バークの告白
バークは私の姿がリリーには見えても、リリーには声が聞こえない位置にまで私を連れて行った。
そして、すぐに話し出すかと思ったが、彼は左右をきょろきょろと見回すだけでなかなか話始めようとしない。
「あの、話が無いのなら帰っていい?ママが待っている。」
「あ、ああ。そうだ。ごめん。ええと、君はエージの娘で、ヴェイレム・パラディンスキの孫で確かだよね。」
「――ええ。?」
「あのさ、君の顔はパラディンスキ家の顔だ。それは一族でドンに近い親族を現わしている、そうだよね。」
「ええ、そうですけれど。」
「じゃあ、君はパラディンスキ家の親戚の顔は全部知っているかな?」
「知っていても、犯罪を犯していたとしても、私が親族を売るわけありませんでしょう。」
私はバークのわかんなさと、彼が私と話したいのはこんな事しか無いという事実への情けなさで、彼に対して鼻を鳴らして答えていた。
「はは。怒らせちゃったか。君は全校集会の時にも俺に対して敵対の意思を見せていたものね。ああ、家族思いの君には保安官の俺は敵対者かもしれないが、俺は心配な人の安否だけ知りたいんだ。」
「安否?心配な、方?」
「ああ、君が知らないなら構わないが、君によく似ている綺麗なお姉さん。ええと、クラブって言っても子供の君にはわかんないか。ちょっと派手なお洋服が好きで、いつもキラキラしたクラッチバックを持っていて、ええと、君の学校のジュスラン先生と仲が良い女の人。知らないかな?」
目の前にいます、と言えない。
フラーテルの暴徒への報復を嫌でも目にしたはずの彼なのだ。
彼はとうとう私を血祭りにあげるつもりなのだろうか。
「あの、その人の名前は?」
「俺が知るわけ無いでしょう!」
バークの声はちょっと裏返っていた。
彼は数咳ほど咳をしてごまかすと、私を真っ直ぐに見つめた。
「ごめん。脅かすつもりは無かった。あの、君はさ。」
「私は?」
緑がかった黄色の瞳は光の加減か今日は緑色の方が強く、焦げ茶色の髪は太陽の光を浴びてチョコレート色に輝いている。
私を見つめる表情は初めて見たほどに柔和で、この顔はきっと愛犬ブランに向けていたものだと私は前世のブランを羨んだ。
「君こそブランの生まれ変わりなんだろう。」
私は何を言っているの、とバークに言わねばならないのに、声が喉で詰まってしまって、そして勝手に頭がこくりと肯定の頷きなんてしてしまっていた。
「ああ、やっぱり。君がブラッドハウンドに化けたってリンドンが言っていた。君は八歳だ。ブランが生まれ変わっていてもおかしくない年頃だ。ああ、あの子は君の身の上を知って俺に助けを求めて来たんだ。ああ、そうに違いないって思ってね。だが、それは君の一族を裏切ることでしょう。だからさ、ブランが君だって言えるわけ無いから自分だって言って。ああ、そんな健気な子に俺は酷い事を言ってしまった!」
私は目の前のバークが言い出して来たことに茫然としていた。
そして必死に弁解を続けているバークは、本当に必死な目を私に向けた。
「あの子は無事なのか?昨日の騒ぎでパラディンスキ家の女達にも色々と会ったが、あの子の姿が見つけられなかったんだよ!」
私は一昨日のバークと目の前のバークの温度差にただただ驚いており、でも、彼が本気で私の身を案じている様子は良く分かった。
もしかして、呪いが無いとこんな感じで事態は好転していくものなの?
「誰に聞いても彼女の事を知らないんだよ!まあ、敵対している俺に話す事も無いだろうけどね、心配なんだ。君は知っている?」
誰に聞いても、という所で私はぞわっとした。
私の行動がパラディンスキ家に漏れたら私は殺されるかも。
それで、監視のためにエージがリリーに結婚を?まさか!
「ジュ、ジュスランは何て?仲が良い彼に聞いたりはしていないの?」
「俺が聞けるはず無いでしょう!嘘ばっかりじゃないか!あの男は!」
先ほどよりも裏返った声を出した事で、バークがいろいろとジュスランに私の事を尋ねていたらしきことは想像できた。
そして、ジュスランの嘘でバークが散々に振り回されていただろう事も。
あいつが子供達を無情にも突き放して見捨てていたのは、バークを揶揄う事に夢中だったからに違いない。
「ああ!俺はあの子の名前も知らない!教えてもくれないんだ!あの男は!」
ローズとは答えられないだろうが、ジュスランが適当な名前をでっち上げなかった事には感謝していた。
ウーパー・アホロートルなんて言い出していたら絞め殺す所だ。
でも、名前、どうしよう。
そこで、私はエージが放っておいた雑誌の表紙モデルの名前を思い出した。
金髪に緑の瞳の幼さの残る顔立ちをした彼女は全裸だったが、金粉を塗った体には光沢があってSFのヒロインみたいで綺麗だって思ったのだ。
「ええと、ミスティーが無事だったら。ええと、あなたはどうしたいの?」
「謝りたい。あ、ミスティーと言うのか!ああ、ミスティーに会って謝りたい。散々怖い思いをさせたねって。」
私はバークを見上げて、探してみる、と彼に答えていた。
それしか言えなかった。
だって、どうしていいのかわかんなかったのだもの。
けれど彼はとっても嬉しそうに笑うと、私にメールのアドレスと番号が書いてある彼の名刺を手渡した。
「連絡して。ミスティーの事だけでなく、君に怖い事があったら、いつでも。君に何かあったら俺が守る。あの子は君を守りたかったんだ。俺こそ君を守るよ。」
私は手に持った名刺を胸に当てると、空に向かって大声で泣き叫んだ。
「うわああああああああ。」
気持ちが高ぶった犬が空に向かって咆哮をあげるように。
私はバークに抱きしめられ、私はバークの腕の中で泣きながら、私を守ってくれると誓ってくれたこの人を絶対に守ろうと誓った。




