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誰の為にも鎮魂の鐘がなる  作者: 蔵前
木曜日は曇り空
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パラディンスキ家とこの町

 パスクゥムという名の田舎町は、信心深く道徳的な住民によるものか親和性が高くとても平和だ。

 大きな企業を経営している一族が三家族もここをホームタウンにしている事もパスクゥムを住み易い町にしている理由であろう。


 我がパラディンスキ家にパエオニーア家、そして、ティリア家だ。


 この三家族が多大な寄付を町につぎ込むお陰で、町は福祉関係も充実しており、都市部へ行ってしまった若者は、都市部での生活には住居費も高い税を払う事も必要であることを初めて知り、さらに高額医療費の為に簡単に病院に通えない実情を体験することになる。


 よって、彼等は数年しないでこの町に戻ってくる。


 まあ、この三家族が工場や働く場所に、そして巨大ショッピングセンター、さらに言えば若者が好きそうなアンダーグラウンドな店までも用意してあるのだ。

 町の若者が出戻るどころか、彼等は次々と友人知人迄町に移住させてくる。


 ただし、町の人口はそんなに膨れ上がることは無い。


 町の名がラテン語で牧場を意味している通り、この田舎町は牧畜が盛んでもあるが、本来の意味は三家族の為の畜産場だ。


 デーモン族のパラディンスキ家、吸血鬼のパエオニーア家、そして、人狼のティリア家のディナーの為の町なのである。


「あら、食べないの?ローズ。」

 私は朝食の皿の上に乗っている目玉焼きに大きく溜息を吐くと、今世での母親であるリリーに向かって右眉をあげて見せた。

 青い目に金髪という美しいお人形の外見そのものの女性は頬を赤く染めた。


 リリーは私のこの仕草が大嫌いなのだ。


 これはパラディンスキ家のドンであるヴェイレム・パラディンスキが下の者に対して良くやる仕草なのである。


 そして、この仕草の真似ができるのはパラディンスキ家では私だけ。


 純粋なデーモンで無い私が一番デーモンらしいと彼はお気に入りなのだ。


 私と同じ真っ黒の髪に真っ黒の瞳、そして、誰もがうっとりとするような美貌を持った三十代にしか見えない男は、滅多に外に出ないが外で起こっている事は何でも知っている。


 外に出る時は年相応に見える老人の姿に変化するが、貴族めいた鼻の形も彫りが深く長いまつ毛で飾られた瞳も皺や老年で魅力が隠せるものではなく、彼はその姿でも誰をも魅了して狩りもしている。

 男も女も両方いけるとは節操がなさすぎるが、純粋に餌としての狩りなのだとすれば性別に拘ることこそ無意味なのかもしれない。


 そんな魔物が八歳になったばかりの私にご執心なのだ。


 私はそのうちに彼のディナー皿に乗るのでは無いのかと警戒しきりだが、彼はそんな私の心情を知っているからこそ気に入っているという変態だ。


「ああ。私の子も孫もぼんくらばかりだが、ローズはデーモンの矜持を持ち得ている。誰をも信じず誰をも破壊に導ける。なんて素晴らしい性質だろう。」


 一族全員が集まる食事会でそうぶちまけられた日には、私はこの男は全て知っていて私を試したのかと邪推したほどだ。


 いや、知っているかもしれない。

 知っていて私を煽っているのかもしれない。

 血統書付きの犬の血統を守るように、ドンは望む性質を持たないデーモンを粛正して減らしたいと考えているのかもだ。


 だって、彼は血も涙もないデーモンそのものなのだから。

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