デーモンにも学校
朝食が終われば学校だ。
いくらデーモンでも、いや、モンスターだからこそ人間の生活様式にのっとって生活していかねばならないのだ。
さらに言えば、リリーは自分が愛人をしている相手がデーモンだと知らない。
ということは、私がハーフデーモンなどとは夢にも思わないのであるからして、私をスクールバスに乗せることは考え無しの彼女でも考えるまでも無い正しい行動ともいえる。
ただし、彼女は初めての学校の日に、愛情深い母親らしく私を彼女のメルセデスで送り届けた。
尻込みをして今後の通学にスクールバスを選んだのは私の方だ。
母親と別れる事を嫌がる子供達の姿を目にした事で、私はあれを毎日彼女にできないと認めるしかなかったのだ。
リリーは私にとっては唾棄すべき存在でもあるが、私の前世を殺したエージ・パラディンスキを破滅させるための手駒として使わねばならない。
彼女には私を可愛い娘と思い続けて貰わないといけないのだ。
ああ、いけない。
それならばドンの真似事をして彼女に不快感を与えたままではいけない。
「あの、ママ?私はチョコ入りのフレークだけが食べたいの。チョコフレークじゃ無いとご飯を食べない。」
リリーはパッと表情を明るくすると、私の額をつんとつついた。
「もう!この我儘さん。」
笑顔になった彼女は私の為にコーンフレークを用意するべく、くるっと体の向きを変えると台所を立ち動きはじめた。
「でもね、ママはあなたにちゃんとしたたんぱく質も取って欲しいの。」
殺された人間の死体の残った部分は、乾燥させた後に粉にして家畜の餌に混ぜ込まれて処分される。
私はそれを知ってからベジタリアンだ。
「ああ、そうだ。新しい保安官に変わったのは知っているわよね。今日は学校でご挨拶してくれるそうよ。凄くハンサムな人なんですって。楽しみね!」
私はリリーの言葉に理科の教師の言葉を思い出していた。
ジュスラン・パエオニーア。
奴はパエオニーア家の吸血鬼の一人であり、外見だけは金髪に青い目という女王様のエリザベス・パエオニーア譲りの美貌ともいわれている。
そんな彼は医師免許を持っている事を良い事に、学校の先生をしながら子供達の血液採取をして飲んで喜んでいる変態だ。
変態の奴は私の血こそ飲みたいようで、とっても、それはもう嫌になるほど気さくに私に話しかけて来て、私の知りたくないが知った方が良い町の暗部を色々と語ってくれるのだ。
「新しい羊飼いが来たけどね。彼はなかなか出来る男だよ。本気で狼を狩るなんてね。君も気をつけなさいよ。君はまっくろくろすけだから。」
ティリア家のろくでなしが最近一人消えたのはそのことなのかな、と考えていたらバスのクラクションの音が鳴った。
「あら、時間切れね。ママ、行ってきます。」
「まあ!朝ご飯はどうするの!」
「ジュスランに貰う。」
あいつは彼に夢中な同僚から欲しくも無いスムージーを毎日貰っている。
それで私の腹を収めよう。
「まあ、ジュスランって、そんな先生を呼び捨てにして!でも、あのジュスラン先生とあなたは仲良しさんになったの?素敵ね。今度ママからもお礼をしなければいけないわね!」
血を抜かれたいならばどうぞ、そう言えないのが辛い所だ。