜から俺達パラディンスキ家の面々が事情聴取を受けているのは、その扉の向こうの遺体は自殺どころか同じような殺害方法なんだな。」


「ああ、そうだ。お前のクロエだけは違う死に方だがな。」


「いや、同じだよ。俺が死体をバラバラにしたからな。あいつの指に嵌っていたお前のその指輪をね、あいつは祖母のものだと言っていたから形見として抜いてからね、バラバラに切り刻んだんだ。」


 ごっつんとスマートフォンが床に落ちた鈍い音が起きた。

 バークがレークスのスマートフォンを落としたのだ。


 なんだかバークは石化しているようだったが、見守る内に色彩を取り戻した。

 もう茹でたザリガニと形容してもいいぐらいに顔を真っ赤にさせると、怒り狂ったザリガニのようにレークスに噛みつき始めた。


「やっぱりお前か!お前のせいか!俺はお前のせいで免職どころか、もう少しで刑務所送りだったんだからな!」


 レークスはそんなバークに嫌がらせのようにゆっくりな動作でスマートフォンを取り上げてから、南部の人ですか?と聞きたくなるような間延びした喋り方をして返した。


「俺はお前がやったと思ってたんだよ。俺に思い知らせるために俺がいつも通る道筋にあいつを転がしていたのかなぁってね。いかにもデーモンがやりましたっていうような心臓を抜いた死体だったじゃないか。」


「だが、デーモンの仕業じゃないんだな。」


「俺の女に手ぇ出していたら、弟だって始末するさ。俺を裏切っていようがね、俺の手が付いた女だ。殺る時は俺が殺るんだ。」


 バークはハハハと乾いた笑い声をあげながら髪をかき上げ、レークスに皮肉そうな声を出した。


「お前さ、俺が州を越えての逮捕権がある連邦捜査官だって知っている?」


「知っているさ。お前がこの山で俺を逮捕しないだろう事もね。」


「ああ。俺もバンディットの姓を持つ男だからね。殺る時は俺が殺るんだ。」


 二人は顔を合わせて白けた笑い声をあげると、バークはレークスに帰れと言い、レークスは死体が見たいと言った。


「見せてくれ。曇って無い目で死体を見て、何が起きたのか確認したい。これは顧問弁護士としての要望だ。いいだろ?」


 バークは物凄く嫌な顔をしたが、それでもレークスに許可を与えた。


「よし、行くぞ!ローズ!」

「おい!子供は!」


「今日のローズは赤ちゃんだ。大人の邪魔はしねぇよ。」


 私は再びレークスに抱え上げられ、私の拒否は通らないだろうからと諦めた。

 私が出来る行動はただ一つ、クーラーボックスで二日過ごした魚のようにして、腐り切った気持ちでレークスの肩にだらっと垂れ下がるだけだ。 

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