恋敵同士の対面
二日ぶりに来た宗教施設は閑散どころか人がわやわやと外に出ていた。
わやわやしていても暴力的に騒ぐわけでもなく、違法捜査と書かれたプラカードを掲げながら警察が張ったキープアウトの黄色いテープの外側に立っていた、という状況だが。
「あれ、いっぱいいる。集団自殺はどうしたの?」
「死んだのは子供を監督している二名の職員と子供一人だけだ。」
「まああ、集団なんて言ってそれだけ?たったそれだけなんて肩透かしね。」
私の頭はレークスに叩かれた。
「てめぇは本っ気でろくで無いな。人の死を望むってどういうことだ。」
「あんたこそデーモンの矜持はどうしたのよ!私の鎖骨を折った人がいる教団なんか、全滅して解散で丁度いいでしょうよ。」
「鎖骨を折った?……どこ怪我してんだ?嘘吐きが!」
「嘘じゃないわよ!ミニチュアホースに化けたら治っただけよ。あなただって別の生き物に変身できるでしょう。」
「できねぇよ。お前は馬になれんのか。よし、明日も遊んでやる。」
私はおしゃべりな自分の口を両手で塞いだ。
「パスクゥムには牧場がたくさんあれど、ミニチュアホースなんていねえもんな。テレビの働く動物特集を見るしかないから楽しみだよ。」
動物番組を見ているレークスにほのぼのとした気持ちになるどころか、子供用特番が好きらしいデーモンという存在に恐怖心だけが湧いていた。
「い、いえ。結構です。明日から学校が始まるかもしれませんし。」
「だな。今日中に片付けることは片付けるか。」
彼は私を揶揄う事を止めると、私をやっぱり猫のように摘まみ上げて自分の肩に乗せ上げた。
ただし、一歩踏み出したそこで彼は足を止めた。
「畜生。フラーテル封じの呪文か。お前らはこんなのがあってどうやって逃げたんだ?そんなに強い力があるようには思えないんだがな。」
「私はシャーロットに言ったの。神様がいるなら死霊なんか天国や地獄にいてここに存在しているわけ無いって。そして、ここの人達が信じているミトラス様なんか私はぜんぜん知らないって。」
「どういう意味だ?」
「だから、そんな人達が描いた紋章など、ただの絵でしか無いと思わない?」
私はレークスの肩から引きずり降ろされて普通の子供にするようにして抱き直され、彼は私の胸がどきんと高鳴るような溌溂とした笑顔を私に見せつけた。
「お前が色んな事が出来る意味が分かったような気がするよ。」
彼は私の頭を撫でると、やっぱり私を肩に乗せ上げた。
けれど、そこからどかどかと現場の方へと歩いて行ってしまったので、彼はフラーテルの紋章破りが出来るようになったに違いない。
「おい、何を勝手に入って来ているんですか?パラディンスキさん。」
喧嘩腰のバークがあの金の扉から出て来たが、レークスは笑顔のままバークの元まで歩いていき、彼の耳元に囁いた。
「クロエについて話し合いたい。中に入っていいか?ここでもいいぜ。大声で話し合おうか。クロエに捨てられたお前があいつを殺したのか、俺は確かめたくって仕方がない。」
「お前が人に頼んでクロエを、じゃないのか?二股されていたという事実は、あいつが俺を捨てたとしても君に泥を塗ったも同じだものな。」
二人は低い声で空々しい笑い声をあげ、バークは金色の扉を開けた。
「どうぞ。こちらの団体への資金提供はお宅ですものね。建築申請や活動形態の差異の確認を顧問弁護士として確認されたいでしょう。どうぞ。」
私はレークスの背中でプラプラ揺れながら、パラディンスキ家がパスクゥムを陥れようとしていたのか?と新しい情報に不安で心がプラプラしていた。




