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誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
木曜日は曇り空
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ジュスラン・パエオニーア

 カーテンを閉め切った理科準備室は、普通の理科教師の常勤場であっても子供が怖がる標本に溢れる場所でもあるが、ジュスラン・パエオニーアという変態吸血鬼の城となっているため悪趣味全開な場所となっている。


 骨格標本が本物なのは当たり前、人体の筋肉組織を見る事の出来る大きな樹脂で固められた標本も、勿論、標本自体が本物の人体だ。


 棚にずらりと並べられている様々な生物のホルマリン漬けの標本は、ブタの前歯と書いてあっても人間のものだし、寄生虫と書かれた白い繊維状のものも人体のどこかの部位であるはずだ。


「また標本が増えている。」


 棚には筋肉組織とラベルのある瓶が増えており、作りたてなのか赤い色が残っている標本が目に留まったのである。

 白衣を着た美貌の男は私が気が付いてくれたという風に微笑んだ。


「素敵な子だったからね。全部を失うのはもったいなくて。カモシカのように僕から走って逃げたんだよ。あれはあの子の大事なアキレス腱だ。」


「……獲物をトロフィーにするのは止めなさいよ。」


「獲物だからこそトロフィーでしょう。そんないばりんぼうするならスムージー返して。僕が飲む。」


「よし。返す。返すから今すぐ飲みなさいよ。飲めるものならね。」


 私がスムージーのカップを差し出すと、ジュスランは百歳以上生きているのも納得できるほどに顔をぐしゃりとさせた。


 吸血鬼は基本的に人間の食べ物は口にできないのだ。


「意地悪な子。そのうちに君も狩ってやる。」

「ふふ。私を狩ったらどの部分を標本にするのかしら。」


 ジュスランは青い目を蛍光カラーにも見える青色にして輝かせた。

 吸血鬼の本性の目だ。

 彼はずいっと私の方へと身を乗り出すと、私の耳元に歌うような口調で囁いた。


「かわいい君はそのままドボン。ホルマリンでどんどん色が抜けていく君を毎日眺めるのは何て素敵なんだろうね。」


 彼は私の頬を撫で始め、私はその手の甲に小型のペンライトを翳した。

「あつ!」

 ジュスランの左手の甲には小さな火傷の跡が出来ていた。

「あ、何を!君は何をしたの!」

「まあ、凄い。ジェルネイル用の紫外線でもあなたを火傷させられるのね。」


 彼は私の手元から私の武器を取り上げると、自分が怪我させられた事も忘れて目を輝かせた。


「わぉ!ちびのくせに機械を改造している。ああ、凄い。僕には大した威力も無いが、これは意外と使えるかもね。わぉ!」


 彼は私の手に私の武器を握らせると、私の頭をぐりぐりと撫で始めた。

 もちろん、彼の火傷など跡形もない。


「やめてよ。セクハラで訴えるわよ。」


「いいよ。君に恋をしたって君のお爺様に婚姻を願い出てもいい。」


「はああ?あなたは吸血鬼で私はデーモンでしょうが!」


「そう。君達は繁殖できる。実は僕達も雄だったら繁殖可能なんだよ。」


「ハーフバンパイアなんて聞いた事なくってよ。」


「うん。ハーフの赤ちゃんがお母さんのお腹を喰い破ってしまうからね。」


 この変態吸血鬼はそれも絶対に実験していたはずだと思い当たり、私は久々にぞわっと感じて彼から身を引いた。


「フフフ。君の怯えが楽しい。ああ、君と一緒の生活は楽しそうだ。ねえ、君と新たな生物を作るのはどうだろう。なかなか死なないデーモンならば、僕のご飯に毎日血を少しだけ貰っても大丈夫だろうし、うん、僕が人間を狩らなくなったとしたら、それは世界平和的じゃないかな。」


 私は変態の本領発揮に対し、脅えてスムージーのカップを落としてしまった。

 カップは変態の机を緑色に染め、私は彼に謝るよりも乾いた笑いを出していた。

 カップからべちょりと人体の一部らしきものが出て来たのだ。


「ふふふ。いい加減に煩くてね。人の嫌がることはしてはいけませんって、それは社会生活での大前提でしょう。」


 彼はスムージーで緑色に染まった肺の一部を指で掴むと、それをそのまま自分の口に入れてごくりと一飲みをした。


「うん。ビタミンもたっぷり含んでいてジューシー。」

 吸血鬼は人肉が入っている料理ならば口にできるのである。

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