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誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
月曜日は誰もがアンハッピーな日
23/96

スクールバスと転入生

 寝不足にふらふらとなりながら授業を受けていた私は、右肩を突かれたそこではっと意識を取り戻した。

 私をちょこんと突いた人はリサで、彼女の隣にはシルビアがいた。


「ほら、帰るぞ。」

「あら、もう放課後でしたの。」

「あの、もうすぐバスが発車しますから、あの、一緒に行きませんか?」


 ショートだが丸っこい形になるように長めに切り揃えられた頭は大きなキノコのように可愛らしく、ベージュ色のコートに真っ赤なベレー帽を被っている所や、リサの瞳が水色に輝いている所からも、リサが朝露に濡れた可愛い毒キノコのようでやっぱり可愛らしかった。


「まあ、ありがとう。あなた方の優しさには感謝しますわ。」

「いいから行くって。面倒なちびが来ないうちにバスに乗り込もう。」


 背中に大きく狼の刺繍がある黒のジャンパーにジーンズ姿というシルビアは不良のようにしか見えないが、リサと並ぶと子供服の広告ポスターにしか見えなくなると、私は二人の出で立ちに微笑んでいた。


「そうね、ええ、すぐに行きます。」


 シルビアはバンシーとセイレーン達を警戒しているというよりも、小中高の全学年に入って来た転校生達の事を言っているのだ。

 私のクラスにはいなかったが、シャーロットのクラスにはマーサという転校生が入ったと聞く。

 都市部から大きな会社が移転してきて、その社員の子供達なのだそうだ。


 総員三十五名。


 小さな町の少子化の進む街では好ましいことかもしれないが、このパスクゥムでは面倒この上ない。

 新しい住人がパスクゥムの異常性などに気が付いて呟いちゃったら大変なことが起きるかもしれないのだ。

 また、新たな転入者がどこと繋がっているのか調べを入れる前に、新しい獲物の存在に理性が飛んで襲いかかるフラーテルがいたらどうなるか。


 また、今日まで転入者があると誰も知らなかった。


 この事実は、人外でなくとも気味の悪いもののはずだ。


 きっと、町の住人達は蜂の巣をつついたようにざわついている事だろう。


 私が眠たい頭でグルグルと考え事をしている間に私達はスクールバスに辿り着き、そして乗り込んでみると、この間の保安官事務所見学組は親友同士のようにバスの後部座席にきゅっと固まってしまった。


 新参者が低学年だけでも十一人いたのだ。


 珍しくバスが満杯だと見回すと、バスは私達を乗せて走り出した。


「子供達は静かね。」


「ああ、気味が悪い程にね。あたしのクラスでもあんな感じだった。人形みたいに、笑顔だけど動かない。」


 私はシルビアの言葉に再び新入生たちを見返し、彼等が微笑みだけ浮かべてバスに揺られている姿が壊れた人形のように見えた。

 そんな子供達は誰かがぽつりと口ずさみ始めると、全員がその同じメロディの歌を口ずさみ始め、その様子にぞっとした私は思わず耳を塞いだ。


「いけないわ。みんな耳を塞ぎ……、あなたはこういう時は素早いわね。ああ、シルビアも、さすがに、狼。」


 年配の女性の口調で言い放ったのは、一皮むけばババアのバンシーである。


「リサ、あなたも耳を塞ぎなさい。この歌を聞いたら頭がおかしくなっちゃう。」


 私とバンシーの喧嘩を覚えているリサは真っ青な顔でうんうんと頭を上下させ、シャーロットの言う通りに耳を塞いだ。


「セイレーンは何をしているの?」


 耳も塞いでいないが必死に座席でもぞもぞ動いているセイレーンについて、私は現在監督官らしいシャーロットに尋ねた。


「あの子達は準備中。あの子達の耳には瞼みたいに蓋があるって知っていた?海に潜って獲物を取ったり船を沈める悪さをするから、水が耳に入らないように密閉する事が出来るの。」


 私は知らないと首を横に振るしかない。

 両手で耳を塞いでもむかむかする音律は私を不安に追い込んでいるのだ。

 本能的の行動だが、この状態に対してシャーロットはしっかりと何が起きているのかわかっているようで、シルビアにこそこそと作戦会議らしきものを耳打ちしていた。


「だめだよ。あたしはリサを置いてどこにもいかない。」


「そう。じゃあ、バスの窓を開けてアリスとヘイリーだけは外に出す手伝いをしてくれる?」


 私はアリスとヘイリーを見返して、彼女達がコートどころか服までも脱いでおり、変化して空を羽ばたく準備をしているのだとようやく気が付いた。


「シャ―ロット。昼日中の街中で変化させるぐらいに私達は危険なの?」


「はあ?この歌は洗脳の為の歌よ。フラーテルの私達にはそれほどでも、ほら、リサはもう落ちている。それから運転席のミラーを見てごらんなさいな。」


 私はリサがすでに耳を塞いでいないばかりか、他の子供と同じように同じ歌を歌い出している姿を認めた。

 それからバスの運転席のミラーを遠目で覗けば、鏡にはトランス状態の運転手の顔が映っていた。


「あたしたちはどこぞに連れて行かれるって事だ。」


「だから逃げられる人は逃げてって言っているじゃ無いの。」


「シャーロット!あたしは!」


 がおっとシャーロットに怒鳴りかけたシルビアの肩を私は抑えた。


「シルビア。あなたは逃げて。私がリサの面倒を見る。それは約束するわ。」


 しかしシルビアは怒ったようにちっと舌打ちをした。


「あんたらはあたしより年下だろう!」


 シルビアは年上でも、私はハーフでもデーモンだし、シャーロットは純粋なバンシーであり、私達の方がシルビアよりも戦闘能力は高いはずだ。

 私とシャーロットは互いに顔を見合わせて互いの意思を目線で交わすと、同時にシルビアに向かい合った。


「な、なんだよ。」


「そろそろよ。窓を開けて下さる?アリスとヘイリーを逃がさなきゃ。」


 シャーロットは数秒前など無かったようにしてシルビアに頼んだ。


「あ、ああ、そうだな。」


 シルビアはガタンと大きな音をさせて窓を全開にした。

 すると、アリスとヘイリーは我先にとその隙間から飛び出して、大きな羽ばたきと共にバスから逃げて行った。


「よし、あいつらは逃げ、ああ!」


 私はデーモンの馬鹿力でシルビアを窓から突き落としていた。

 彼女は落ちながらもクルンと身をひねって安全な道路わきに着地し、私達に対して殺してやる的な指のサインをするとそのまま駆け出して行った。


「これで助けは絶対に来るわ。」


「どうかしら。悪運だらけのデーモンと一緒なのだもの。」


「あなたが水曜の夜に私の家の前でバンシー泣きなんかするからでしょう。」


「土曜の夜にも重ね泣きしましたの。日曜は如何でした?」


「日曜の物凄い不幸もお前のせいか!」


 シャーロットと私が諍いをしている間にバスは目的地の敷地への乗り上げ、私達のバスはパスクゥムの新住人達に囲まれた。

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