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誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
日曜日は休息日
22/96

八歳で朝帰り決定

 自分がヴィクトールだと自己紹介した保安官は、コーヒーも飲まずにジュスランの家を出て行った。

 ヴィクトールに嘘吐きと罵られて取り残された私は、大きなソファに沈み込んで座っているしかなかった。

 目の前では盗聴盗撮していた変態が絨毯に転がって笑い転げている。


「もういい加減に笑うのは止めて。私も家に帰りたいから送ってくれる?」


「ハハハ。いや、今日は泊っていきなさい。明日学校でテンちゃんと交代すれば良いでしょう。ハハハ、そうかあ、君がお犬族よりお犬変身が上手なのは、君の魂が元お犬様だったからかあ!」


 私は大きな失恋と、それからバークの中でも大事だったらしいブランの記憶までも汚してしまったようで涙が出そうだったが、ジュスランのからかいのお陰で泣かないでいられた。


 いや、笑わないでと怒鳴ったり、自分が情けないとちょっと涙していたので、バークが私を嘘吐きと罵って去られた時よりも気持ちが軽くなっていた。


「帰りたい。」

「どこに?」

 私はジュスランを見返して、犬舎、と答えた。


「犬の時の方がここよりも幸せだった気がする。毎日食べられないかびくびくする必要も無いし、犬だったら毎日ゴロゴロしていればいいのだもの。」


 ジュスランはようやく立ち上がると私の元に来て、そして、私の両脇に両手をかけると私を子供のようにして彼の腕に抱き上げた。

 私は彼に抱き上げられながら体を子供に戻して彼の腕の中に納まった。

 ワンピースも肩からずり下がってしまったが、お包みに巻かれて母親に抱かれる赤ん坊のような気持ちにもなって彼の胸に身を委ねた。

 彼の腕の中が物凄く安心できる事を不思議に思いながらも、私はこのまま彼に食べられても良いのかもしれないと思いはじめていた。


「落ち込まない、落ち込まない。僕は君の魂がお犬様で良かったよ。君が可愛い訳がわかった。君は生きることに純粋で、すぐに人を信じて、そして考え無しの怒りんぼうだ。こんな怖い僕に無防備でいられる赤ちゃんは僕には珍しい。」


「ありがとう。でも、どうして私が子供の姿に戻る事を邪魔したの?私はどうせ嫌われるなら、全部真実を伝えたいって思ったのに。」


 私は嘘では無いと全部の真実をバークに見せるつもりだった。

 生まれ変わりの八歳児なのよ、と。

 けれど、その時にジュスランはコーヒを持って居間に戻って来て、バークに驚いたかと言って大笑いして見せたのだ。

 これではせっかくの告白もバークには単なる茶番でしかなくなると、私は変身を解くことを止めたのだ。


「そうだね、それは今度、というか、君は彼に二度と会わないって言っちゃったじゃ無いの。だからだよ。狭い町だ。保安官の職務は町の見回りでしょう。子供の姿の君ならば普通に彼にごきげんようと言えるでしょう。」


「ふふふ。そうね、あなたは本当に素晴らしいわ。」


 私は再び涙を零し、ジュスランはやはり赤ん坊にするように私を揺すってあやし始めた。


「よしよしいい子だ。まだまだ小さな君はバークに全部を晒してはいけないよ。彼は連邦保安局のGOMDだ。お国の秘密組織の一員である彼に、無防備に全てを晒すのは自殺行為だ。」


「なあに?ジーオー?秘密組織?」


「ガーバメントオブミュータントディスポーサル。僕達を狩る組織だよ。」


「まあ!そんなものがこの国にあったの?」


「そう。大昔からあるよ。この国では連邦局に組み込まれての活動みたいだけど、ああ、なかなかいい活動をしているよ。ふふ、バークはね、その魔族を狩ることのできる軍団の一人なんだよ。」


「まあ、それじゃあ、彼がこのパスクゥムに赴任してきたという事は、国がとうとうパスクゥムに手入れをしようとしているってことなの?ああ、それでどこもかしこもピリピリしているのね。ドンが招集をかけて息子を呼んだのはそのためね。でも、私をいたぶるばかりでそんな重要な話し合いは無かったわ。私は話し合いの内容こそ聞きたくて、今日は我慢してドンの膝に乗っていたのに!」


 ジュスランは素敵と騒いで私を振り回した。


 きゃあ、大人服が子供の体から抜けてしまう!

「わあ。服が!服が!」


「もう、お間抜けさん。でも賢い子。君は本当に何でもぶち壊している。君はドンに耳を切られるその時に、どんな事を言っちゃったのかな?どんな流れがあったのかな?」


「え、えと、ああ、バークの三年前に殺された婚約者の事を言った。それから、エージが私を狙っているという事を知っているって言って、で、あなたの一番のお気に入りだわと言って見せた。」


「そしたらブスリか。判り易い。バークは三年前の殺しを探る格好でパスクゥムを動き回り、君がエージに食べられそうだと当てこすりをした事でデーモン一族内での統率の乱れに脅え、か。はは、これはねえ、因果応報って奴でしょうね。食べたかったら食べて身内の数を減らしていた一族なんて、信頼も何もない恐怖政治だけですものね。ハハ、君は判り易いデモンストレーションの道具にされたんだね。お前達の死んだ兄弟の事を思い出せ、裏切ると俺が喰っちまうよ、か、ハハハ、ドンさんったら。」


「あなたが語るとドンが小物に見えるのはなぜかしら。」


「僕はとっても長生きの長老で、彼が最近の小僧だからでしょう。」


 私はジュスランに、そうなんだ!と言って笑って見せた。


 ドンが私の耳を舐めたのは、彼が私こそ脅えさせていう事を聞かせるためだったような気が急にした。

 人間の親達が言うことを聞かない子供に対し、悪い子はブギーマンに喰われてしまうよ!と脅す時のように。


 我が家はブギーマンよりも怖いデーモン一家だからああなるの、かな?と。

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