ジュスランと教会の関係
ジュスランは自分の車に私達を案内すると、バークを助手席に押し込み、そのバークに私を押し付けた。
「抱いておいて。二人乗りだもの。この子の居場所がない。」
それから運転席に乗り込んだジュスランは、意気揚々と鼻歌まで歌いながら車を発車させたのである。
そして私は彼の車があの古いムスタングで無かったことに驚きだ。
ただし、これでもかと銀色に輝かせた最新型のコルベットは特注品だろうと誰もがわかるほどに神々しいものであり、バークの瞳さえも「俺も運転したい。」という風に物語ってしまう程である。
ジュスランはシチェーションごとに自分を演出しているのだろうか。
学校では白衣姿でおしゃれに無頓着だが、祖父から貰った古い車を大事にしている心優しき青年。
トートゥス・トゥースのオーナーになった時は、最新型の高級車を運転し、ブランド品や貴金属を身に纏った軽薄で人でなしの男。
では、吸血鬼ジュスランに戻った時と考えたが、大きな古いマスタングも元はスポーツカーとして売り出された車であり、このコルベットこそスポーツカーだと気が付いた。
ジュスランって普通の男の感性を持っているのでは?
このコルベットには一滴の血のシミも無いのだ。
汚れ仕事はマスタングで、彼はこの車を宝物のように使っているのか?
車は私の物思いに返事をするようにしてきゅっと止まり、しかし、普通の男には出来そうもない事を口走った。
「バーク。教会に行って聖水で顔とひっかき傷のある腕を洗っておいで。そのまま帰ってしまってもかまわない。まだこの車を手放したくないんだよ。この車に死体を積むときは新車が出て買い替えの時って決めているからね。」
ジュスランはきゃはっという風に笑顔を見せ、市民を守る立場のバークは殺してやりたい視線をジュスランに浴びせた後、意外と素直に車を降りて教会へと入って行った。
おそらく、バークは考え違いをたった今ジュスランにさせられた筈だ。
「さあ、バークのいない間にワンワンの扮装を解いて。」
私は素直に大人の女性の姿を作ると、ジュスランが差し出した私が脱いでいた服を身に纏った。
「イヤリングもね。」
無くしたら自分の命を失うだろうイヤリングを拾っておいてくれた事には心から感謝だ。
彼からイヤリングを受け取ると急いで耳たぶに嵌めた。
「ありがとう。でも、あなたは意地悪ね。あなたには十字架も聖水も聖書の言葉だって、それどころか教会だって全然平気なのに、あえて、わざとバークだけ教会に行かせた。彼はきっと伝承通りに人外は教会が苦手と考えるわよ。」
「ふふん。僕に対抗するために聖水を隠し持ったりね。ああ、ワクワクしてきた。僕に襲いかかられて聖水が効かないって知った時の彼の絶望の顔、ああ、楽しみだ。絶対にばらしちゃだめだよ。」
「ばらさないけれど、えと、やっぱり襲う気持ち?」
「彼は完全に異性愛者でしょう。まずはその意識改革もしてみたいなあ。」
「いしきかいかくって。」
「僕に恋をさせる。恋をした彼は完全に僕を信じて、でも、僕を信じてはいけないって葛藤を彼は抱いて苦しむんだ。僕はそんな彼を見守り、彼はそんな僕を知って僕を選ぶんだよ。そして、僕を信じることを決めたその時に、彼は僕に虫けら同然に殺されてしまう。ああ、凄く素敵な狩りになりそうだ。頑固な彼だったら一年は遊べそうだ。」
私はごくりと唾をのんだ。
私はこの所ジュスランを頼りっきりだ!
このままじゃ、狩られる、狩られるぞ!
ジュスランは私が目を白黒させた事に嬉しそうに目を細め、私の頭をさらっと撫でた。
「君は君が大人になった時だ。本当にこの姿に成長するのか、変わった姿になってしまうのか、それも確認したいからまだまだだよ。」
「ジュスラン。」
絶対に狩るがまだ食べ頃じゃないだけだと言われているだけだが、大人になるまではジュスランが守ってくれると約束してくれた気がして、私は少しだけ涙腺がうるっと緩んだ。
エージにもドンにもいつ殺されるかびくびくして生きてもいるのだ。
そう、私がエージに前世の復讐をしたいのは、自分が生きていたいという重要過ぎる命題の為こそなのだ。
親殺しが出来る子供ならばドンはデーモンとして認め、私を食べることには躊躇してくれるかもしれない、という希望だ。
あんなに性衝動が強く愛人も多いドンに息子が六人に孫が二十三人しかいないのは、人間と変わらない子や孫はドンや息子達のディナー皿に乗ったからだ。
「おい、俺はどこに乗ればいい?」
私はびくりとして助手席の窓から外を見上げた。
バークはシャワーを浴びたばかりという風で、髪には雫が滴っている。
わぉ!額を出した彼は額と鼻の素晴らしい形が際立ち、いつもよりも貴公子然として見えた。
イケナイお店探検用であるのか、保安官スタイルではなく黒シャツに黒のサテンパンツ姿も改めて見れば格好が良い、かも。
「私が降りるから。」
私の腕はジュスランに掴まれ、ジュスランは私を押しのけるようにして窓に身を乗り出した。
「濡れた子を乗せるのは嫌だよ。君の車はここの駐車場でしょう。僕の家に来たければ僕の車を追いかけるんだね。それとも、ここでバイバイするかな?」
貴公子っぽかった男はそこらのチンピラのように顔を歪めた。
黒シャツと黒パンツは安い店の商品だという光沢を見せ、はだけた黒シャツからのぞく太い金のネックレスの鎖もそれっぽく輝いた。
まあ、貴公子が一瞬でチンピラにしか見えなくなった。
バークは反抗期の子供のように目を細めてジュスランを睨み、瞳は外灯の明りを受けてきらりと金色に輝いた。
「全部お見通しってことか?」
「いや、僕の店の駐車場に君のSUVは止まっていなかった。親にイケナイお店に行っているとバレたくない近所のお子ちゃま達は、教会の駐車場に自分の車を置いて僕のお店の前に並ぶんだよ。そういうことだよ、お子ちゃま。」
「車を取ってくるから待っていろよ!」
バークは子供の様に言い捨て、自分の車があるらしき方角へと走って行った。




