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誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
水曜日は危険がいっぱい
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レークスの家にある父親からの預かり物

 パスクゥムの町中にある赤レンガ造りのアンティークな三階建てのビルが、弁護士レークスの事務所兼自宅である。

 二階が弁護士事務所となっており、三階が全て彼の個人スペースである。

 では一階は、というと、画廊と不動産会社事務所と宝石屋が入っている。

 全部彼の店でもあり、私的にはパラディンスキ家のマネーロンダリングもここで行われているような気がしている。


 ちなみに、不動産会社事務所で働くスーツを着た従業員は彼の私兵だ。


 このビルは三階程度にもかかわらずエレベーターもあるが、レークスは私の手を引いて内階段を上がり始めた。

 古いビルのせいか階段の段差は高く、八歳児の足には高くて困難に感じた。

 彼の車から降りた後に彼は私を抱き上げようとしてきて、それを私が赤ちゃんじゃ無いから嫌だと騒いで断った嫌がらせのような気がするほどだ。


「足が長くて羨ましい事。」


 レークスはハハっと笑うと私を再び抱き上げた。

 私は何の問題も無いとレークスの首にしがみ付いた。


「可愛げがあるんだか無いんだか。」


「ご、ご親切にありがとう。それで、あの凄い石のイヤリングはあなたの店で用意したものだったのね。」


「ああ。親父が小さいが血の雫みたいな形で揃っているあのピジョンブラッドを気に入ってね、イヤリングにしたいって言うからさ。新しい愛人にやるかと思ったが、お前にだったとは驚いたね。」


「新しい愛人?」


「ああ、ゲテモノ食いここに極まるって相手だよ。さあ、俺の部屋だ。」


 屋上まで階段は続くが、三階までの階段を上がって広がる踊り場はマンションのオートロックエントランスのようになっている。

 レークスはリモコンキーで最初のガラスドアを解錠した。

 ガラスドアを開けると狭いがエレベータ―サイズぐらいのスペースがあり、ガラスドアの対面には鉄が入っていそうな頑丈そうで高級そうなドアがある。

 彼はスペースにり込むと、抱いていた私を下に降ろした。


「抱いたままでも良かったかな。カメラがあって、来訪者の顔を映している。」

「うわあ。密会した証拠が残るからあなたを絶対裏切れないって事ね。」

「そういう取り方をしたのはお前が初めてだよ。」


 彼は鼻で笑うとは頑丈で高級な玄関ドアを開けた。


 ドアが開けば彼のプライベート空間だが、ざあっと室内から流れ込んで来た嗅ぎなれない匂いに、私はうげっとなりながら鼻を押さえた。


「どうした?」

「嫌なにおいがする!帰る!」


「可哀想なエージ。あいつの気持ちが解って来たよ。一緒に住めると娘が喜ぶどころかヤニ臭いから嫌だと騒がれたあいつの気持ち。」


「だって臭いんだもの。この匂いは何?人でも殺して乾燥させているの?」


 レークスはハッと何かに気が付いたような顔をすると、私の手を引いて室内にずんずんと歩いて行った。


 彼が向かったのは彼の書斎だった。


 法律用の本や書類がぎゅうぎゅうに詰まっていて、それも全部彼が読んだり使ったりしているだろう様が一目で解ることに、レークスが本当に弁護士として働いているんだと妙な関心もしたが、彼の書斎には一歩も入りたくないと戸口に私はしがみ付いた。


「ああ、やっぱりこいつか。俺には匂いなんか感じないが、死霊が見えるっていうお前なら感じるんだろう。親父こそこれを調べろって持ち込んだのだからね。」


 レークスの机には真っ黒なビロードが敷かれており、その上に真っ赤なルビーを中心にしたデコラティブなネックレスが無造作に置かれていた。

 大きなルビーを中心に小さなダイヤがゴテゴテしく飾られている。


 目で普通に見るのであれば。


「これが人の死体の臭いだって?ルビーもダイヤも本物じゃねえ、イミテーションのガラスだがな。コスチュームジュエリー、知っているか?」


「コスチュームジュエリーは知っているけど、それはガラスじゃ無くてよ。」


「すごいなあ。宝石も鑑定できるのか。」


「笑い事じゃ無くてよ!よく見て!そして、乾燥しきったそれを鏡に映すかして良く見て!」


 レークスは鼻の付け根に皺をぎゅっと寄せたが、直ぐに書斎を出て来た。


「お前は小さな鏡を持っていないか。」

「赤ちゃん服の私には何もないの。」

「使えねぇ。」


 彼は私を書斎前に残して廊下をずんずんと歩いて去っていき、おそらく洗面所の方と自分の寝室を一・二分ほど行ったり来たりしてごそごそとしてからだが、再び書斎の方へと手鏡を持って戻ってきた。


「これで映せばお前や親父が見えていたものが見えるって事か?」


「わかんない。私の目でもコスチュームジュエリーに見えるけど、死霊を見る目だとそれが違うものに見えるから、もしかしたらってだけ。鏡で無理だったら、目を瞑って素手で触ったら、もしかしたら。」


「うげぇ。鏡で判ればいいねぇ。」


 彼は鏡をジュエリーに翳して、うげぇぇと声を上げた。

 死体を鉈でバラバラにしたらしい魔物にしては人間並みの感想である。


 ルビーは乾燥しきった人間の肝臓らしきものをバラバラにしたもので、金の鎖は乾燥した血管と神経線維をより合わせたもの、キラキラダイヤだったものは削られた骨の破片、なのかな? 


「どうして俺に預けたんだ?親父こそこれが何かわかったんだろう?」


「それは術具かもしれないから、奪って隠したかっただけ、とか。」

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